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大樟家の人達

年の暮れ

作者: さち

この作品は、自身の過去作品である「盆の後」と、関連のある作品となっています。家系図等、複雑で分かりにくいところがあると思いますが、両作品を読むことで少しは読みやすくなると思います。ほんの少しだけ、ミステリー仕立てになっています。

最後まで読んで頂けると幸いです。

 私は、この家が嫌いだ。

 毎年毎年、何故こんな田舎の辺境まで来なくてはならないのか、大人に成るにつれて私は気付き始めてしまった。

 こんな自分が、私は嫌いだ。


 クリスマスという、私には縁の無いイベントが終わりを告げると、街の雰囲気はがらりと変わり、門松や鏡餅等、お正月を迎える準備に入っていった。

 こんなに頻繁に移り変わっていく街に、嫌気すらも覚えていた。どうしてこうも、私は否定的なのだろう。

 後何日か過ぎたら、又してもあの家に行かなければならないのか。そう思うだけで、溜め息が出た。その溜め息は、目に見える白い色をしていた。






 12月30日、私は今年の夏にも来たこの無駄にでかい家に着いた。無論、自分一人で来た訳ではない。車の免許を取れる年齢ではない私は、半ば無理矢理親の運転する車に乗せられ、ここに来たのだ。いつ見ても、何も無いところである。


「お母さん、帰ったわよ。」


 母親が玄関を開ける、それに続いて父、遥香(はるか)明希(あき)、そして私の順番に入っていく。相変わらず父は、この家に来る度に怯えている。この年になって分かってきたことだが、父はこの家族に飲まれてしまうのだ。それも仕方がない。父は、大樟(おこのぎ)家の人ではないのだから。

 父は、祖母に挨拶を済ますと、奥の部屋にある仏壇に向かった。私たち三人も、父と同じ行動をする。

 線香が四本あがった仏壇に、四人で手を合わせる。


 少しすると、色々な家族が集合してきた。こうなると、この家は、私にとっては居心地の悪いものになってくる。

 毎年見る親戚の顔を、つまらない顔しながら見つめる。大樟家の伯父と父が挨拶を交わしている。どうしても、父は腰が低くなる。






 昔は少しだけ、ここが好きだった。ここと言っても、この家じゃない。家の周りの自然だ。

 三家の従兄弟同士、毎年外に出ては、川に行ったり、山に行ったりしていた。ほんの数年前の記憶なのに、どうも遠い昔に思えて仕方ない。

 だけど、今思えば、そんなに外で遊ぶことはあの頃から好きではなかった。付き合わされているという感覚があった。

 どうして、私は素直になれないだろう。


 皆が車から荷物を下ろしている。その中に明希の姿も見える。遥香は、菊川家のお嬢さんとお喋りをしている。どうして私だけ、この家に溶け込めないんだろうか。私が何かをしたのだろうか。いや、恐らく何もしてないからこそ、なのかもしれない。どうしても、ここの大人たちの雰囲気が好きになれない。どうして、そんなにどうでもいい事を長々と話せるの。他に話す事は無いの。年に二回もあってるんだから、別にいいじゃない。教えて、何が楽しいの。

 私は気付くと、マフラーとコートを着て、玄関を出ていた。






 寒い。それもそうだ。私は昔よく遊んだ河原にまで来ていた。

 ここが好きという訳でもないのに、自然とここに来ていた。けれども、ここにはもう一人、先客がいた。


「何をしてるの、純君。」


 私の声によほど驚いたのか、彼の背中は面白い位に反応した。


「何だ、比奈(ひな)姉か…。びっくりさせないでよ。」


 何処か期待を込めた顔でこちらに向き直ったのに、私の顔を見るなり、失望にも似た顔になった。理由くらい分かる。


「まだ探してるの、れいかちゃんって子。」


 ばつの悪い顔をしながら、彼は口を開いた。


「比奈姉には言ってたっけ。そうだよ。もしかしたら、あの子が又ここに、来てるんじゃないかと思ってね。」


「でも、もう来ないって言ったんでしょ。」


 私は、この従兄弟である純平から、不思議な話を聞いていた。

 私たちが小学生位の頃、いつもは見ない同い年位の女の子を、この田舎の辺境で見たというのだ。私は何度も彼に確認している。夢なんじゃないのかと。けれども、彼は頑なに、あれは現実だと言う。しかし、いくら彼が熱弁したところで、見たこと無いものを、信じる気にはなれなかった。

 

「あれ以来、一度もここに来てないんだ。どうして、来てくれないのかな。」


 はっきり言って、私にはどうでもよかった。何せ、私には関係の無い話なのだから。


「探すのはいいけど、ちゃんと夜には帰ってきてね。」


 私は彼にそう告げると、興が覚めたのか、家に戻ることにした。

 彼の探している女の子が、後でこの家族に波紋を呼ぶ事を私はまだ知らなかった。






 翌日の夜になると、ほぼ全員が集合していた。祖父の兄弟の親戚までもが、ここの家に集う。その為、物凄い数の人が一つの広間に集まるものだから、さながら旅館の宴会会場である。

 私はこれが嫌いなのだ。

 親戚に軽い挨拶をしながら、私はさっさと食事を済ませて、別室に移った。そこには、炬燵もあれば、テレビもある。基本的には誰も使わない部屋なので静かに過ごせる。

 けれど、私の束の間の一人は、部屋の扉が開く音で打ち消された。


「あれっ、比奈ちゃんもこっちに来てたの?」


「あ…、(しん)叔父さん。紳叔父さんもこっちに来ちゃったんですか。」


「まあね、俺酒飲めないし、大樹(たいき)たちの雰囲気についていけなくなるからさ。」


 そう笑いなが言うと、私の入っている炬燵に入ってきた。


「温けえな。比奈ちゃん、みかん食う。」


「あ、貰います。」


 言われるがままに、私は炬燵の上のみかんを咀嚼した。

 紳叔父さんは、母の従兄弟にあたる親戚である。そのわりには、三十代前半というかなり若い男の人である。若さを持ちながらも、しっかりと大人びていてなかなかに魅力的な人だ。


「比奈ちゃんも、もう中学生だっけ。」


「高校生です。そろそろ覚えて下さいよ。去年も言いましたよ。」


「あれ、そうだっけ。俺、夏は来れないからさ、忘れちゃうんだよね。」


 みかんを片手に、笑いながら言っている。その顔は、子供みたいで、もし私にお兄ちゃんがいたらこんな人だったのかなと、そう思えるほどだった。


「そうか、高校生か…。じゃあ、もうお年玉はいらないか。」


「それは、ずるいです。」


「はは、ごめんごめん。ちゃんと用意してあるから。」


「当然です。」


「はは、可愛いげがないな。そうだ、比奈ちゃんはもう彼氏とかいるの。」


「何でそういう話になるですか。てか、いないです。」


「ふーん、そうなんだ。勿体無いな。」


 そう言った叔父さんの表情に、どきりとした。さっきまでお兄ちゃんであったのに、突然男の人になった、そんな気がしたのだ。


「でも、比奈ちゃんなら直ぐ見つかるんじゃない。だって、俺から見ても素敵な女の子だもんね。」


 叔父さんは、既にお兄ちゃんに戻っていた。さっきの表情は何だったのだろう。






 年が開けると、一層人が増えた。昨日来れなかった親戚の人が朝になって到着したのだ。家は更に賑やかになっていく。

 私はこの日ばかりは、色んな人に挨拶をする。中には名前も知らない人もいるが、お年玉という報酬には、そんなことはどうでもいい。


「はい、比奈ちゃん。しかし、美人になったね。(つぼみ)はそんなでもないのに…。」


「何だって。」


 兄妹の会話を愛想笑いで受け流す。


「それはそうと、比奈ちゃん。うちの馬鹿息子と最近会った。」


 馬鹿息子とは、兄弟の兄の事だろう。昔からやらかしてくれる子であった。


「いや、最近は全く見てないですね。そう言えば、今日も来てませんけど、どうかしたんですか。」


「いやいや、大したことじゃないよ。気にしなくて大丈夫。」


 そんな事を言ってるにも関わらず、伯父さんの顔は不安げであった。


 一通り貰った後で、私は昨日の部屋に逃げ込んだ。そう言えば、紳叔父さんから貰っていない。まさか、逃げたか。そう思ったが、そう言う事をしでかせる人ではないと分かっていた。


「うわ、遂にばれたか。」


 叔父さんは既に、炬燵で暖をとっていた。いったい、いつからこの部屋にいるんだ。


「はい、約束通りお年玉。他の人に比べれば、少ないけどね。」


 金額よりも、この年になってまだ貰えることが、純粋に嬉しかった。確かに、金額は他よりは劣っていた。


「じゃ、俺は用も済んだし帰るとするか。」


 突然そんな事を言って、炬燵から出ようとした。


「えっ、もう帰っちゃうんですか。他の人は三日までいるのに。」


「うーん、仕事とかあるし。俺、別に独り身だし自由に生きたいじゃん。」


 そう言うと、叔父さんは炬燵から完全に出てしまった。


「そうだ、比奈ちゃん。」


 突然名前を呼ばれて、私はきょとんとしてしまった。


(けん)の奴の話、何か聞いた。」


 建とは、確か純平のお父さんだ。


「いや、何も…。」


 いきなり何の話をするんだろうと思ったが、


「そっか、ならいいや。じゃあね比奈ちゃん。また来年。」


 そう言うと、伯父さんは突然私に口付けをしてきた。とても甘い唇だった。

 その後、黙って笑うと部屋を出ていった。






 私は、この家が嫌いだ。

 けれども、毎年こうして親の車に同席して、田舎の辺境にある祖父の家に訪れる。

今回の主人公は、分かりにくいですが栂原家の長女となっています。

登場人物で疑問等ありましたら、質問受け付けます。

今後、まだ出てきていない大樟家の兄弟、柊家の謎等をやろうと考えています。

良かったら、お付き合い下さい。

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