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始まり:ドリーンは羊と対面する

普通に道を歩いていたら、落ちた。

と思ったら、バサっと、ゴワゴワした強烈な臭いのする布で覆われた。

えっ、何!?

と、ドリーンは思った。


「やったー! 生捕ったぁあああああ!!!」

〝まぬけー! まぬけな、にんげんー!”

〝こいつ全然怖くないもんねー!!”


耳を疑った。


***


ドリーンは、町のレース編み工房で働く嫁ぎ遅れの24歳である。

村で育ったが、結婚をせっつくプレッシャーが強かった。だから3年前、馬車で2時間のこの町に一人で越してきた。

手先が器用だったので、レース編み工房で働いてコツコツ毎日暮らしている。


そんな今日も、工房からの帰り。

晩御飯にと野菜を買いつつ、町の大通りを歩いていた。


日が落ちるのが早くなっている今の季節、寒くなってきたな。寒くなると、肩がこっちゃうから嫌だな。

などと思って、人に分からない程度のため息を、ついた時だった。

落ちた。


布で包まれて引きずられたのが分かった時に、パニックになった。

「何!? 何、何、何よ、何これ、臭い、誰か! 誰か助けて!!」


ズルズル、と引きずられて、ピタリと止まる。

「・・・臭いって言われた・・・」


しょんぼりとした声が聞こえた。


だって本当だもの!! 鼻がもげそう、助けて!


***


暴れていたら、やっと布がはがされた。

茫然と前を見る。


でかい羊がいた。


でかい羊がいた。じっと見ていた。羊だった。


「・・・・」

ドリーンがまじまじと見ていると、羊がすっと顔を引いて、ドヤ顔をした。

「うはははは、恐れ入ったか。僕は魔王である!」


「・・・・子どものいたずら? ファービィ? ケイト? えっと、だめよ、びっくりしたわ」

ドリーンは、村のいたずらっ子たちに思えて、子どもたちに呼びかけた。

あれ、でも、私は町を歩いていたわよね?


羊はムムっと怒ったように、頭をドリーンに突き出してきた。

「いたずらではないよ! 僕は魔王である!」


いたずらでなくて何だと言うのか。

ドリーンは、ちょっとポカンとしてその目の前の羊の頭部を見つめた。

しかし数秒後に、ウっと顔をそむけた。

「臭い・・・。ちょっと、ファービィ、いくらなんでも、もうちょっとマシな羊を使ってよ…。なぁに、何年も洗ってないってぐらいに臭いわ、この子」

「!!」

〝魔王さま! しっかりして!!”

〝くっ、にんげんめ・・・! 魔王さまをいじめるな!”


ファービィにケイトに…もう一人はスザンヌ?


ドリーンは首を傾げた。

最近村にあまり帰っていないもので、ドリーンは子どもたちを声で判別できなかった。


***


数時間後。


ドリーンは、目の前の羊がしゃべる魔王さまで、白く浮かぶフワフワと、黒く浮かぶフワフワが、この魔王さまの配下の魔物であることを、仕方ないから信じてやることにした。


「わかったわ、それでいいわよ」

と投げやりに答えたドリーンに、じりじりとドリーンから距離をとってメソメソしだしていた魔王さまは、ドリーンの言葉にパっと顔をあげて喜んだ。

〝良かったね、魔王さま!!”

〝人間が、魔王さまの家来になったよ!!”


いやー。そんな話はしていないよ?


ドリーンは思ったが、やっぱり相手のレベルが村の子どもたちと変わらなかったし口にするのは自重した。

ドリーンの一言一言を〝おのれ、毒矢かっ!”とか言われて、実は傷ついちゃっていたし。

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