プロローグ
それは何百年も昔のことである。
この国、湖白の軍人に、浅葱と瑠璃という双子の兄妹が生まれた。その双子は成長するにつれ、特殊な能力が目覚め始めた。その能力というのが、離れた場所でもお互いの知識や記憶が共有できるというものだ。それを聞きつけた王は軍人と双子を呼び寄せ、その能力を披露せよと命じた。能力は噂通りであり、王はこの能力を国のために利用できないかと考えた。
そこで臣下たちから提案があった。双子の一方を様々な国へ送り、知識学問などを国へ速やかに取り入れよう、と。また他の臣下からは、他国に一方を忍び込ませ、国を侵略しようという意見が出た。そうすれば文化もおのずと手に入れられる、と。
双子の父である軍人は、そのやり取りに口をはさめる身分ではなかったが、よからぬことが起きるのではないかと心配していた。
そしてその危惧は現実となり、やがて意見の食い違いから臣下たちに派閥ができてしまう。侵略戦争を望まない穏健派とそれに反発する過激派は日に日に衝突を深めた。互いにあらゆる手を使い王に取り入ろうとしていた。派閥の抗争が激化すると共に、国が少しずつ力を失っていった。
結局過激派が王をやり込め、隣国との戦争が勃発した。戦地への潜入は兄が、自国での情報伝達には妹が配され、思惑通りに戦争は優位に進んでいった。仲の良かった兄妹は遠く引き裂かれ、身内ながら会うこともままならない状態に置かれてしまった。
最初は国のためと割り切っていたが、兄妹はとうとう耐えきれなってしまう。年に一度、兄妹は会うことを許されていた。その折、二人は城の地下の暗い一室で寄り添うように自ら命を絶ったのである。その部屋の床には「これでぼくたちは ずっといっしょにいられる」と書いてあったという。
この騒動が起き、国は隣国への攻める術を失い、停戦協定が結ばれた。穏健派と過激派はいつまでもお互いに双子の管理の甘さをなすり付け合い、ついに国は二つに割れてしまう。こうして割れた二つの国は、いつまでも紛争を繰り返すこととなる――――。