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竜の娘は生きている  作者: 囘囘靑
第二章:泰日楼少女行
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007_爛れた街

「着いたッ!」


 ヒスイの前方で、エバがどなる。

 今、ヒスイはエバの操る箒の後ろに乗り、泰日楼テイロスへ肉薄するさなかだった。


「行くよ、ヒスイ! 上に飛ぶから、掴まって!」

「分かった――!」


 森を抜けるやいなや、エバの箒が急上昇をはじめる。上昇すればするだけ、降りかかってくる火の粉の量も激しくなる。


「見て、あれ――」


 ヒスイの目が、黒煙の奥に飛び交うものを捕らえた。それを見て、エバもぎょっとする。


「あれは……何?」

「分かんない。エバ、気をつけて!」

「もちろん! ヒスイも援護お願い!」

「任せて――」


 ヒスイはホルスターから銃を引き抜いた。その瞬間、ヒスイの脳内にイメージが流れ込んでくる。


――薄暗い建物の中で、息も絶え絶えになっている老人の影像だった。

――よろめいた彼に少女が手を貸すが、少女の手が老人に触れた途端、彼の体が灰になってしまうのだった。


「ヒスイ、あそこだよ!」


 エバに呼び掛けられ、ヒスイの脳裡でイメージが途絶える。


「どこ――?!」

「あっち! あそこの寺院にセフがいるはず!」


 ヒスイが目を向けた先には、寺院の建物が見える。街でもひときわ敷地が広いためか、まだ火の手は回っていない様子だ。


「行くよ!」

「分かった――」


 そう告げた途端、ヒスイの第六感が後ろから迫る脅威を知らせる。ほとんど無意識に、ヒスイは後ろに向かって引き金を引く。


 引き金を引いたのと、ヒスイが後ろを確認したのとでは、いったいどちらが速いだろうか? ――火の中を突き抜け、猛然と迫ってくる異形に向かって、ヒスイの銃撃がほとばしった。


 二発の銃撃は異形の羽をもぎ取ったが、それでも二人の乗る箒に食いつこうとする。


「うっ、くそッ――!」


 怪物の死に物狂いの体当たりが、箒をエバの魔力から解き放った。主を失った箒は、暴れ馬のようになって空中を跳ねまわる。


「くっそー、言うこと聞け――ッ!」

「エバ、掴まって――!」

「えっ?! ちょっ、ヒスイ――」


 エバの胴体に腕を回すと、ヒスイはそのまま箒から飛び出した。箒は放物線を描きながら、寺院めがけて墜落していく。


 宙に放り出された二人。ヒスイは建物の一つを狙い済まして、一発。銃撃で剥がれた看板は横倒しになると、建物と建物の間に即席の橋を作る。二人はその上に転がりこんだ。そして転がりこんだ衝撃で、看板は通路に向かって崩れ落ち、二人は滑り降りて、通路へと降り立った。


「――どう、エバ?」

「ハァ……ハァ……! し、死ぬかと思った――もう!」


 たわむれに、エバはヒスイの背中を叩く。


「ホント、暑すぎてヒスイの気が違っちゃったのかと思ったわ」

「ゴメンね、エバ。でも、『行けるんじゃないか』、って思ったのよ」


 ヒスイの言葉に、エバは小さく笑みをこぼした。


「なんだかそれ、ヒスイっぽい」

「――私っぽい?」

「そ。決めるべきところで、ガッツリと決めてくる感じ。いいな、ホント、かっこいいもん」

「そう? なんだか……照れるかな?」

「フフフ。……さぁ、行きましょ、ヒスイ! 寺院に行かないと!」

「ええ!」


 火の手の回ってない路地を通りつつ、二人は寺院へと駆け出した。

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