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竜の娘は生きている  作者: 囘囘靑
第一章:予章宮少女行
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002_長い夢

 それは、奇妙でおぼつかない、しかし、どこか懐かしいような、長い夢だった。


 金属どうしの擦れ合う音が、周囲を埋め尽くしている。広間の中央だけが薄明かりに照らされ、周囲は漆黒に塗りつぶされていた。


 張り詰めた空気の中で、三人の少女は身を寄せ合って、辺りを見渡している。


 薄明かりの周縁で


 邪神


 が蠢いた。邪神は、広間を埋め尽くしてしまうほどの大きさで、円を描きながら、周辺の暗闇を泳いでいる。


 少女たちは邪神に取り囲まれていた。闇の向こうで、少女たちを(ほふ)ろうと、邪神はその機会を窺っている。しかし、一片の恐怖も、絶望も、少女たちは感じていないようだった。


 闇の中に、黄色い二つの光が灯る。それは、人間の頭ほどの大きさがある、邪神の血走った目だった。炎のような輝きを瞳が帯びた矢先、邪神の頭部がばく進する。風圧にさらされ、広間のタイルが飛び散った。


 邪神の頭部が、ねらいを定める。標的は、三人のうちの一人、真珠色の長い髪をなびかせる少女に向けられていた。


 邪神の下顎が、少女の影を飲み、叩きつける――影だけを。


 三人は、その場にいなかった。邪神のはるか後方で、真珠色の髪の少女は、両手を高く掲げる。周囲の空間が、少女の心拍に呼応してよじれ、少女の手のひらを中心として、空間が渦を巻き始める。


 邪神が、少女に向けて牙を剥く。その矢先、少女は両手を握り締めた。風のうなりを前触れにして、邪神の頭部がはじける。体液が周囲に飛び散り、邪神の頭部は暗がりの向こうへと消えていった。


 暗闇が、再びどよめく。邪神の第二の頭が、闇の中から姿を現した。


 魔法を発し、隙だらけになった少女に、第二の頭部が、嵐のように押し寄せる。邪神の牙が、真珠色の髪の少女に押し寄せる。


 その瞬間――何が起きたか? 黒髪の少女が、邪神と、真珠色の髪の少女の間に、割って入った。握られた刀を、少女は翻す。邪神の頭部は花のように開き、柘榴(ざくろ)のように真っ赤な赤色が、周囲に飛び散った。


 邪神の返り血は、雨のようになって、少女たちに降り注ぐ。しかし、真珠色の髪の少女も、黒髪の少女も、血の雨を前にして、微動だにしなかった。


 金属の擦れるような音が一段と強くなる。三つ目の頭――邪神の最後の頭部が、少女たちの前に、姿を現した。


 黒髪の少女が、邪神とは反対の方角にめがけ、何かを叫ぶ。最後の少女は、そこにいた。


 血の雨を浴び、三人目の少女は、その茶色の髪が赤く濡れている。青い瞳は半眼に細められ、その視線を、邪神に集中させている。少女は静止し、その体勢を崩さない。闇に蠢く邪神が何者かを、少女は知っていた。右手を前に突き出して半身に構え、左手は口元の辺りで止めている。少女の姿勢は、弓を引き絞る姿勢にも似ていた。


 しかし、構えられているのは、弓ではない。銃だった。


 真珠色の髪の少女も、黒髪の少女も、お互い、どちらともなくうなずきあった。邪神と、最後の少女の間に、障害物は何もない。


 少女が引き金を引こうとする――まさにその瞬間。邪神が、最後の力を振り絞り、闇の光線を放った。


 何かを考える時間は、少女たちに残されていなかった。


 放たれた極太の闇が、広間全体に解き放たれる。音を、光をも、闇が呑み込んでいく。一瞬の内に、世界のすべてが、深い漆黒の中へと墜落していった。

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