彼女の仕事は完璧です
なぜ私が刑事を辞めたか知りたいだって?別に面白い話じゃないんだが……まあいい。そろそろお前にも話しておいてやろう。
あれはもう15年も前のことになるのか……私は当時、世間を騒がす1人の怪盗を追っていた。
ライバル? そんなカッコいいものじゃない。アイツの出す予告状を『1回も』阻止することができなかったんだからね。でも私は、アイツを捕まえることに成功した。
これが刑事を辞めた理由さ。
◆◇◆◇◆◇
1人の女性の話をしよう。
彼女は政治家の娘だったのだが、幼いころ両親が自殺して、親戚の家の養女となった。この親戚もかなりの資産家で、彼女は実の娘のように大切に育てられた。
察しの良いお前ならもうわかるだろう。怪盗の被害者から共通点を探していた私は、1人の女性・・・彼女に辿り着いていたんだよ。しかし、証拠がなかった。名士の娘を大した証拠もなく取り調べることなんてできるわけなかった。
結局、行き詰った私は違法捜査と知りながら、偽の予告状を送りつけたんだ。
「ご息女を頂きにまいります」
彼女にだけわかる挑戦状。彼女が逃げ出せば、彼女が怪盗である証拠になるし、逃げ出さなくても護衛と称して彼女を監視しながら、証拠を探すことが出来る。いや、今までの経験から彼女が逃げたりしないことはわかっていた。それどころか、彼女の養父母から見せられた予告状には、私が書いた覚えのない怪盗のサインが付け加えられていた。
そう、彼女は私の挑戦を受けたんだ。
全てが順調だった。一つだけ誤算があったとしたら、彼女は非常に魅力的な女性だったということだ。容姿はいうまでもないが、頭の非常に良い女性だった。意外と庶民派なのも私好みだった。彼女の作るカレーは本当においしかった。
そして、私たちは互いに惹かれていったんだ。
しかし、運命の日は突然やってくるものだ。ある大物政治家が逮捕されたニュースが流れた夜、私は彼女によばれて彼女の部屋を訪れた。
その大物政治家は、彼女の実の親を陥れた者の首謀者だった。そして怪盗の被害者はみなその関係者だった。彼女は事件の真相を調べ、その復讐を果たすため、怪盗として情報を集めていたのだ。逮捕の決め手になった情報は匿名でもたらされたものだというが、その出所はもはや明らかだ。
彼女の復讐は達成されたのだろうか?
いや、関係者はもう二人残っている。彼女は私に逮捕して欲しいといってきた。それが、彼女の養父母に対する復讐なのだという。
長い年月は人を変える。彼女の養父母が彼女を育てたのは、世間体を気にしての行為、あるいは良心の呵責からだったのかもしれない。しかし確かに今の二人から注がれる彼女への愛情は本物だった。彼女自身にも、すでに養父母に対する恨みはない。これは彼女自身のケジメなのだ。
私はこのとき初めて予告状に追加されたサインの真の意味に気付いたんだ。
それからどうなったかって?はははは、話の続きはまた今度だ。さあ、カレーの良い匂いがしてきたぞ。ママのカレーは本当においしいからな。ほら、手を洗ってきなさい。
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