救急車
救急車は、死ぬかもしれない人が乗る車です。
ある大学にて。
「ん?おい、ちょっとコレ見てくれよ」
「何だ?何を見てるんだ?…………『救急車の不適切利用』?」
「今度提出するレポートのために調べものしてたら関連情報で出てきたんだけど、ココ見てくれよ」
「『病院ごとの不適切利用率』?…………うおっ⁉何だコレ⁉この病院だけ不適切利用がかなり低いな!」
「だろ⁉数年前までは他と大差なかったのに激減してるんだよ。これきっと何か凄い対策をしてるんだと思うんだ」
「確かにな……。何をしているのか気になるな……」
▽▼▽▼▽
ある日、ある交差点で交通事故が発生。
若い男性が歩道に乗り上げた乗用車にはねられ、倒れていた。
通行人が通報し、パトカーが来ていた。
「ううっ……!」
「おい、しっかりしろ!」
「救急車はまだか⁉」
「あ、来たぞ!こっちだこっち!」
ようやく救急車が到着し、救急隊員がケガ人を乗せようとしたその時……
「うっ!いたたたたーーーっ!」
突然そんな声が響き、見ると一人のお爺さんが胸の辺りを押さえながら倒れ込んでいた。
「痛い!痛い!苦しー!俺を先に病院に連れて行ってくれー!」
ハキハキとした大きな声でそう叫び、足をバタバタさせているそのお爺さんを、その場にいた人たちは白い目で見る。
「あの人、さっきまで普通に立っていたよな……?」
「野次馬に混ざって物珍しそうに見てたし……」
「つーか、メチャクチャ意識ハッキリしてるじゃねーか……」
「俺は高齢者なんだぞー!優先するべきだろー!」
ハッキリとした大声でそう主張するお爺さんを見て、救急隊員たちは何やら話し合い……
「了解しました。幸いこちらの方は意識がハッキリしておりますし、今すぐ命に係わる状態ではない様なので、あなたを先に搬送します」
「今、別の救急車を手配しましたので、こちらの方はそちらで搬送します」
「そうか、大変申し訳ないが頼む。いたたたー!」
お爺さんはそう言いながら救急車に乗り込み、搬送されていった。
「おい、あんた大丈夫か?申し訳ないけど、もう少し待っててくれ」
「い、いえ……皆さんが謝ることじゃ……」
「何だよあの爺さん……」
「十中八九仮病だろ……」
「あんなのを乗せる医者も医者だよ……」
「確かに万が一の可能性はあるけどさぁ……」
「救急車不適切利用、リアルで初めて見たわ……」
「ホントにあんな人いんのかよ……」
その場にいた人たちや他の野次馬たちは、ブツブツ文句を言っていた。
▽
「いや~今日はもともと病院に行く予定だったんだが、運が良かったよ」
救急車の中で、先程のお爺さんはさっきまで苦しんでいたのがウソのように平然としていた。
「一応、病院に着くまで簡単に身体を調べさせてください」
救急隊員たちはそう言うと、お爺さんの身体を調べ始める。
「脈拍、体温、呼吸音、心拍数など、異常はありませんね」
一人がそう言うと、救急隊員たちは全員で顔を見合わせ、コクリと頷く。
「そうか。だがせっかくなので、このまま病院に……」
「ですが……」
お爺さんが何か言いかけたその時、隊員の一人が遮るように口を開いた。
「背中に一つ刺し傷がありますね」
「は?何を言って……」
グサッ
お爺さんが再び口を開こうとすると、突然背中に痛みを感じ、見ると隊員の一人がお爺さんの背中に刃物を突き刺していた。
「アアアアアッ⁉」
「おや、頭にも殴られたような跡がありますね」
続いて別の隊員がどこからか金槌を取り出し、お爺さんの頭を殴った。
「あがっ……!あ、あんたら……!な、何を……⁉」
他の隊員たちも全員刃物や鈍器を手にし、お爺さんを刺し、殴り続けた。
そうして病院に着いた時、お爺さんは既に息を引き取っていた。
▽▼▽▼▽
「なあ、おい」
「どうした?」
「この間見た、救急車の不適切利用率が少ない病院のこと、ちょっと調べて見たんだけど……。ここさ、救急搬送された患者の死亡率が妙に高いんだよ」
「あ、ほんとだ。まあでも、救急車が必要な人は、本当にいつ死んでもおかしくない様な人ばかりなんだし、別におかしいことじゃないんじゃないか?」
「それもそうか」
これならそのうち、不適切利用者は『いなくなります』よね?




