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灰かぶりの魔法令嬢は、王子よりもオネェを信じている  作者: SoL


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8/10

ガラスの靴は、脱げない

 光が散らばる大広間。

 それはまるで、絵画から飛び出して来たような輝きだった。


「セドリック第三王子のご入場!!」


 モノクルを付けた白髪の老紳士が、声を張り上げ、全員に聞こえるように告げる。

 今日の主役の登場に、皆談笑をやめて注目する。


「セドリック王子!!お帰りなさいませ!!」


 招待客達はこぞってセドリックに挨拶をしようと近寄る。皆、ぜひ自分の娘を妻にと口を揃えて告げる。

 セドリックはそんな貴族達を無視して、ある一点を見つめた。


 王族の入場口とは反対にある、招待客用の出入口。

 そこには、一人の少女が遅れて到着した頃だった。

 セドリックは少女の姿を確認すると、他の貴族たちは見えていないとでも言いたそうに、一直線に歩く。

 それに釣られて、皆道を空ける。


「ティターニア」


「セドリック様…」


 2人は名前を呼び合い、見つめ合う。

 そしてセドリックの差し出した手に、ティターニアも答えるように手を乗せる。

 二人が手を取り合った瞬間、空気が変わった。

 この会場は、あたかも二人のために用意されたもののようだったと、後の貴族達は語った。


 二人が広間の真ん中へ出ると、どこからか音楽が流れ出した。

 そして二人はダンスを始める。

 貴族達は皆、二人のダンスに魅了されていた。

 そして一曲目が終わり、二人は向かい合って礼を交わすのだった。





 ティターニアside



 ーーちゃんとできたかしら?


「今日、ハーベスト侯爵が来ている。彼が挨拶へ来る前に、君は控え室に行って休んでいてくれ」


「はい、殿下」


 私は殿下の指示通り、招待客へ解放されている控え室へと向かった。

 そして一息つこうと、ソファへ腰を下ろした時だった。

 なんの前触れもなく扉が開いて、この世で一番見たくない人達が揃いも揃って入ってきた。



「あらニア。久しぶりじゃない?入学してから一度もお屋敷に帰ってきてくださらないのだから、すごく心配していたのよ?」


「お義姉様……」


 扇子を広げて口元を隠しながら、嫌味ったらしく告げる。


「本当よね。ニアったら酷いじゃない」


 二番目のお義姉様が同調するように告げる。二人は相変わらず、顔を合わせると嫌味しか言ってこない。


 そんな二人よりも、私が1番顔を合わせたくない相手。ハーベスト侯爵だ。


「いやぁ……そのドレス、よく似合っているよ。まるで、君の母親の若い頃のようだ」


 ハーベスト侯爵はそう言うと、悪寒がしそうなほどの気持ち悪い視線を向け、全身を舐めまわすように私を観察した。


「ティターニア、貴方如きが第三王子と結婚できるなんて思っているの?身の程を弁えない。侯爵家に嫁げるだけありがたいと思う事ね。

 旦那様が亡くなって誰がここまで育てたと思っているの。私たちに恩の一つでも返してちょうだい」


「そうよ。あんたみたいなのが本気で結婚できると思ってるの?」


「ただの遊び相手でしかないでしょうね?火遊び程度の」


 義姉達はあー面白いと甲高い声で笑っている。

 流石に耐えきれなくなって言い返そうとした時だった。


「随分と、楽しそうだね。王城の控え室で、私の客人を囲むとは」


 部屋の皆が声の主がいる扉へ注目する。

 随分と冷たくて低い声色で言葉を紡ぐその方は、先程大広間で見せていた好青年の面影はなく、ただ冷酷に4人のことを見ていた。


「だ、第三王子殿下……」


「こ、これはただの姉妹喧嘩ですわ。ねぇ?ティターニア」


 義姉達は慌てて取り繕うとするが、セドリック様には効かない。


「アタシもいるわよ」


「ミハイル…!」


 セドリック様の後ろから、銀髪を揺らしながら顔を出したミハイル。


「これが喧嘩ねぇ…」


 そう言ってミハイルが手を出すと、掌に映像が現れる。

 先程の、お義姉様達が、私を一方的になじる映像が流れた。


 私は意を決して立ち上がり、四人を睨みつけた。


「私は今夜ここで、ハーベスト侯爵並びにお継母様方の罪を白日の元に晒します!」


 そう宣言して、一息付き私は説明を始めた。

 始まりはそう、侯爵が支援すると言い出して来た時だった。

 その頃に侯爵の紹介で屋敷へ来た侍女が居た。

 その侍女は私のお母様付きになり、毎日献身的にお世話をしてくれていた。


「でも、その侍女はお母様を殺しました。毒殺です。毎日微量の毒を飲み物に混ぜ、殺したんです」


 侯爵は私の話を聞き、侍女が勝手にやった事だと余裕を見せていた。


「侯爵は侍女は始末したと思い込んでいるようですが、彼女は自殺です。罪の呵責に耐えきれなくなった彼女は、私に全ての真実を話し、死にました」


 侯爵はそれでも私は何も知らないと言う態度を一貫している。


 次にお父様が死んだ原因だ。

 部下からは事故死だと教えられた。しかし、真実はもっと残酷だ。


「あの時、カイルは事故死だと私に教えてくれましたが、実際はカイルがお父様を殺しました。カイルはお父様の死をきっかけに辞めたのだと思っていましたが、実際は仕事を終えて侯爵、貴方の私設諜報員に戻ったのですよね?」


 次に婚約の強要。それは言うまでもない。


「貴方が、お母様に復習するため。死んでもなお復習するだなんて、虚しいだけじゃない」


 そして、お父様が死んで、私が魔法学園に入学するまでの1年間。


「お継母様達は散財に散財を重ねていましたよね。使用人をみな解雇して。私は、使用人のように扱われていました」


 そして最後に、ラルフからの手紙。相手を思いやる心を持たず、ただ自分の都合を一方的に押し付ける文脈。


「私はずっと、何も知らないふりをして生きるしかありませんでした。それが生きる唯一の手段だったから。

 でも……今日は、今日からは違います。殿下も、ミハイルも居る。

 これが私の、今の、生き方です」



「そ、そんなもの!証拠は何処にある!?」


 侯爵がやっと口を開いた。先程までの余裕満ち溢れる態度とは打って変わり、冷や汗をかきながらしどろもどろに告げる。


 そこへミハイルが黙ったまま前へでた。

 先程のように掌へ映像を映し出す。

 侍女が私に真実を告げる瞬間。

 カイルがお父様を殺す瞬間。

 お継母様達が私を召使のように扱う瞬間。



 そして何より、侯爵が指示を出して居る瞬間の映像が、映し出された。


「侯爵、さっき貴方と目があった時に、記憶を読み撮らせてもらったわ。証拠ってね、隠したつもりでも美しく残るのよ」


 ミハイルは低い声でそう囁く。

 侯爵はこの期に及んでまだ抗おうと、口を開いた時だった。


「ハーベスト侯爵を拘束しろ!!」


 殿下の声を合図に、どこからともなく王宮魔法使い達が現れる。

 侯爵は拘束魔法で固められ、身動きがとれないでいた。


「違う……復習なんぞではない!!私は、私は彼女を愛してただけだった!」


「それは愛じゃないわ…私たちの人生を壊しただけ。自分の世界のために、人を不幸にするなんて。心底軽蔑するわ」


 侯爵はそれ以上何もいわず、黙って、素直に拘束されて行った。


「ハーベスト侯爵が主権を握っていた事業はニアの元へ帰って来るだろう。そして、ラルフとの婚約も白紙とする。あぁ、それと、お前達3人も同席していた以上、事情聴取は免れない。良いな?」


 黙って部屋から帰ろうとしていたお継母様達。セドリック様はもちろん見逃さない。

 三人は大人しく、王宮魔法使い達に連れられてその場を去った。


「終わった……これで自由…!」


「お疲れ様。よく頑張ったわね」


「あぁ。よくやった。少し休むといい」


 セドリック様はそう言うと、ミハイルと共に部屋を後にした。

 私は少し休憩してから、夜風に当たりたくなりバルコニーへ出た。




 誰もいない庭園。綺麗に輝く星々。そして気持ちいい夜風。

 初めての安全な静けさ。

 バルコニーの手すりに、手を添える。





 もう、逃げなくていい。

 もう、縛られなくていい。

 でも、全てが突然終わると、胸が空っぽで少し怖い。

 今まで私は、両親の死を白日の元に晒すために、侯爵を捕まえるために生きてきた。

 これから、どう生きればいいんだろう。




 私は履いていたガラスの靴を見つめる。

 ドレスの裾から覗くそれは、とても輝いていた。


「この魔法…まだ解けてない」



 暫くして、後ろから足音が聞こえた。

 この足音はミハイルだ。3年間、ずっと隣を歩いてきた。振り返らなくても誰だか分かる。


 そしてミハイルは私の隣に立ち、手すりを背にして、身を預ける。


「寒くない?」


「ううん…平気」


 しばらくの間、沈黙が流れる。

 先に口を開いたのは、ミハイルだった。


「ねぇ、ニア。今日のアナタ、すごく綺麗だったわ」


 ミハイルは夜空を見上げたまま、続ける。


「ドレスも、立ち姿も……声を上げたところも」


 私はミハイルを見つめて、笑顔で返す。


「ミハイルが居たからよ」


 ミハイルは私の顔を見て、微笑み返してくれた。

 けれどその笑顔は、どこか寂しそうに見えた。



「そのガラスの靴ね、魔法だけど魔法じゃないの。一生残るようにしてあるの」


「……どうして?」


「アナタが“悲しくなる場所”に帰らなくて済むように。自分の足で世界を歩けるように。

 誰がと一緒に幸せにならなくていいの。

 王子様に選ばれなくても、ニアは、ニアのままでいいの」


 ミハイルはそう言って姿勢を正すと、誰もいない庭園を見つめた。


「さ、舞踏会は続いているわ。セドリックが待ってる」


 セドリック様が?ミハイルは……来てくれないの?


「ミハイルは?」


「アタシは…ここでいい」



 私はその言葉に何も答えず、バルコニーを出る。

 そして最後にミハイルの方へ振り返った。


「ねぇ、ミハイル」


 私の呼び掛けに、ミハイルが振り向く。


「私、まだ答えを持っていないわ」


 ミハイルは優しく微笑むと、静かに頷いた。


「それで良いのよ…答えはニアのものなんだから」


 私はもう一度大広間へ向き直り、その場を後にした。






「……ガラスの靴は、渡さない。王子様にも、運命にも。自分からやってくるまで待っているのよ。アタシは」


 ミハイルはそう呟くが、その先には誰もおらず、ただ、夜風に吹かれたカーテンだけが揺れていた。

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