ミハイルside ガラスの靴は、渡さない
一人になると、いやでも考えてしまう。
ーーニア……告白されてたわね。だって可愛いもの。当然よ!でも、優しすぎるわ!告白されて断らないところ、あんなに嫌いなラルフのお見舞いに行こうとするところ…優しすぎて困るわ。
あの時、本当にニアが居なくなるかもしれないと、思ったのよ。
アタシの可愛いニア。妹のようであり、親友であるニア。
ーー小さかったわね。それに、暖かったわ。
アタシは作業の手を止めて、ニアを包んだ腕を見つめる。
「ニアはアタシが守らないと…」
アタシはニアの親友。それ以上でも、それ以下でもない。ただの、親友。
「おはよう。ニア」
今日の天気は曇天。まるでアタシの心を写しているかの如くどこまでも曇りきっていた。
いつもなら明るく返事をくれるニア。
今日はどこか様子がおかしい。
「ニア?どうかしたの?」
「この手紙、見てよ!」
やっと顔をあげたニア。でもその顔は怒りで充ちていた。
ニアはアタシに手紙を押し付け、腕を組み椅子にふてぶてしく座る。
言いたいことは山ほどあるが、とりあえず先に手紙を読む。
“お前は実習で怪我した未来の婚約者に対して、見舞いのひとつもできないのか?
あぁ、あと怪我で舞踏会へ行けなくなるから、エスコートはしてやれん。
ドレスも贈るつもりだったが、見舞いへ来ないやつなど知らん。
追伸、着るドレスもないんだから舞踏会へは行くなよ。
ラルフ”
「んまぁ!!!何よこの横暴過ぎる手紙は!!」
思わず破りそうになったが、寸前で止まる。
ニアは以前態度を変えずふてぶてしい。
「今更エスコートなんて要らないし、何よりラルフからのドレスなんか着たくないわ!行くなって書かれてたけど、殿下からの招待だし、行かないと不敬になってしまうわ」
「別に行けばいい。ドレスはミハが用意してくれるし、エスコートは僕がしよう」
嫌な声が聞こえて、アタシは思わずげっと言葉を漏らす。
「アンタのエスコートなんて冗談じゃない!ダメよ、ニア」
「じゃあ、昔みたいに君が女装してくれるかい?“ミーシャ”」
「絶対ごめんよ」
セドリックは本当に性格が悪い。昔から。
アタシは腕を組み、顔を逸らして見せる。
「ニア、僕のパートナー役をして欲しい。これは王族命令だ」
「でも…王子様のパートナーなんて私に務まるか…」
「受けなさい、ニア。セドリックがパートナーになってくれるってことは、誰も文句が言えない。最強の守りなのよ」
それに、パートナーはただの建前で、本当はセドリックもニアに舞踏会へ来て欲しいのだろう。
アタシから言えることは何も無い。
その日の夜、アタシは出来上がったドレスのデザイン画を見つめていた。
アタシの自信作のドレス。これを着たニアはさらに可愛いのだろう。
お姫様のニアの隣には王子様のセドリック。
ーーうん。すっごくいいわ。
お似合いの2人が手を取り並んでいる。
胸の奥に感じる痛み。もう、自分に嘘はつけない。
アタシはニアのお姉ちゃん兼親友。でも、もう親友を辞めよう。
アタシは立ち上がって、デザイン画を元に魔法でドレスを作り始めた。
「うわぁ〜すごく可愛いわ!さすがミハイル!」
舞踏会当日、アタシはニアにメイクという魔法をかけていた。
「ほんっとう、すごく可愛いわ!さすがアタシのニア!!」
メイクも終わり、ブラシ類を化粧箱へしまう。
ニアは鏡と見つめあっている。
「ねぇ、ニア」
アタシはにあへ向き合い、話を始めた。
「この前、セドリックが、昔みたいに女装してって言ってたの覚えてる?」
「えぇ。気になったけれど、無理に聞こうとは思わないわ」
本当に、ニアは優しい。心まで美しいのね。
「アタシとセドリック…殿下の話、聞いてくれる?」
昔、アタシとセドリックは同い年という事もあり、遊び相手として王宮へ通っていた。
アタシたちはいつもいつもイタズラばかりして、大人たちを困らせていた。
悪友だった。
そんなある日、セドリックの婚約者候補を決めるお茶会が、開かれた。
同じ世代の貴族の子供たちが集められて、庭でお茶会を楽しんでいた。
セドリックは、まだ婚約者なんて要らない。とタダを捏ねて、あたしを女装させて女避けにした。
「その時に、美しいドレス、美しい自分に魅せられて、美が好きになったの。あぁ、でも、勘違いしないでね?もう、女装なんてごめんよ。アタシは今は、ニアを美しくすることが生きがいだから。」
アタシはそう言いながら、チェストの上に置いていた杖を取り出す。
「さぁ、ニアの心の美しさで着飾る時よ」
そう言って軽く杖を振り、ニアの着ていた服はみるみるうちにドレスへと変化していく。
「わぁ!すごい!すごいわ!ミハイル!すごい素敵!!」
ニアはとてもいい笑顔を向けると、大きな姿見の前に立ち、1回、2回と回って、映し出された自分を見つめる。
アタシはそんなニアの後ろに立ち、鏡越しに見つめる。
「アタシ、ある絵本が大好きだったの。
心の美しい少女が、魔法使いのおばあさんに助けられて、王子様に見初められるお話。
そのお話の中ではね、12時になると魔法が解けるの。
そして、少女が履いていたガラスの靴だけが残る。
片方は王子様の手に、もう片方は少女の手に。
ねぇニア、アタシ、思うの。その魔法使いがもし、おばあさんじゃなくて、男の人だったらって。
そしたら、綺麗になった少女を送り出すことなんてしなかったと思う。ガラスの靴なんて、履かせてあげなかったと思うわ。
だって、王子様になんて渡したくないもの。アタシみたいにね」
アタシはそう言って片膝を地面に着け、ニアの足にガラスの靴を履かせた。
「この靴は絶対に脱がさない。魔法も解かせない。ニア、アタシ、アナタが好きなの」
アタシの告白に、ニアは嬉しいような、困ったような表情を見せる。
「嬉しいけど……ミハイルは親友だから……なんて言うか」
「困らせるようなこと言って、ごめんなさいね」
想定内の答え。アタシは気にしないで。と微笑み、ニアを馬車までエスコートした。
ニアは最後まで複雑そうな顔をしていた。
遠ざかる馬車を見つめる。
「大丈夫よ。ニア。アタシは、アタシのできることをする。それが、王子の役目じゃなくても」




