??side 追いかけて、不幸にする
何の音も聞こえない深夜、男は一人酒を飲んでいた。
ワイングラスを揺らし、匂いを楽しみ、味を楽しむ。
男はラベルを見つめ呟く。
「18年ものとはな」
若い果実の甘さはとうに消え、長い時間だけが残した、重く乾いた香りが立ちのぼる。
男は人生に呆れていた。努力すれば報われる。そう信じていたが、人生に裏切られたからだ。
「皮肉なものよ。なぁ」
そう言って壁に飾られている一枚の肖像画を眺める。
その絵は、男が唯一愛した女の絵だった。
出会いはもう、20年以上も前。
男が愛した女は、身分は低かったが、それはそれは美しく、魔法が使える聡明な女性だった。
当時、魔法についてはまだ偏見が残っていた時代だ。
だか、男は魔法が使えるところも含めて素敵だと感じていた。
そんな彼女と結婚がしたくて、男は両親に婚約の打診を頼んだ。だが、両親は古い考えの人間だった。
魔法を使う女など断じて許さん。
ましてや男爵位とは、論外だ。と。
男は考えた。自分自身がまだ未熟なのが行けないのだと。
彼女を迎えに行くためには、自分も彼女に見合う男にならなければいけないと。
誰もが認める存在になれば、反対する人などいない。
それからは、沢山のことを学んだ。
まずは領地経営。報告書に目を通し、色々な政策を考え領地を豊かにした。
その次に王宮で文官として働き、社交にも勤しんだ。
誰もが彼を信頼し、一目置いていた。
彼にはたくさんの縁談がきたが、もう心に決めた女性がいたため、全て断った。
その間に、彼女は魔法学園へ入学して行った。
魔法使い保護法で魔法を使えるものは貴族、平民関係無く魔法学園への入学が、義務付けられているからだ。
彼女が卒業した時に迎えに行こう。
それだけを目標に、男はがむしゃらに働いた。
だが、現実はそう甘くなかった。
彼女は学園で別の男と恋仲になり、在学中に婚約した。
婚約相手はただの庶民。爵位も、領地もない、ただの庶民だった。
そして卒業してすぐに2人は結婚した。
その庶民は、彼女の家からの支援で事業を始めた。
魔法使い派遣事業だ。
男は酷く傷ついた。
女に裏切られた、と。庶民に盗まれた、と。
『僕を置いて君が幸せになると言うのなら、僕が追いかけて、君を不幸せにする』
そして裏切った2人には子供が生まれた。
その子供は、女の子だった。成長するにつれ、皮肉にも彼女の面影を感じさせる女の子。
そして男にも子供が生まれた。2人の子どもと同い年の男の子が。
そこから男は考えた。自分が彼女を手に入れられないのなら、その子供を手に入れようと。
まずは、事業援助という名目で近付いた。
そして産後、体調の良くない彼女には侍女を贈った。
そして侍女に指示をして、じわじわと体に蓄積されていくタイプの毒を彼女に飲ませるように指示をした。
そして彼女は、静かに命を落とした。
役目を終えた侍女もまた、表舞台から消えた。
そして残された彼には金遣いの荒い未亡人とその娘たちを紹介し、再婚させた。
そして未亡人達は、思惑通り子供を虐めた。
そして彼に国外にも事業を広げるよう勧め、彼に同行させた男の部下に、殺すように命じた。
もちろん、その部下も口止めのために殺した。
そして残った子どもは自分の子供と結婚させる。
あと少し、あと少しで彼女が手に入る。
自分がなし得なかった事を、子供が代わりにしてくれる。
自分の代わりを。
「あと少しだな。我が息子ラルフと、君の娘、ティターニアが結ばれる。楽しみだ」
部屋のロウソクは怪しく揺れ、
彼の目に映る未来だけを照らして、消えた。




