光の花と、壊れた初恋
春の暖かい空気に包まれ、緑のいい匂いが鼻腔をくすぐる今日、合同実習が始まる。
集合場所には魔法学園、騎士学園の両生徒が疎らに集まり始めていた。
「どうして魔法使い如きと共闘せねばならんのだ!魔物ぐらい我ら騎士候補生だけで何とかなるではないか!!」
大きな声で私たち魔法使いを見下しているのは、そう、あのラルフだ。
私は目を合わせず、見つかるまいと気配を消し縮こまる。
「騎士だけで魔物を倒せるならば、合同実習は組まれない。これは将来に向けた意義あるものだ。そうだろう?」
そう言って集合場所へ来たのは、殿下。後ろにはミハイルが控えている。
ラルフの言葉で萎縮していた魔法学園の学生達も、気まずそうに目を逸らしていた騎士学園の生徒達も、皆殿下を見て安堵する。
当の本人、ラルフは流石に王族に言い返す勇気が無いのか、悔しそうに顔を背ける。
そして辺りを見回し始めると、私と目が合い一瞬驚くもいつものように意地悪な顔になり、近付いて来た。
「ニア!!!」
ラルフの怒声に肩を震わせる。
ーー嫌だ。こっちに来ないで。
逃げたいのに、足が竦んで動かない。その間にもラルフはどんどん距離を縮めてくる。
あと数歩でラルフが私に触れれる距離まで近づいてきた時だった。
「ニア、こんなところにいたのね?もう。探したのよ?」
ミハイルが優しく私の肩に手を添え守るように間に入ってくれた。
ラルフはその光景をみて立ち止まり、顔を怒りで歪ませる。
「ニア!!俺という未来の婚約者がいながら、学園で男を誑かすなど!」
ラルフの高圧的な態度に、私は何も言えないで固まる。
ラルフ、この男は昔から私をからかってきた。
最初はかわいいいたずら程度だったのだが、ある日を境に高圧的に変わった。
「あら?アナタが噂のラルフくん?」
「だったらどうするんだよ」
「どうもしないわ。ほら、ニア、行きましょう」
「待てよ」
ラルフがミハイルの肩を掴もうと手を伸ばした時だった。
「はい、皆さん今からチーム分けを行います。両校の生徒は別れて並んでください」
先生がやって来てチームを発表する。
成績に応じて分けられたチームの中に、ラルフは居なかった。もちろんミハイルは同じチームだった。
「あの、うちのラルフがごめんなさい」
同じチームになった騎士生徒の1人が謝ってくれた。
私達は大丈夫と告げ、各々自己紹介をした。
私たちは実習場所まで魔法で飛ばされ、魔獣退治を始める。
騎士生徒達が前衛に立ち、襲いかかってくる魔物を倒してくれる。
私達は魔法で補助をしたり、取り逃した魔物を倒す。
私は得意の光魔法で防御をかためつつ、いつでも攻撃出来るように魔力を溜める
奥に進むにつれ、魔物の数は増え、強くなる。
そして全個体を倒せたと思った時だった。森が、鳴い、地面が軋み、木々が揺れる。
森の奥から今までの魔物とは比にならない大きい個体が出てきた。
「おい、これ……」
「フェンリル…」
先程までの戦いで体力、魔力を削られたみんなはもう戦えるほどの力は残っていない。
私は最後の力を振り絞り、手に持っていたステッキを地面に突き刺し、叫んだ。
「みんな!伏せて!太陽の貫き!!」
光で出来た槍が無数に現れ、フェンリル目掛けて突き刺さる。
フェンリルは大きい唸り声を上げて、倒れた。
「す、すごい」
「流石、アタシのニアね!魔法まで美しいなんて!!」
騎士生徒達は私の魔法に呆気にとられ、ミハイルは土埃でドロドロのまま、私を抱きしめてこれでもかと頭を撫で回す。
「ずっと練習してた魔法、成功してよかった」
練習中は思ったように槍の生成が難しかったが、何とかできてよかった。
「皆さんも、無事で良かった」
そう言ってみんなへ微笑み、実習は終わった。
そして放課後、私達は殿下と合流して図書館で勉強をしていた。
「ねぇ、アナタ元気ないけど本当に大丈夫なの?もしかしてあのクソ野郎じゃないでしょうね?」
「やっぱり、ミハイルには分かっちゃうのね」
私は、ミハイルと殿下にラルフとの昔話を始めた。
初めて会った時、ラルフは優しかった。いじわるもイタズラ程度の可愛いものが多くて、私達は仲が良かった。
それこそ、近くに居た唯一の異性、初恋だった。だからこそ、私が初めて魔法が使えた時、嬉しくてラルフに自慢したんだ。
『ラルフ!見ててね!光の花』
私が詠唱を始めると、周囲が輝き、光の粒が集まって、花弁を作り出した。
金色の光で出来た花はまるで朝露をまとったように輝き、美しかった。
『すごいでしょ?ラルフにあげるわ』
私は微笑みながらラルフの手を取り、花を渡した。
そんな私を見て、ラルフは言葉を失い固まった。
『ラルフ?』
名前を呼ぶと、ラルフは我に返ったように花を投げ捨てた。
『魔法を使う者は完璧な人間ではなく、劣等種の証。魔法使いは奴隷も当然だ!!』
そう言い放って、どこかへ行ってしまった。
私はその言葉に傷ついて、それからしばらくの間魔法が上手く使えなくなってしまった。
そして、それ以来、ラルフとは以前のように遊ばなくなった。
あれが、私の人生で初めての告白で、失恋。
話終えて、2人の顔を見る。ミハイルはこれまで見た事ないほど怒りに顔を歪ませていた。
「何よそれ!!ニア、本当にあんな奴と結婚してはダメ!!!アタシが絶対に守るんだから!!!」
「……」
殿下は、ただ、何も言わずに静かに怒るだけだった。
「確か、ラルフ・ハーベスト侯爵子息もパーティーの招待客の中に入っていた」
何かを思い出したように、殿下が呟く。
ミハイルはそれを聞いて、私の手を握る。
「それなら尚更、アタシがニアを磨き上げて、あのクソ野郎をギャフンと言わせてやるんだから!!!」
そういったミハイルは、握る手にさらに力を込めた。




