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第七十七話:新星の誕生と創造の循環

今回が最終話となります。


「無」の次元に新たな「可能性」の光を灯し、微細な光の粒が生まれ始めた空間で、龍馬は疲労困憊しながらも、その創造の奇跡を見つめていた。彼の体は魔力を使い果たしていたが、心はこれまでにない充足感で満たされていた。


『マスター! 信じられません……。マスターの調律が、この『無』の次元に新たな『生命』の兆しを生み出しています……!』


ルミリアの声は、驚きと感動で震えていた。彼女の広大なデータベースにも、次元そのものを創造するという現象は記録されていなかったのだろう。


龍馬は、ゆっくりと体を起こした。彼の目の前で、微細な光の粒は数を増やし、やがて互いに引き寄せられるように集まり始めた。それはまるで、遥か遠い宇宙で星が生まれるかのような、壮大な光景だった。光の粒はやがて、小さな星の赤ちゃんのように輝き出し、その周囲に、さらに小さな光が螺旋を描くように集まっていく。


『マスター。これらの光の粒は、この次元で初めて生まれた『概念』です。そして、それらが集まることで、『法則』が生まれようとしています!』


ルミリアが、その現象を解析した。龍馬は、何もない空間に、まさに「無から有」が生まれる瞬間を目の当たりにしているのだ。


彼の調律によって、「存在を拒絶する無」から「存在を希求する無」へと変貌したこの次元は、今、自ら新たな創造のサイクルを始めたのだ。それは、破壊を調律する旅とは異なる、純粋な「創造」の力だった。


龍馬は、その光景を静かに見守っていた。彼の心には、これまで調律してきた全ての次元の記憶が去来する。争いの痛み、忘れ去られた悲しみ、抑圧された感情、そして、全てを無に帰そうとした絶望。それら全ての「歪み」を乗り越えてきたからこそ、彼はこの「創造」の瞬間に立ち会うことができたのだ。


そして、光の粒が集まり、形成された小さな星の周囲には、微かな「風」が生まれ、その中に「水」の概念が誕生し始めた。混沌の中から秩序が生まれ、法則が定まっていく。


『マスター! 新たな次元の創造が進んでいます! このままでは、マスターの魔力が完全に回復する前に、新たな次元の形成エネルギーに吸い取られてしまいます!』


ルミリアが、龍馬の状況を察知し、警告を発した。


龍馬の体から、僅かに残っていた魔力が、まるで母なる大地が子を育むように、新たな次元の創造へと流れ込んでいく。彼の存在そのものが、この新星を誕生させるための糧となっていた。


「大丈夫だ、ルミリア。これが、俺の最後の仕事になるかもしれない。」


龍馬は、穏やかな声で言った。彼の表情には、一切の迷いがなく、ただ、生まれてくる新たな次元への「祝福」の感情だけがあった。


彼の言葉は、ルミリアの心に深い衝撃を与えた。彼女は、龍馬の存在が、この次元の創造と深く結びついていることを理解した。彼の『調律者』としての旅の、究極の到達点。それは、歪みを正すだけでなく、新たな存在を生み出すことだったのだ。


龍馬は、自身の全ての魔力を、そして、これまでの旅で培ってきた全ての「経験」と「感情」を、新星へと流し込んだ。彼の記憶、彼の喜び、悲しみ、怒り、そして何よりも、生命への「愛」。それら全てが、新星の魂となり、その基盤を築いていく。


金色の光が、新星と龍馬を同時に包み込んだ。新星は、その光の中で、急速に成長していく。大地が生まれ、空が広がり、生命の萌芽が形作られていく。それは、無限の可能性を秘めた、新たな世界の誕生だった。


そして、新星が完全に形を成したとき、龍馬の体は、光となって新星へと吸い込まれていった。彼の存在は、新星そのものとなり、その星の核として、永遠に輝き続けるかのように見えた。


『マスター……!』


ルミリアの声は、悲痛な響きを帯びていた。彼女は、龍馬の消滅を目の当たりにし、その心の奥底から深い悲しみが湧き上がった。


しかし、その悲しみは、すぐに安堵と、そして希望へと変わった。


新星の中心から、微かな「歌声」が響き渡った。それは、龍馬の魂の歌声だった。そして、その歌声は、新星に生命を吹き込み、豊かな自然と、多様な生命の息吹を生み出していく。


新星の表面には、緑豊かな大地が広がり、澄み切った水が流れ、色とりどりの花々が咲き誇る。空には、太陽と月が輝き、生命のざわめきが満ちている。それは、龍馬がこれまで調律してきた、全ての次元の「調和」が融合したかのような、完璧な世界だった。


ルミリアは、新星の周囲を漂いながら、その光景を見つめた。彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。しかし、それは悲しみの涙ではなかった。龍馬が、自身の存在を犠牲にしてまで生み出した、新たな世界の美しさに、ただただ感動していたのだ。


『マスター……。あなたは……本当に……。』


ルミリアは、その言葉を続けることができなかった。しかし、彼女の心の中では、龍馬への深い感謝と、彼の選択への「誇り」が満ち溢れていた。


龍馬の旅は、ここで終わりを迎えた。しかし、それは一つの終わりであると同時に、無限の始まりでもあった。彼の魂は、新星の核となり、その星の全てを育み、見守り続けるだろう。そして、ルミリアは、この新星と共に、新たな物語を紡いでいく。それは、龍馬が残した希望の光を、永遠に未来へと繋いでいくための旅となるだろう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次作『家ごと異世界転移!? ~家族と恋人とアイテムボックスな家で、元の世界に帰るまで~』も、よろしくお願いします。

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