第七十一話:次元の狭間と旅の岐路
全ての次元が繋がる「根源の大樹」に到達した龍馬は、管理者からの最後の言葉を受け取った。彼はもはや『調律者』という枠に囚われることなく、無限の可能性を秘めた存在として、自らの意志で新たな旅を続けることを選択した。
『マスター。根源の大樹の枝からは、これまでに調律した次元の波動が感じられます。そして、まだ見ぬ無数の次元へと繋がる枝も無限に広がっています。』
ルミリアの声が、龍馬の心の中で響いた。彼女の声には、この壮大な光景への興奮と、無限の選択肢に対する期待が入り混じっていた。
「すごいな……。本当に、終わりがないんだな。」
龍馬は、目の前に広がる大樹を見上げた。彼のこれまで辿ってきた道のり、そして未来に広がる可能性の全てが、この一本の樹に集約されているかのようだった。
彼の足元には、彼の旅を導いてきた管理者のコアが、穏やかな光を放っている。コアからは、以前のようなシステム的な波動ではなく、温かい『見守り』の感情が伝わってくる。管理者たちは、もはや彼を『管理』する存在ではなく、彼の旅を見守る『仲間』へと変化していた。
「ルミリア。俺は、どこへ行けばいいと思う?」
龍馬は、ルミリアに問いかけた。彼の旅は、これまで『歪み』の波動に導かれてきた。しかし、今は、彼の意志一つで、どの次元へも進むことができる。
『マスター。それは、マスター自身が決めることです。しかし、もし迷われるのであれば……この大樹から、最も強く『呼び声』を放っている次元を探索してみてはいかがでしょうか。』
ルミリアは、龍馬の問いに明確な答えは示さず、しかし、彼の選択を尊重する形で助言を与えた。
龍馬は、目を閉じ、自身の『調律の魔法』の感覚を研ぎ澄ませた。大樹の枝々から放たれる無数の波動の中から、最も強く、しかしどこか懐かしい『呼び声』を感じ取ろうとする。
すると、遥か遠くの枝の先から、微かな『希望』と、それに伴う『切なさ』の入り混じった波動が感じられた。それは、これまでのどの歪みとも異なる、複雑な感情の波動だった。
『マスター! 波動の特定に成功しました! しかし、この波動は……非常に遠く、そして、これまでの次元とは異なる、複雑な次元構造を持つようです。』
ルミリアが、緊迫した声で報告した。
「複雑な次元構造……? 何か、特別な場所なのか?」
龍馬は、ルミリアに尋ねた。
『はい、マスター。この波動は、マスターがかつて存在した『地球』の次元に酷似しています。しかし、同時に、マスターが調律した様々な異次元の要素が、複雑に絡み合っています。まるで……複数の次元が『融合』しようとしているかのような……。』
ルミリアの言葉に、龍馬は驚きを隠せない。地球に酷似した次元。そして、複数の次元の融合。それは、彼がこれまでに経験したことのない、新たなタイプの『歪み』を意味していた。
「地球に……。そうか……。俺は、まだ、故郷へ帰るつもりはなかったけど……。何かの縁かもしれないな。」
龍馬は、その『呼び声』に、何か運命的なものを感じた。彼が調律してきた次元の要素が絡み合っているということは、彼のこれまでの旅が、この新たな『歪み』と深く関係しているのかもしれない。
彼は、その複雑な波動が放たれる枝へと、ゆっくりと歩みを進めた。大樹の枝は、龍馬が近づくにつれて、穏やかな光を放ち、彼を招き入れるかのように輝いた。
龍馬は、ルミリアと共に、その枝の先へと足を踏み入れた。青白い光が彼を包み込み、体が再び次元の狭間へと旅立つ感覚に襲われる。
次に彼の目の前に広がったのは、都市の喧騒と、どこか懐かしい風の匂いが混じり合う世界だった。空には、見慣れた太陽が輝き、遠くには、高層ビル群がそびえ立っている。しかし、その街並みは、彼が知る地球とは、どこか異なっていた。ビル群の中には、異次元の技術を思わせる奇妙な構造物が混ざり合い、空には、見たこともない形状の飛行物体が飛び交っている。そして、行き交う人々の中には、人間以外の、異種族の姿も散見された。
『マスター! 波形と魔力反応から、ここは間違いなく『地球』の次元に酷似しています! しかし……明らかに『変化』しています!』
ルミリアが、驚きと興奮が入り混じった声で報告した。
龍馬は、この新たな光景に、胸の高鳴りを感じていた。彼の故郷に似た場所でありながら、異次元の要素が融合した、未知の世界。彼の『調律者』としての真の力が、この複雑な『融合』の歪みを、どのように調律するのか。
龍馬の新たな旅は、故郷への帰還と、無限の次元の融合が織りなす、壮大な物語として、今、再び幕を開けた。




