第五十五話:天空の頂点と魂の再誕
「大いなる風の魂」の二つ目の残滓を回収し、風の魔力を完全に操れるようになった龍馬は、次なる、そして最後の「風の穴」へと向かった。ゼフィール長老の言葉によれば、そこは、この次元の最も高い場所、天空の頂点に存在する浮遊島にあるという。
『マスター。最後の風の穴の座標を特定しました。そこは、これまでのどの場所よりも高空で、周囲の魔力は、非常に希薄です。』
ルミリアの声が、龍馬の心の中で響いた。
「よし。これで、全てが揃う。」
龍馬は、自身の体から放たれる風の魔力で、宙に浮き上がった。まるで、自分自身が風になったかのように、彼は軽やかに天空を駆け上がっていく。
高空は、空気が薄く、冷たい。しかし、龍馬の体は、風の魔力に包まれており、寒さを感じることはない。彼の視界には、オーロラの輝きがさらに鮮やかに広がり、遥か下には、他の浮遊島が小さく見える。
何時間も上昇を続けた後、龍馬の目の前に、これまでとは比べ物にならないほど巨大な浮遊島が姿を現した。その島は、まるでこの次元の頂点に君臨するかのように、荘厳に浮かんでいた。島の中心には、青白い光を放つ、巨大な裂け目が口を開けている。それが、最後の「風の穴」だろう。
『マスター! あれが、最後の魂の残滓が宿る場所です! しかし、その周囲の魔力は、非常に純粋で、かつてないほど強大です!』
ルミリアが、緊迫した声で告げた。
龍馬は、裂け目へと近づいた。裂け目の内部は、まるで宇宙空間のように広大で、無数の星々が瞬いている。しかし、その全てが、青白い光を放ち、その中心に、全ての光を吸い込むかのように、一つの巨大な透明な結晶が浮かんでいた。それが、最後の「大いなる風の魂」の残滓だった。
結晶からは、これまでの残滓が放っていたような負の感情は感じられない。代わりに、深い「安寧」と、そして、全てを見守るような「慈愛」の感情が伝わってくる。それは、自らを犠牲にした「大いなる風の魂」が、この次元を見守り続けてきた証だった。
龍馬は、結晶へと近づいた。結晶は、龍馬の存在を認識したかのように、その輝きを増した。
龍馬は、自身の『調律の魔法』を結晶へと流し込んだ。金色の光が結晶を包み込み、その純粋な魔力をさらに高めていく。そして、結晶から放たれる「安寧」と「慈愛」の感情を、自身の『感謝』と『尊敬』の感情で包み込んだ。
「ありがとう。お前は、この星を、そして、そこに生きる全ての命を守ってくれた。お前のおかげで、この星の未来は、再び輝きを取り戻す。」
龍馬の言葉は、金色の光となって結晶へと深く浸透していく。結晶は、その言葉を受け入れるかのように、まばゆいばかりの光を放ち始めた。
そして、結晶は、龍馬の掌へと吸い込まれていった。それは、まるで、失われた魂の最後のピースが、再び龍馬の体と一体になったかのようだった。龍馬の全身に、この次元の全ての生命の魔力が満ち渡り、彼の体は、金色に輝く光そのものになった。
『マスター! 全ての魂の残滓の回収に成功しました! マスターの魔力と、大いなる風の魂の残滓が完全に融合しました!』
ルミリアが、喜びと感動に満ちた声で叫んだ。
その瞬間、龍馬の体が、巨大な光の渦となって、天空の頂点に舞い上がった。光の渦は、天空に広がるオーロラと一体となり、星全体を包み込んだ。
そして、光の渦の中から、一つの巨大な存在が姿を現した。それは、透き通るような白銀の輝きを放つ、巨大な鳥の姿をしていた。その翼は、この次元の全てを覆い尽くさんばかりに広がり、その瞳は、遥か彼方を見つめている。
『マスター! 『大いなる風の魂』が、完全に再誕しました!』
ルミリアの声は、感極まって震えていた。
「……感謝する……調律者よ……。お前のおかげで……我は……再び……この星を見守ることができる……。」
「大いなる風の魂」の声が、宇宙空間へと響き渡る。その声は、優しく、そして、この次元の全ての生命に安寧をもたらすかのようだった。
龍馬は、再び人間の姿に戻り、天空に浮かぶ「大いなる風の魂」を見上げた。
「よかった……。これで、この星は、もう大丈夫だ。」
龍馬は、心からの安堵を覚えた。彼の努力が、この星の未来を切り拓いたのだ。
その時、龍馬の頭の中に、エメロードの声が響いた。
「……リュウマさん……ありがとう……。これで……私にも……未来が……見えます……。」
エメロードの声は、希望に満ちていた。彼女の『ズレ』は完全に解消され、この星の未来は、再び輝きを取り戻したのだ。
龍馬は、この次元での使命を終え、新たな旅立ちの準備を始めた。彼の『調律者』としての旅は、常に、新たな挑戦と、そして、感動的な出会いに満ちている。彼は、この星の未来を「大いなる風の魂」とエメロードに託し、次の次元へと、その足を踏み出すのだった。




