第五十四話:天の迷宮と記憶の回廊
「よし、この調子で、残りの残滓も集めるぞ!」
「大いなる風の魂」の最初の残滓を回収し、風の魔力を飛躍的に向上させた龍馬は、次なる「風の穴」へと向かった。ゼフィール長老から教えられたその場所は、この次元の最も高く、そして最も複雑な浮遊島の奥深くにあるという。
『マスター。次の風の穴の座標を特定しました。しかし、そこへの道は、自然の地形が作り出した複雑な迷路のようです。空間の魔力も不安定で、転移魔法は使用できません。』
ルミリアの声が、龍馬の心の中で響いた。
「迷路か。面白いじゃないか。」
龍馬は、わずかに口角を上げた。これまでの旅で、彼は様々な困難を乗り越えてきた。迷路程度で、彼の足を止めることはできない。
彼は、風の民が住む「風の谷」から、さらに上空へと昇っていった。浮遊島は、下から見上げるよりも遥かに巨大で、その間を縫うように、狭い通路や、急峻な崖が点在している。風は、ここでも容赦なく吹き荒れており、龍馬の体を押し戻そうとする。
しかし、最初の残滓を回収したことで、龍馬の体は風と一体化する感覚を掴んでいた。彼は、風の魔力を自身の魔力と融合させ、風の抵抗を和らげながら、迷路のような浮遊島を進んでいく。
『マスター。この迷路は、単なる地形の複雑さだけではありません。空間の魔力が歪んでおり、同じ場所を何度も通ってしまう可能性があります。』
ルミリアが、さらに警告した。
龍馬は、自身の『調律の魔法』で、周囲の空間の魔力を解析した。確かに、空間がわずかに歪んでおり、特定の場所で魔力の流れが循環している。これは、空間の歪みによって、進んだはずの道が元の場所に戻ってしまう現象を引き起こしているのだ。
「なるほど、空間の歪みで迷路を構成しているのか。面白い仕掛けだ。」
龍馬は、自身の魔力を空間の歪みに合わせて微調整し、歪みの流れを読み取って進むべき道を見極めていった。彼の『調律の魔法』は、単なる魔力の調整だけでなく、空間の歪みをも感知し、それを乗り越えることを可能にしていた。
何時間も迷路の中を進んだ後、龍馬の目の前に、大きな空間が広がった。そこは、まるで巨大な洞窟のようだった。洞窟の奥からは、最初の風の穴よりもさらに激しい風が吹き荒れており、その風の音は、まるで怒りの咆哮のように聞こえた。
そして、空間の中心には、最初の残滓よりも遥かに大きく、しかし、どこか黒く濁った透明な結晶が浮かんでいた。それが、「大いなる風の魂」の二つ目の残滓だろう。
『マスター! あれが、魂の残滓です! しかし、その周囲の風の魔力は、非常に激しく、そして『怒り』と『憎しみ』の感情が混じっています!』
ルミリアが、緊迫した声で告げた。
龍馬は、結晶へと近づいた。結晶からは、激しい「怒り」と「憎しみ」の感情が伝わってくる。それは、この次元を襲った「嵐の歪み」に対する、純粋な怒りだった。
龍馬は、自身の『調律の魔法』を結晶へと流し込んだ。金色の光が結晶を包み込み、その激しい魔力を鎮めていく。そして、結晶から放たれる「怒り」と「憎しみ」の感情を、自身の『鎮静』と『理解』の感情で包み込んだ。
「お前が抱えている怒りも憎しみも、全て分かる。お前は、この星を守るために戦ったんだ。その感情は、お前がどれだけこの星を愛していたかの証だ。」
龍馬の言葉は、金色の光となって結晶へと深く浸透していく。結晶は、その怒りと憎しみを解き放つかのように、黒い濁りが取れて、透き通った輝きを放ち始めた。そして、その輝きは、龍馬の掌へと吸い込まれていった。
それは、まるで、失われた魂の二つ目のピースが、再び龍馬の体と一体になったかのようだった。龍馬の体に、さらに強力な風の魔力が満ちていく。彼の体は、風そのものになったかのように、軽やかに舞い上がった。
『マスター! 魂の残滓、二つ目の回収に成功しました! マスターの『風』に関する魔力は、さらに向上し、この次元の全ての『風』の魔力を自在に操ることが可能になりました!』
ルミリアが、喜びの声を上げた。
龍馬は、体中に満ちる力に、確かな手応えを感じた。この力があれば、どんな困難も乗り越えられる。彼は、魂の残滓が完全に集まり、この星に再び「大いなる風の魂」が呼び覚まされることを確信した。
彼の旅は、まだ続く。彼は、この星の未来を切り拓くため、そして「大いなる風の魂」を呼び覚ますため、残りの「風の穴」へと向かう。




