第五十三話:魂の残滓と風の呼び声
ゼフィール長老から、この次元の「ズレ」の根源が、自らを犠牲にした「大いなる風の魂」との繋がりが断たれたことにあると知らされた龍馬。彼は、散らばる「残滓」を集め、再び魂を呼び覚ますという壮大な使命を課せられた。
「『大いなる風の魂』の残滓……。一体、どこにあるんですか?」
龍馬が尋ねると、ゼフィールは空を指差した。
「この次元の深き場所に点在する、『風の穴』に、その残滓は宿っている。そこは、常に激しい風が吹き荒れる場所。我ら風の民ですら、近づくことは容易ではない。」
ゼフィールの言葉に、龍馬は困難な道のりを予感した。激しい風が吹き荒れる場所。それは、通常の生物では立ち入ることが難しい場所だろう。
『マスター。風の穴の座標を特定しました。しかし、その内部の魔力反応は非常に不安定です。マスターの『調律の魔法』で、その不安定な魔力を鎮めながら、残滓を回収する必要があります。』
ルミリアが、具体的な危険性を警告した。
龍馬は、エメロードとゼフィールに別れを告げ、最初の「風の穴」へと向かった。穴は、浮遊島の側面から突き出た巨大な洞窟のようになっており、その入り口からは、凄まじい風が吹き荒れている。風は、龍馬の体を吹き飛ばそうとするかのように、容赦なく襲いかかってきた。
「すごい風だ……!これじゃあ、まともに進めない!」
龍馬は、自身の『調律の魔法』で、周囲の風の魔力を鎮めようとした。金色の光が龍馬の周囲に広がり、風の勢いがわずかに弱まる。しかし、完全に風を止めることはできない。
『マスター。この風は、外部からの干渉を受け付けません。この次元の自然な現象です。しかし、マスターの『調律の魔法』で、風の魔力を『受け流す』ことは可能です。』
ルミリアの助言に、龍馬は試行錯誤を始めた。彼は、自身の魔力を風と一体化させるように流し、風の抵抗を和らげることを試みた。すると、風は彼に逆らうことなく、彼の体を包み込むように変化した。
「なるほど、これなら進める!」
龍馬は、風と一体化したかのように、風の穴の奥へと進んでいく。洞窟の内部は、入り組んだ通路になっており、奥へと進むにつれて、風の勢いはさらに増していく。
しばらく進むと、龍馬の目の前に、大きな空間が広がった。そこは、まるで巨大な風の渦の中に入り込んだかのようだった。空間の中心には、微かに光を放つ、透明な結晶が浮かんでいた。それが、「大いなる風の魂」の残滓だろう。
『マスター! あれが、魂の残滓です! しかし、その周囲の風の魔力が、非常に不安定です! 触れれば、マスターの魔力も乱れる可能性があります!』
ルミリアが、警告した。
龍馬は、結晶へと近づいた。結晶からは、微かな「悲しみ」と「孤独」の感情が伝わってくる。それは、自らを犠牲にして、この次元を救った「大いなる風の魂」の、最後の感情だった。
龍馬は、自身の『調律の魔法』を結晶へと流し込んだ。金色の光が結晶を包み込み、その不安定な魔力を鎮めていく。そして、結晶から放たれる「悲しみ」と「孤独」の感情を、自身の『癒し』と『共感』の感情で包み込んだ。
「大丈夫だ。お前は、一人じゃない。お前の犠牲は、決して無駄じゃなかった。お前は、この星の生命に、希望を与えたんだ。」
龍馬の言葉は、金色の光となって結晶へと深く浸透していく。結晶は、その悲しみと孤独を解き放つかのように、さらに強く輝き始めた。
そして、結晶は、龍馬の掌へと吸い込まれていった。それは、まるで、失われた魂の一部が、再び龍馬の体と一体になったかのようだった。
『マスター! 魂の残滓、一つ目の回収に成功しました! マスターの魔力と、残滓の魔力が融合し、マスターの『風』に関する魔力が、飛躍的に向上しました!』
ルミリアが、喜びの声を上げた。
龍馬は、自分の体に、風の魔力が満ちていくのを感じた。まるで、自分自身が風になったかのような感覚だった。
「よし、この調子で、残りの残滓も集めるぞ!」
龍馬は、決意を新たにした。彼の旅は、まだ始まったばかりだ。彼は、この星の未来を切り拓くため、そして「大いなる風の魂」を呼び覚ますため、残りの「風の穴」へと向かう。




