第四十五話:選択の時、そして約束の地へ
古の星の、滅びた文明の集合意識を調律し終えた龍馬は、その場で静かに立ち尽くしていた。彼の心の中には、管理者からの最後のメッセージが響き続けている。「お前との出会いは、我々にとって、最大の『調律』であった」。
『マスター。これで、管理者ネットワークに観測されていた全ての『歪み』は、完全に調律されました。マスターの『調律者』としての使命は、真の意味で完了しました。』
ルミリアの声が、龍馬の心の中で、これまでの長い旅の終わりを告げるかのように響いた。その声には、達成感と、そして龍馬への深い敬意が込められていた。
龍馬は、自身の掌を見つめた。この手で、彼は幾多の歪みを正し、多くの魂を救ってきた。彼の魔力は、以前にも増して澄み渡り、温かい光を放っている。
「管理者からの使命は終わった。でも、俺の旅は、まだ終わらない。」
龍馬は、静かに、しかし確固たる声で言った。彼の心には、無限の次元の可能性が広がっている。まだ見ぬ世界、まだ助けを求めている魂があるかもしれない。
『マスターの意志を尊重します。マスターは、もはや管理者の使徒ではありません。ご自身の赴くままに、未来を選択してください。』
ルミリアの声は、龍馬の決意を温かく受け止めた。彼女は、龍馬と共に歩むことを、何よりも望んでいるのだ。
「ルミリア。まずは、一つ、行ってみたい場所があるんだ。」
龍馬は、かつて自分が召喚された、最初の異世界、エルフヘイムを思い出した。あの場所から、彼の全てが始まった。そして、あの世界の聖樹やエルフ族は、今どうなっているのだろうか。
『エルフヘイムですね。承知いたしました。転移座標、設定します。』
ルミリアの声が、喜びを帯びて響いた。
青白い光が龍馬を包み込み、体が宙に浮き上がる。次の瞬間、彼の視界に飛び込んできたのは、見慣れた、しかし以前よりも遥かに生命力に満ちた森の光景だった。
足元には、柔らかい土と、青々とした苔。澄んだ空気は、草木の香りに満ち、遠くからは、鳥たちのさえずりが聞こえてくる。
『マスター。エルフヘイムの魔力バランスは、完璧に回復しています。聖樹も、以前よりも大きく、より輝きを増しています。』
ルミリアの声が、感動に満ちて響いた。
龍馬は、聖樹のある森の中心へと向かった。あの時、闇に侵食され、苦しんでいた聖樹は、今、まばゆい光を放ち、その枝葉は、空へと力強く伸びている。聖樹の周囲には、エルフ族たちが集まり、聖樹の恵みを受けながら、穏やかに暮らしているのが見えた。
龍馬が聖樹に近づくと、エルフ族たちが彼に気づき、驚きと喜びの声を上げた。彼らは、龍馬を救世主として歓迎し、感謝の言葉を述べた。
「調律者様! またお会いできるとは! 聖樹様も、以前にも増してお元気になられました!」
エルフ族の長老が、深々と頭を下げた。
龍馬は、聖樹に手を触れた。温かい生命の魔力が、彼の掌に流れ込んでくる。聖樹は、彼の訪問を喜んでいるかのように、微かに揺らめいた。
エルフ族たちは、龍馬のために盛大な宴を開いた。彼らは、龍馬にこれまでの世界の復興の様子を語り、聖樹の恵みによって、彼らの生活がどれほど豊かになったかを伝えた。龍馬は、彼らの笑顔を見て、心からこの世界を調律してよかったと感じた。
宴の夜、龍馬は一人、聖樹の根元で星空を見上げていた。彼の隣には、ルミリアの存在が、優しく寄り添っている。
「ルミリア。俺は、本当にこの世界に来てよかった。」
龍馬は、しみじみと呟いた。
『はい、マスター。私も、マスターと共に、この世界を救うことができて、心から嬉しく思います。』
ルミリアの声は、龍馬と同じ喜びを分かち合っていた。
翌朝、龍馬はエルフ族に別れを告げた。彼らは、龍馬の新たな旅路を祝福し、いつか再び、この世界を訪れることを願った。龍馬は、彼らの感謝の言葉を胸に、次の目的地へと向かう。
彼は、まだ見ぬ次元の可能性を求め、無限の宇宙へと旅立つ。




