第四十三話:古の星と謎の遺跡
無限に広がる次元の狭間を越え、龍馬は新たな次元へと転移した。彼の足が降り立ったのは、赤茶けた荒涼とした大地だった。空には、巨大な惑星が複数浮かび、その一つには、かつて文明が栄えていたであろう巨大な構造物の残骸が、まるで墓標のようにそびえ立っている。しかし、そこには生命の気配は感じられない。
『マスター。ここが、次の次元です。この次元の魔力は、非常に古く、そして荒れ果てています。生命の魔力は極めて少なく、代わりに、『滅び』の魔力が強く観測されます。』
ルミリアの声が、龍馬の心の中で響いた。その声には、彼女もこの世界の異様な静けさに、どこか不穏なものを感じているのが伺えた。
「滅びの魔力……。これまでにも荒廃した世界はあったけど、ここまで生命の気配がないのは初めてだな。」
龍馬は、周囲を見渡した。風が吹き荒れる音だけが響き、その風は、どこか悲しげに聞こえる。
『マスター。この次元の『滅び』の魔力は、自然な崩壊によるものではありません。何者かの強い『意思』によって、この世界が滅びに導かれた痕跡があります。』
ルミリアの解析に、龍馬は眉をひそめた。何者かの強い意思。それは、かつて次元侵食者が抱いていた復讐心のようなものなのだろうか。
龍馬は、巨大な構造物の残骸へと向かった。それは、かつては高度な文明を誇っていたであろう都市の跡だった。しかし、全ての建物は崩壊し、瓦礫の山と化している。
都市の中心へと進むと、ひときわ大きな構造物の残骸が目に留まった。それは、まるで巨大な宮殿のような建物だったが、その中心は大きく抉られ、黒い穴が空いている。
『マスター。この場所から、非常に強い『滅び』の魔力と、『集合意識』のような反応を感知します。これは、この世界の住民たちの『意識』が、何らかの形で残留している可能性があります。』
ルミリアが、緊迫した声で告げた。
「集合意識……。アヴァロンの『魂の結晶』とは違うのか?」
龍馬が尋ねると、ルミリアは答えた。
『はい。アヴァロンは『渇望』によって魂を結晶化させましたが、こちらは『滅び』の過程で、住民たちの意識が統合されたようです。しかし、その意識は、非常に不安定で、負の感情に満ちています。』
龍馬は、その黒い穴へと足を踏み入れた。内部は、広大な空間になっており、壁には、この世界の歴史を示すかのような、美しい壁画が描かれていた。しかし、その壁画も、所々が黒く塗りつぶされ、破壊されていた。
壁画には、この世界の住人たちの姿が描かれている。彼らは、人間と似た姿をしているが、額には、神秘的な紋様が刻まれていた。彼らは、高度な魔術文明を築き、空に浮かぶ巨大な都市で生活していたようだ。しかし、壁画の最後には、巨大な黒い影が世界を覆い尽くし、全てを滅ぼす光景が描かれていた。
その時、空間全体に、無数の声が響き渡った。
「……我らの……世界は……滅びた……。」
「……何故……。何故……我らだけが……。」
「……全ては……あの者のせい……。」
無数の声が、龍馬の頭の中に直接響いてくる。それは、この世界の住民たちの、滅びの際に抱いた『絶望』と『怨嗟』の感情だった。
『マスター! 彼らの『集合意識』が、マスターの精神に干渉しています! 負の感情に引きずり込まれないでください!』
ルミリアが、警告を発した。
龍馬は、その負の感情の奔流に耐えながら、壁画の描かれた空間の中心へと進んだ。そこには、祭壇のような場所があり、その中央に、奇妙な形状の石碑が立っていた。石碑は、黒く、まるで周囲の闇を吸い込んでいるかのように見えた。
『マスター! あれが、この世界の『滅び』の核です! そして、あの石碑は、この世界の住民たちの『負の感情』が、長い時間をかけて凝縮されたものです!』
ルミリアが、石碑の正体を告げた。
龍馬は、石碑に手を触れた。冷たく、そして、凍てつくような『絶望』の魔力が、龍馬の体に流れ込んでくる。それは、この世界の住民たちが、世界が滅びる瞬間に感じた、純粋な絶望と、何者かへの憎悪の感情だった。
「これほどの……絶望が……。」
龍馬は、その感情の重さに、思わず呻いた。
その時、石碑から、一つの声が響いた。これまでの無数の声とは異なり、明確な意思を持った声だった。
「……貴様も……あの者たちと同じか……? 我らの絶望を……弄ぶつもりか……?」
声は、冷たく、そして、龍馬を試すかのように問いかけてきた。
『マスター! この声は、この『集合意識』の中心に存在する、最も強い『怨念』です! 彼らは、この世界を滅ぼした者への、強い憎しみを抱いています!』
ルミリアが、龍馬に警告した。
龍馬は、その声に、毅然とした態度で答えた。
「俺は、お前たちを弄ぶつもりはない。ただ、この世界の『滅び』の歪みを調律しに来ただけだ。お前たちの絶望を、安らぎに変えるために。」
龍馬の言葉に、石碑から放たれる魔力が、一瞬だけ揺らめいた。
「……安らぎ……? そんなものが……あるものか……。我らは……裏切られた……。全てを……奪われた……。」
声は、悲痛な響きを帯びていた。
『マスター。彼らは、この世界を滅ぼした者への憎しみが、彼らの存在意義となっています。その憎しみを調律しなければ、この『滅び』の歪みは、完全に収束しません。』
ルミリアの言葉に、龍馬は、この次元の調律が、これまでで最も困難なものとなることを覚悟した。彼は、この世界の住民たちの『憎しみ』を調律し、彼らが本当に求めている『安らぎ』を与えることができるのだろうか。




