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第四話:謎の遺跡と島の異変

朝食を済ませた龍馬は、早速ルミリアと共に島の探索へと出た。今日は結界の外、未知の領域に足を踏み入れる。


「マスター、結界の外は魔物が出現する頻度が高くなります。常に周囲を警戒し、いつでも魔法を使えるよう準備を怠らないでください。」


ルミリアの声はいつも通り淡々としているが、その言葉には確かな注意が促されていた。龍馬はカーゴパンツのポケットに入れたスマホを握りしめた。電波はもちろん届かないが、この奇妙な空間の安全装置のような気がして、手放せないでいる。


森の中は、結界の内側と比べ物にならないほど鬱蒼としていた。巨大なツタが絡まり合い、見たこともない巨大な花が咲き乱れている。足元はふかふかの土で、枯れ葉が積もっている。


「本当に、何処にも属さない島なんだな。人の気配が全くない。」


龍馬が呟くと、ルミリアが答えた。


「はい。管理者の記録によれば、この島は太古の昔から存在しており、どの文明の記録にも残っていません。しかし、強力な魔力が凝縮された地点であり、マスターの訓練には最適と判断されました。」


歩き始めて数十分、龍馬は奇妙なものを発見した。地面から突き出した、黒ずんだ石の塊。それは、どう見ても自然にできたものではなく、人工的に加工されたものに見えた。


「ルミリア、これって……何だ?」


龍馬が指差すと、ルミリアは無感情な瞳でそれをじっと見つめた。


「これは、古代文明の遺物である可能性が高いです。非常に強い魔力が残存しています。」


石の塊の周りには、さらにいくつかの石の柱のようなものが埋まっている。まるで、何かの建物の残骸のようだった。龍馬は好奇心に駆られ、その石に触れてみた。ひんやりとした感触と共に、微かな魔力の脈動が手に伝わってくる。


「これが古代文明の遺物……。こんなものがあるってことは、昔はこの島にも誰か住んでたってことか?」


「可能性は否定できません。しかし、詳細な記録は残っておりません。この遺物からは、何らかの魔術式の痕跡が読み取れます。」


「魔術式?」


「はい。魔法を発動させるための、言わばプログラムのようなものです。通常、魔法は詠唱やイメージによって発動されますが、特定の魔術式を組むことで、より複雑で強力な魔法を自動的に発動させることも可能です。」


ルミリアの説明に、龍馬は興味津々になった。まるでゲームのスキルツリーみたいだ。


さらに森の奥へと進むと、開けた場所に出た。そこには、さらに大規模な遺跡が広がっていた。苔むした石の壁、崩れかけたアーチ状の入り口、そして中央には、巨大な水晶のようなものが鎮座している。その水晶からは、淡い光が脈動しているように見えた。


「これは……すごいな。まるで、アニメの世界だ。」


龍馬は呆然と立ち尽くした。地球では決して見ることのできない、異世界の光景だ。


「この水晶は、強力な魔力源です。この島にこれほどの魔力が満ちているのは、この水晶の存在が大きいでしょう。」


ルミリアが説明する。龍馬はその水晶に近づき、手をかざした。すると、水晶から温かい魔力が流れ込んできて、体中の魔力が活性化するような感覚に襲われた。


「体が……熱い……!」


龍馬の全身から、オーラのような青白い光が放出された。それは昨日までの微弱な光とは比べ物にならないほど強く、周囲の空間を照らし出す。


「マスター! その水晶に直接触れないでください! 強大すぎる魔力に、体が耐えられない可能性があります!」


ルミリアが初めて、少しだけ焦ったような声を出した。龍馬はハッとして手を引っ込めた。光はすぐに収まったが、体中の細胞が活性化したような、不思議な感覚が残った。


「すまない、つい好奇心で……」


「問題ありません。マスターの魔力量であれば、一時的な接触であれば問題はないと判断できます。しかし、長時間の接触は控えてください。」


ルミリアは冷静さを取り戻し、そう言った。龍馬は自分の魔力が、想像以上に強いことを改めて認識した。


その時、遠くで、ゴゴゴゴ、という鈍い音が響き渡った。まるで、地面が揺れているような振動だ。龍馬は顔色を変える。


「なんだ? 地震か?」


「いいえ、地震ではありません。この島の魔力反応が急激に高まっています。何らかの異変が発生した可能性が高いです。」


ルミリアが周囲を警戒する。龍馬も、魔法をいつでも使えるように、手のひらに魔力を集中させた。


ゴゴゴゴ、という音は次第に大きくなり、地面の振動も強くなった。やがて、遺跡の奥から、黒い影が複数現れた。


「あれは……何だ!?」


龍馬は目を凝らした。現れたのは、巨大な岩のような体を持ち、鋭い爪と牙を備えた異形の魔物だった。体長は三メートル近くあり、全身から禍々しいオーラを放っている。


「ロックゴーレムです! この島の魔力源の近くに生息する、強力な魔物です。通常、これほどの数が同時に出現することはありません。」


ルミリアの表情には感情がなかったが、その声には微かな緊迫感が感じられた。ロックゴーレムは、ゆっくりと、しかし確実に龍馬たちに近づいてくる。その足音は、地面を揺るがすほど重い。


「管理者からの警告です。この島の魔力バランスに異変が生じています。その原因を突き止め、解決することが、マスターの新たな使命となります。」


ルミリアの言葉に、龍馬は愕然とした。また新たな使命か。しかし、この巨大な岩の魔物を相手に、どうすればいいのか。


「解決って、どうやってだよ! あんなデカいのが何体も!」


ロックゴーレムたちは、一斉に龍馬たちに向かって咆哮を上げた。その声は、耳をつんざくほどだった。


「マスターの持つ、膨大な魔力と、地球で培った『論理的思考』を用いるのです。彼らは単なる力任せの魔物ではありません。この異変の原因を探ることが、解決への第一歩となります。」


ルミリアはそう言い切った。龍馬は、迫りくるロックゴーレムたちを見つめた。確かに、自分の魔法の力は強力だ。だが、この数と大きさの相手を、真正面から打ち破れるとは思えない。


「論理的思考……そうか、ただ力任せに戦うんじゃないんだな。」


龍馬は冷静さを取り戻し、状況を分析し始めた。なぜ、こんなにも多くのロックゴーレムが出現したのか? そして、なぜこの遺跡の奥から現れたのか?


その答えは、おそらく、この遺跡と、あの巨大な水晶にある。


龍馬は、ルミリアに問いかけた。


「ルミリア、この水晶の魔力源って、他にどんな能力があるんだ?」


龍馬は、この異変の裏に潜む、さらなる謎を感じ取っていた。疲弊した社畜だった頃の自分では、決して抱かなかったであろう、知的好奇心と、目の前の困難に立ち向かう覚悟が、彼の内に芽生え始めていた。

一度に4話を投稿しました。

次話から『毎日午後0時前』に投稿します。

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