第三十二話:未知の次元と新たな同胞
古の魔法使いの塔の最奥で、龍馬の前に現れた巨大な魔法陣は、まばゆい光を放ち、次元の境界を越える準備をしていた。龍馬は、その光景を前に、新たな冒険への期待に胸を膨らませた。
『マスター。この魔法陣は、完全に次の次元への扉を開きました。転移準備、完了です。』
ルミリアの声が、彼の心の中で響く。その声には、彼女自身も新たな次元への好奇心を抱いているのが感じられた。
「よし、ルミリア。行くぞ! 次の歪みが待っている!」
龍馬は、迷いなく魔法陣の中へと足を踏み入れた。青白い光が彼を包み込み、体が宇宙空間に投げ出されたかのような感覚に襲われる。これまで経験したことのない、激しい次元の揺れが彼の全身を貫いた。
数秒後、光が収まると、龍馬は全く見慣れない場所に立っていた。
そこは、緑豊かな森の中だった。しかし、その木々は、見慣れた異世界のものとは異なり、青や紫色の葉を持つ奇妙な植物が空高くそびえ立っている。空には、二つの月が輝き、夜空を淡く照らしていた。
『マスター。ここが、次の次元です。この次元の魔力は、これまで経験したどの世界とも異なる性質を持っています。非常に古く、そして、どこか荒々しい魔力です。』
ルミリアが、心の中で解析結果を報告する。
「二つの月か……。本当に、全く違う世界だな。」
龍馬は、周囲を見渡した。風に乗って、遠くから動物の鳴き声のようなものが聞こえてくる。
その時、森の奥から、複数の気配が近づいてくるのを龍馬は感じ取った。その気配は、人間のものではない。
『マスター! 強力な生命反応を複数感知! こちらに向かってきます!』
ルミリアが、警告を発した。
龍馬は、すぐに臨戦態勢に入った。森の木々の間から姿を現したのは、巨大な獣人たちだった。彼らは、狼のような頭部を持ち、筋骨隆々の体には、鋭い爪が生えている。手に持った原始的な槍を構え、龍馬を敵意に満ちた目で睨みつけている。
「グルルルル……! 何者だ貴様は!? 我らの聖域を侵すか!」
獣人たちのリーダーらしき存在が、唸り声を上げながら龍馬に問いかけた。その声は、低いが、知性を感じさせるものだった。
『マスター。彼らは、この次元の原住民族である『ガルー族』です。非常に好戦的ですが、同時に、自分たちの土地と仲間を何よりも大切にする民族です。』
ルミリアが、ガルー族に関する情報を龍馬に伝える。
龍馬は、敵意がないことを示すため、ゆっくりと両手を上げた。
「俺は、神城龍馬だ。あんたたちを傷つけるつもりはない。ただ、この世界の『歪み』を調律するために来たんだ。」
龍馬は、出来る限り友好的な態度で語りかけた。しかし、ガルー族のリーダーは、その言葉に警戒を解かない。
「歪みだと? ふざけるな! 我らの世界に歪みなどない! 貴様のような怪しい魔術師の言葉など、信じられるか!」
獣人たちのリーダーは、槍を構え、龍馬に襲いかかろうとした。
『マスター! 彼らの魔力が、不安定に脈動しています! これは、この世界の『歪み』が、彼らの精神にも影響を与えている証拠です!』
ルミリアが、龍馬に警告した。
龍馬は、攻撃をかわしながら、彼らの魔力に集中した。確かに、彼らの魔力は、怒りや警戒心といった感情に加えて、どこか不安や苦痛のようなものが混じっている。
「待て! 俺は、あんたたちを助けに来たんだ! この世界の魔力が不安定になっているせいで、あんたたちの心も不安定になっているはずだ!」
龍馬は、そう叫び、自身の『調律の魔法』をガルー族のリーダーへと放った。彼の魔法は、攻撃的なものではなく、ガルー族のリーダーの魔力を優しく包み込み、その不安定な波動を鎮めていく。
ガルー族のリーダーは、一瞬動きを止めた。その顔に、驚きと、そして微かな困惑の表情が浮かぶ。
「な……!? これは……!?」
彼の魔力が、穏やかなものへと変わっていくのを感じ取ったのだろう。他のガルー族の戦士たちも、その変化に気づき、動きを止めた。
『マスター。彼らの魔力の不安定な部分を、一時的に鎮めました。これで、少しは冷静に話ができるはずです。』
ルミリアが、龍馬に告げた。
龍馬は、ガルー族のリーダーに、再び語りかけた。
「俺は、この世界の『歪み』を調律する者だ。あんたたちの心の不安も、この世界の魔力の歪みが原因だ。もし、信じられないなら、俺を捕らえてもいい。だが、俺の話を聞いてくれ。」
龍馬の言葉に、ガルー族のリーダーは、じっと龍馬を見つめた。その目には、まだ疑念が残っていたが、先ほどの攻撃的な雰囲気は薄れていた。
「……信じられん。だが、確かに、ここ最近、我らの心が荒れることが多くなった。何かのせいだとは感じていたが……。」
獣人たちのリーダーは、槍を下ろし、他の戦士たちにも武器を下ろすよう合図した。
「分かった。お貴様の言う『歪み』とやらについて、詳しく話を聞かせてもらおう。もし、我らを欺くようなら、その時は容赦しないぞ。」
獣人たちのリーダーは、そう言って、龍馬を彼らの集落へと案内した。
ガルー族の集落は、巨大な木々をくり抜いて作られた、自然と一体化した村だった。中央には、焚き火が焚かれ、何人かのガルー族の子供たちが、警戒しながらも龍馬を好奇の目で見ていた。
リーダーは、龍馬を村の長老のもとへと案内した。長老は、白い毛並みを持つ老いたガルー族で、その目には、深い知性が宿っていた。
龍馬は、長老に、自身の使命と、これまでの調律の旅について、詳細に説明した。異世界での聖樹の調律、管理者との対話、地球での植物暴走、そして佐倉との再会。彼が経験してきた全ての出来事を、包み隠さず話した。
長老は、龍馬の話を静かに聞いていた。そして、全てを聞き終えると、ゆっくりと口を開いた。
「なるほど……。次元を超え、世界の歪みを正す『調律者』か。信じがたい話だが、お貴様の魔力は、確かに清らかだ。そして、ここ最近の我らの世界の異変も、貴様の言う『歪み』と合致する。」
長老は、龍馬の言葉を信じる姿勢を見せた。
「我らの世界は、古くから『大いなる獣の魂』によって守られてきた。しかし、近年、その魂が不安定になり、我らの心も荒れ、異変が起きるようになったのだ。」
長老は、ガルー族の信仰と、この世界の異変について語り始めた。
「大いなる獣の魂……それが、この世界の『歪み』の根源なのか?」
龍馬が尋ねると、長老はゆっくりと頷いた。
「そうだ。その魂は、この世界を構成する『生命の魔力』そのもの。しかし、何者かが、その魂を『侵食』し、歪ませている。」
長老の言葉に、龍馬は眉をひそめた。侵食。それは、エルフヘイムで経験した『侵食魔法』に似ている。
「その『侵食』とは、一体……?」
龍馬は、その『侵食』の正体、そして『大いなる獣の魂』の調律方法を、長老に尋ねた。彼の新たな次元での使命は、始まったばかりだ。そして、彼は、このガルー族という、新たな同胞と共に、この世界の歪みに立ち向かうことになるだろう。
第三十二話では、龍馬が古の魔法使いの塔の魔法陣を通り、新たな次元へと転移します。そこは二つの月が輝く森の世界で、龍馬は原住民族である獣人『ガルー族』と遭遇します。当初は敵意を向けられるものの、龍馬の『調律の魔法』によって彼らの心の不安定さを鎮め、信頼を得ることに成功します。ガルー族の長老から、この世界の『歪み』の根源が『大いなる獣の魂』の『侵食』であることを聞かされ、龍馬の新たな次元での調律の旅が始まります。




