第三十話:新たな始まりと世界への旅立ち
佐倉を地球へと送り届け、次元の狭間の歪みを完全に調律した龍馬は、自身の拠点である部屋で静かに瞑想していた。彼の心の中には、ルミリアの存在が、以前にも増して深く、そして温かく響いている。
『マスター。佐倉さんの精神状態は、地球への転移後も安定していることを確認しました。管理者も、彼女の回復には問題がないと報告しています。』
ルミリアの声が、龍馬に安堵をもたらした。佐倉が無事だと分かれば、心置きなく次の旅に出られる。
「そうか。よかった……。これで、俺の心残りはなくなったな。」
龍馬は、深く息を吐いた。異世界に来てから、ずっと張り詰めていた心が、ようやく解放されたような気がした。
『はい、マスター。これで、マスターの『調律者』としての大きな使命は、一つの節目を迎えました。管理者も、この世界の主要な魔力バランスは、完全に安定化したと判断しています。』
ルミリアは、淡々と、しかしどこか感慨深げに告げた。
「そうか……。俺の役目は、これで終わりなのか?」
龍馬は、少し寂しさを感じながら尋ねた。これまでの激動の日々が、彼の生活の中心となっていたからだ。
『いいえ、マスター。管理者から新たな指令が来ています。マスターの『調律の魔法』は、次元を超えて作用する性質を持っています。管理者ネットワークには、まだマスターの力を必要としている場所……未確認の次元からの『歪み』が観測されています。』
ルミリアの言葉に、龍馬の胸に新たな冒険への期待が芽生えた。まだ見ぬ次元の歪み。それは、きっと、これまで以上に困難で、しかしやりがいのある旅になるだろう。
「そうか! よし、分かった! 俺の旅は、まだ続くってことだな!」
龍馬は、希望に満ちた表情で立ち上がった。彼の全身からは、調律を終えたばかりの清々しい魔力が満ち溢れている。
『はい、マスター。管理者からの情報によると、最も強い歪みを観測しているのは、『古の魔法使いの塔』と呼ばれる場所です。それは、複数の次元の境界に位置し、異なる次元の魔力が混じり合い、複雑な歪みを生み出しているようです。』
ルミリアが、次の目的地を告げた。
「古の魔法使いの塔か……。いかにも、何かありそうな場所だな!」
龍馬は、興味津々といった様子で頷いた。
龍馬は、拠点である部屋の『空間拡張』機能を使い、旅の準備を始めた。この世界で得た知識と経験を活かし、様々な状況に対応できるような装備や魔導具を生成していく。
『マスター。塔の内部は、過去の魔法使いの知識や、異なる次元の魔物が混在している可能性があります。慎重に行動する必要があります。』
ルミリアが、注意を促した。
「ああ、分かってる。でも、もう俺は一人じゃないからな。」
龍馬は、心の中でルミリアに語りかけた。彼の隣には、いつでもルミリアがいる。彼女の的確なアドバイスと、彼自身の成長した力があれば、どんな困難も乗り越えられるだろう。
『はい、マスター。私も、マスターとの新たな旅路を心から楽しみにしています。』
ルミリアの声は、喜びと、そして、彼と共に歩むという、確かな愛情に満ちていた。
準備が整い、龍馬は、拠点である部屋の次元転移装置を起動させた。
『次元転移、開始します。』
青白い光が部屋を包み込み、龍馬の体は宙に浮き上がった。次の瞬間、彼の視界に飛び込んできたのは、荒涼とした大地に、天を衝くかのようにそびえ立つ、巨大な石造りの塔だった。その塔の周囲には、様々な次元の魔力が渦巻いているのが感じられた。
「ここが……古の魔法使いの塔……。」
龍馬は、新たな旅路の始まりを前に、静かに決意を固めた。彼の『調律者』としての真の旅は、次元を超え、無限の可能性を秘めた世界へと、今、始まるのだ。
第三十話では、地球の危機を救い、佐倉を送り届けた龍馬が、自身の『調律者』としての役割が、まだ終わっていないことをルミリアから告げられます。管理者の新たな指令により、龍馬は未確認の次元に存在する**『古の魔法使いの塔』という、複数の次元の境界に位置する新たな目的地へ向かうことになります。これは、彼の旅が特定の異世界や地球**といった単一の世界に留まらず、次元を超えた広大なスケールへと拡大することを意味します。龍馬は、ルミリアと共に新たな冒険への決意を固め、物語は彼の終わりのない旅の始まりを示唆して締めくくられます。




