第二十七話:魂の解放とアヴァロンの再生
天秤の塔の最深部、その広大な円形空間の中央に、まばゆい光を放つ魂の結晶が鎮座していた。しかし、その輝きは、無数の人影が苦悶する姿を内包しており、その光景は龍馬の胸を締め付けた。
『マスター。これが、アヴァロンの人々の『渇望』が具現化したものです。彼らは、より高みを目指し、その結果、魂を結晶化させ、永遠に苦しむことになりました。』
ルミリアの声は、深い悲しみを帯びていた。アヴァロンの人々は、何をそんなに強く求めたのか。その「渇望」が、都市を滅ぼし、魂を結晶化させるほどのものだったのか。
「この結晶を調律すれば、彼らの魂は解放されるのか?」
龍馬は、その光景に耐えきれず、尋ねた。
『はい、マスター。しかし、彼らの『渇望』は、この結晶の核そのものです。マスターの『調律の魔法』で、その『渇望』を『安息』へと導く必要があります。これは、非常に繊細な調律となります。』
ルミリアが、真剣な声で警告する。単なる魔力の調整ではない。魂の感情を、根本から「調律」する必要があるのだ。
「分かった。俺が、彼らを救ってやる。」
龍馬は、魂の結晶に向かって、ゆっくりと右手を掲げた。彼の全身から、これまでのどんな調律よりも温かく、そして慈愛に満ちた金色の光が溢れ出した。それは、『神威の調律』の真骨頂だった。
龍馬は、魂の結晶の『渇望』の感情と共鳴した。彼の心の中には、アヴァロンの人々の声が響き渡る。
「もっと……速く……」「もっと……賢く……」「もっと……完璧に……」
それは、際限のない欲望の連鎖だった。彼らは、常に「もっと」を求め続け、その結果、自らを滅ぼしたのだ。
龍馬は、その『渇望』に、自身の「安らぎ」と「満足」の感情を流し込んだ。
「もう、頑張らなくていい。もう、争わなくていい。お前たちは、充分に頑張った。もう、安らかに眠っていいんだ。」
龍馬の言葉が、魂の結晶へと深く浸透していく。金色の光は、結晶の表面を覆い、その中で苦悶していた人影が、徐々に穏やかな表情へと変わっていく。
魂の結晶から、わずかな震えが伝わってきた。それは、かつての管理者のように抵抗する魔力の奔流ではなく、魂が解放されようとする、喜びの震えのように感じられた。
そして、結晶の中から、微かな光の粒が、一つ、また一つと、舞い上がっていく。それは、アヴァロンの人々の魂が、解放され、天へと昇っていく光景だった。
『マスター……! 魂が……魂が、解放されています!』
ルミリアの声が、喜びと感動に満ちて響いた。
光の粒は、塔の天井を突き抜け、アヴァロンの空へと舞い上がっていく。その光景は、美しく、そして、どこか悲しい。彼らは、ようやく安らぎを得られたのだ。
魂の結晶は、その輝きを徐々に失い、最後には、ただの透明な水晶へと変化した。その中には、もう苦悶する人影は存在しない。
龍馬は、全身の魔力を使い果たし、その場に崩れ落ちた。だが、彼の顔には、安堵と、魂を救済できたという確かな達成感が満ちていた。
『マスター……お疲れ様でした。アヴァロンの調律は、完全に完了しました。』
ルミリアの声が、心の中で、優しく響いた。
龍馬は、天秤の塔から外に出た。空は、先ほどよりも明るく感じられた。アヴァロンの街を覆っていた重苦しい魔力の淀みは消え去り、澄んだ空気が満ちている。
崩れかけた建造物には、微かな光が宿り始めた。それは、アヴァロンの再生の兆しだった。
『マスター。アヴァロンの魔力バランスが回復したことで、都市の機能が徐々に再開され始めています。この都市は、再び、空を飛ぶ力を取り戻すでしょう。』
ルミリアが、龍馬に告げた。
「そうか……。よかった……。これで、アヴァロンも、また歩み始めることができるんだな。」
龍馬は、心の中で、アヴァロンの未来に希望を抱いた。
数日後、龍馬は、アヴァロンを後にする準備を進めていた。アヴァロンの街には、まだ人の姿はない。しかし、世界樹の時のように、いずれは生命が戻り、新たな文明が築かれることだろう。
『マスター。管理者による世界の再構築は、さらに進んでいます。そして、地球からの魔力の変動も、完全に収束しました。』
ルミリアの声が、龍馬の心の中で響いた。地球も、ゆっくりと復興の道を歩み始めているのだろう。
「ルミリア。次の目的地はどこだ?」
龍馬は、新たな調律の旅に、胸を躍らせていた。
『マスター。まだ、明確な魔力の歪みを感知できる場所は、この世界には存在しません。しかし、マスターの『調律の魔法』は、次元を超えて作用します。もしかしたら、この世界の奥深く、あるいは、まだ見ぬ別の次元に、マスターの力を必要としている場所があるかもしれません。』
ルミリアの言葉に、龍馬は考え込んだ。彼の調律の旅は、特定の場所や世界の危機だけでなく、より広範な「次元の歪み」をも対象とするようになるのかもしれない。
「そうか……。なら、しばらくは、この世界の様々な場所を巡ってみるか。まだ、見ていない景色もたくさんあるだろうしな。」
龍馬は、希望に満ちた表情で言った。この世界の全てが、彼を待っている。
『はい、マスター。私も、マスターとの旅を、心から楽しみにしています。』
ルミリアの声は、喜びと、そして、彼と共に歩むという、確かな愛情に満ちていた。
龍馬の、終わりのない調律の旅が、今、始まる。それは、世界の歪みを正し、新たな未来を創造する、壮大な物語となるだろう。
第二十七話では、龍馬が天空の都アヴァロンの魂の結晶を「神威の調律」によって鎮め、住民たちの魂を解放し、都市に再生の兆しをもたらします。アミヴァロンの人々の「渇望」が都市を滅ぼした原因であり、その魂の救済が繊細な調律を要したことが描かれました。アヴァロンの調律が完了し、地球も復興に向かっていることが示唆されますが、ルミリアは、龍馬の『調律の魔法』が次元を超えて作用する性質を持ち、まだ見ぬ別の次元にも彼の力を必要としている場所がある可能性を伝えます。物語は、龍馬が新たな次元の旅へと踏み出す予感と共に、彼の終わりのない調律の旅の始まりを示唆して締めくくられます。




