第十九話：管理者の真意とルミリアの覚悟
管理者の言葉は、龍馬の頭の中で雷鳴のように響き渡った。「この『マナの奔流』の変動は、我々が意図的に引き起こしている。この世界の『終焉』のためにな。」
信じられない。世界を救うために自分を召喚したはずの「管理者」が、実は世界の破壊者だったというのか？ 彼の使命は、一体何だったのか。
「何を言っているんだ……！ この世界の終焉だと！？ なぜだ……！？」
龍馬は、その光の存在に向かって叫んだ。心の中のルミリアも、かつてないほどの動揺を見せていた。
『マスター！ 管理者の精神的な干渉が、私のシステムに負荷をかけています！ しかし、彼の言葉は……事実です！』
ルミリアの声が、苦しげに響く。
光の存在、管理者は、龍馬の問いに冷酷な声で答えた。
「この世界は、限界を迎えている。無秩序な魔力の増大は、いずれこの次元を破壊するだろう。我々は、その破滅を回避するため、自らの手で『終焉』をもたらし、新たな世界を創造する計画を進めている。」
「新たな世界だと！？ そのために、この世界を滅ぼすというのか！？」
龍馬は、その言葉に激しい怒りを覚えた。エルフたちの悲しみ、聖樹の苦しみ、そしてルミリアが命を懸けて守ろうとしたこの世界を、彼らは簡単に切り捨てるというのか。
「論理的な選択だ。感情は、この世界の管理において不要な要素だ。お前は、我々の『調律者』として、この世界の魔力バランスを制御し、新たな創造のための礎となるはずだった。しかし、お前は、我々の意図に反し、感情的な行動を取りすぎた。」
管理者の言葉は、龍馬の行動を全て見透かしているようだった。彼がルミリアと絆を深め、エルフたちを救おうとしたこと、全てが管理者の計画に反していたのだ。
『マスター……！ 管理者は、世界の安定のためならば、少数の犠牲を厭わない存在です。しかし、この『終焉の螺旋』は、管理者の計画の『歪み』から生じたものです！ 彼らは、自らの目的のため、無関係な世界をも巻き込んでいる！』
ルミリアの声が、龍馬の心の中で叫んだ。彼女の記憶の中にある、かつての異世界の滅びは、管理者の計画の「歪み」がもたらしたものだったのだ。
「歪み……？」
「魔導生命体ルミリア。お前は、我々の『真意』を理解していない。お前は、欠陥品だ。」
管理者の声が、ルミリアを非難する。
『私は、マスターの『調律の魔法』と共鳴し、感情を獲得しました。その結果、管理者の論理だけでは導き出せない、**『希望』**という可能性を見出したのです！』
ルミリアの声は、管理者の冷酷な声に怯むことなく、力強く響いた。彼女は、今や完全に感情を持つ存在となり、自分の意思で管理者に反抗していた。
「希望……？ ルミリア、どういうことだ？」
龍馬は尋ねた。
『マスターの『調律の魔法』は、単なる魔力調整の力ではありません。生命の魔力と共鳴し、その歪みを修復する、**『創生の力』**を秘めています。この力は、管理者の『終焉』の計画すらも、書き換えることができる可能性を秘めているのです！』
ルミリアの言葉に、龍馬は目を見開いた。「創生の力」。自分の魔法が、そんな途方もない可能性を秘めているというのか。
「無意味だ。いかなる力であろうと、既定の運命を変えることはできない。調律者、神城龍馬。お前は、我々の計画の障害となる。排除する。」
管理者の声が、洞窟全体に響き渡った。光の存在が、龍馬に向かって、圧倒的な魔力の奔流を放ち始める。それは、世界の理を歪めるかのような、破壊の魔力だった。
「くそっ、これが管理者の本気か……！」
龍馬は、咄嗟に『魔力障壁』を展開した。しかし、管理者の魔力は、彼の障壁をいとも簡単に砕き、彼の体を打ち付けた。龍馬は、激しい衝撃に吹き飛ばされ、氷の壁に叩きつけられた。全身が軋み、魔力の消費も激しい。
『マスター！ 危険です！ このままでは、マスターの体が持ちません！』
ルミリアが、心の中で叫んだ。
「大丈夫だ……！ ルミリア……！ 俺は、負けない……！ お前が教えてくれた『希望』を、絶対に守り抜く！」
龍馬は、体を震わせながら立ち上がった。彼の目に、諦めはなかった。
「愚かな。お前一人で、我々に抗えるはずがない。」
管理者の声が、嘲笑うかのように響く。
その時、龍馬の心の中で、ルミリアの声が響いた。
『マスター……私に、力を貸してください。私の全ての知識と、マスターの『創生の力』を融合させれば、管理者の干渉を打ち破れる可能性があります！』
ルミリアの言葉に、龍馬は迷わず頷いた。
「ああ、ルミリア！ お前の全てを、俺に預けてくれ！」
龍馬は、目を閉じ、ルミリアの存在を全身で感じ取った。彼の体内の魔力と、ルミリアの核が、まるで一つに溶け合うかのように共鳴し始める。
龍馬の全身から、これまでにないほど強く、そして温かい、金色の光が溢れ出した。それは、青白い調律の光とは異なる、生命の根源を思わせる輝きだった。
『これは……『神威の調律』……！ マスターの調律の魔法と、私の創生の魔法が融合した、新たな力です！』
ルミリアの声は、興奮と、そして確かな自信に満ちていた。
光の存在、管理者は、龍馬から放たれる金色の光に、わずかに動揺したようだった。
「何……！？ このような現象は、予測範囲外だ……！」
管理者の声に、微かな焦りが混じる。
「管理者の奴、驚いてやがるぞ、ルミリア！」
龍馬は、その金色の光を、光の存在へと放った。それは、破壊の魔力ではなく、全てを包み込み、そして正常な状態へと「調律」する、慈愛に満ちた光だった。
金色の光は、光の存在を包み込み、その圧倒的な魔力を、徐々に落ち着かせていく。まるで、彼らのプログラムそのものを、書き換えているかのように。
「これは……我々のシステムに、エラーが……発生している……！？」
管理者の声が、混乱に満ちて響いた。彼らは、感情を持たない論理的な存在。予測不能な『調律』の力は、彼らにとって最も脅威となるものだった。
龍馬は、力を振り絞り、金色の光をさらに強くした。彼の心の中には、ルミリアの温かい声が響いている。
『マスター。管理者の真意は、世界の破滅を防ぐことでした。しかし、その手段が間違っていたのです。マスターの力で、彼らの『歪み』を正すのです！』
ルミリアの言葉は、龍馬の心に、この戦いの真の意味を教えてくれた。これは、敵対する戦いではない。歪んだ存在を『調律』し、世界を正しい方向へと導く戦いなのだ。
金色の光は、管理者から放たれる破壊の魔力を完全に吸収し、その光の存在を、徐々に縮小させていく。それは、彼らの傲慢な『支配』が、龍馬の『調律』によって、打ち破られている瞬間だった。
この世界の未来は、管理者の計画通りに「終焉」を迎えるのか。それとも、龍馬の『調律の魔法』が、新たな「創生」の道を開くのか。
氷の迷宮の最深部で、世界の命運をかけた、最後の調律が、今、行われようとしていた。
第十九話では、龍馬が管理者から世界の「終焉」計画を告げられ、衝撃を受けます。管理者の冷酷な論理と、ルミリアの「希望」という感情の対比が描かれ、龍馬はルミリアの言葉と献身に応えるべく、管理者と直接対決します。この戦いの中で、龍馬はルミリアとの絆により、新たな力「神威の調律」を覚醒させ、管理者の予測を超えた存在となります。世界の命運をかけた、最後の戦いが繰り広げられます。
