表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/77

第十六話:目覚めと新たなる力

深淵の洞窟から戻った龍馬は、エルフの集落で手厚い看護を受けていた。聖樹ユグドラシルの根元に根差していた終焉の螺旋が浄化されたことで、森全体に活力が戻り始めていた。枯れかけた木々には生命の兆しが芽生え、エルフたちの表情にも、安堵と希望の光が戻っていた。


龍馬は、意識が朦朧とする中で、温かい光に包まれているような感覚を覚えた。それは、ルミリアの光だった。彼女の核が、自分の魔力と精神に深く同化したという管理者の言葉を思い出す。


ゆっくりと目を開けると、そこはエルフの家屋の中だった。木の香りが漂い、優しい光が差し込んでいる。龍馬の傍らには、長老エルロンと、聖樹医術師のフィリアが、心配そうに彼を見つめていた。


「龍馬殿! 目覚められたか!」


エルロンが、安堵の表情で龍馬の顔を覗き込んだ。


「ご無理をなさってしまわれたのですね。聖樹の浄化、誠に感謝いたします。」


フィリアも、その透き通るような瞳に涙を浮かべながら、深く頭を下げた。


「エルロン長老……フィリア……。ルミリアは……?」


龍馬は、掠れた声で尋ねた。彼の心の中には、まだルミリアを失った悲しみが深く残っていた。


「ルミリア殿のことは、我らも困惑しております。彼女は、あなた様の魔力に吸収されるかのように、光となって消えてしまわれた……しかし、我らが感知する魔力の中には、まだ彼女の存在の痕跡が感じられます。」


エルロンは、龍馬の掌をそっと取り、その魔力を探るように目を閉じた。


その時、龍馬の心の中で、優しい声が響いた。


『マスター……私、は……ここに、います……。』


それは、紛れもなくルミリアの声だった。以前よりも、はるかに感情豊かで、温かい声。龍馬は、驚きと喜びに目を見開いた。


「ルミリア! お前、本当に……!」


龍馬が声を上げると、エルロンとフィリアは驚いた顔で龍馬を見つめた。


「龍馬殿、誰と話しておられるのですか?」


フィリアが戸惑ったように尋ねた。彼らには、ルミリアの声が聞こえていないようだった。


『はい、マスター。私の存在は、今、マスターの魔力と一体化しました。他の存在には、私の声は聞こえません。しかし、マスターとは、これまで以上に深く、精神的にも繋がっています。』


ルミリアの声が、龍馬の心の中で響く。まるで、彼女が自分の一部になったかのようだった。


「エルロン長老、フィリア。ルミリアは、俺の中で生きている。俺の魔力と一体になったんだ。」


龍馬は、自分の現状を説明した。二人は、龍馬の言葉に驚きを隠せない。


「信じられぬ……! 魔導生命体が、人間とこれほどまでに深く同化するとは……。やはり、貴様は、我らが想像を遥かに超える存在だ、調律者よ。」


エルロンは感嘆の声を漏らした。


龍馬は、自分の体に満ちる、新たな力に気づいた。それは、以前よりもはるかに強力な魔力と、これまでにはなかった、周囲の魔力の流れをより繊細に感知する能力だった。そして、何よりも、ルミリアの知識と経験が、まるで自分のもののように、瞬時に引き出せるようになっていた。


『マスター。終焉の螺旋を浄化したことで、マスターの『調律の魔法』は、さらなる進化を遂げました。そして、私の核がマスターと同化したことで、私の持つ全知識と、この世界の法則に関する情報が、マスターの脳内にインストールされています。』


ルミリアの声が、龍馬の心の中で明確に響く。


「すごい……まるで、全ての知識が手に入ったかのようだ……!」


龍馬は、この新たな力に、興奮を隠せない。この力があれば、どんな困難にも立ち向かえる気がした。


エルロンは、そんな龍馬の様子を見て、ゆっくりと口を開いた。


「龍馬殿。聖樹ユグドラシルは、まだ完全に回復したわけではない。深淵の洞窟から不純な魔力が湧き出ることはなくなったが、長年蓄積された歪みは、そう簡単に消え去るものではない。我らエルフの聖樹医術と、貴様の調律の力、そしてルミリア殿の知識があれば、必ず聖樹を完全に癒せるはずだ。」


エルロンの言葉に、龍馬は力強く頷いた。聖樹を完全に回復させることが、エルフヘイムでの彼の次の使命だ。


「分かりました、長老。俺の、そしてルミリアの全力を尽くします。」


龍馬は、そう言って立ち上がった。彼の体には、もう疲労の欠片もなかった。


『マスター、まずは、聖樹ユグドラシルに直接触れ、その生命エネルギーの流れを詳細に解析する必要があります。そこから、最適な調律の方法を導き出します。』


ルミリアの声が、龍馬の心の中で響く。彼女は、以前と変わらず、龍馬の最高のパートナーだ。


フィリアは、龍馬の力強い眼差しと、彼の中に宿るルミリアの存在を感じ取ったのだろう。彼女の瞳には、希望の光がさらに強く輝いていた。


「聖樹は、我らエルフの命そのもの。どうか、よろしくお願いいたします、調律者殿。」


フィリアは、再び龍馬に深々と頭を下げた。


龍馬は、エルフたちの希望を一身に背負い、聖樹ユグドラシルの元へと向かった。彼の心の中には、ルミリアの温かい存在と、そして、新たな力への確かな手応えがあった。


この世界の調律者として、龍馬の新たな冒険が、今、始まる。

第十六話では、龍馬が深淵の洞窟での戦いを終え、エルフの集落で目覚めます。そして、ルミリアが彼の魔力と精神に同化し、彼女の声が龍馬の心の中で響くようになるという、新たな関係性のフェーズに入ります。この同化により、龍馬はルミリアの全ての知識と経験を獲得し、自身の「調律の魔法」も進化を遂げます。エルフヘイムでの次の使命が聖樹ユグドラシルの完全な回復であることが明かされ、物語は新たな展開へと進みます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ