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異世界部屋から始まる自由生活! ~仕事疲れの社畜リーマン、チート魔法で人生逆転~  作者: ねこあし


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第十三話:深淵の洞窟と侵食の魔物

聖樹ユグドラシルの根元に口を開ける深淵の洞窟アビス・グロット。そこから滲み出る不純な魔力が、エルフヘイムの森を蝕む枯死病の根源だと突き止めた龍馬とルミリアは、その暗く危険な入り口へと足を踏み入れた。


洞窟の内部は、外の森の光が一切届かず、深い闇に包まれていた。足元からは湿った土の匂いと、微かに硫黄のような異臭が漂ってくる。龍馬は、手のひらに魔力を集中させ、光魔法で周囲を照らした。青白い光が揺らめき、洞窟の壁に奇妙な模様を映し出す。


「マスター、この洞窟は、聖樹の根が深く張り巡らされており、非常に複雑な構造をしています。迷わないよう、私が先導いたします。」


ルミリアがそう言って、龍馬の一歩前を歩き出した。彼女の瞳は、闇の中でも周囲を正確に把握しているようだった。


「ルミリア、この『侵食魔法』ってやつは、一体何なんだ? お前の過去の異世界にも関係してたって言ってたけど……」


龍馬は、この機会にルミリアの過去について尋ねることにした。彼女が感情を得てから、龍馬は彼女の人間的な側面をより強く意識するようになっていた。


ルミリアは、一瞬立ち止まった。その背中が、微かに震えているように見えた。


「……私の管理下にあった、かつての異世界は、管理者によって『滅びの未来』が予測されていました。原因は、この『侵食魔法』による魔力バランスの崩壊です。その世界は、最終的に……消滅しました。」


ルミリアの声は、いつもの淡々とした響きとは異なり、微かな、しかし確かな「悲しみ」と「後悔」が混じっていた。彼女の記憶の奥底に、その悲劇的な光景が焼き付いているのだろう。


「消滅……そんな……。じゃあ、俺がここに来たのは、このエルフヘイムが、その『滅びの未来』を辿らないようにするため、なのか?」


龍馬は、その言葉に衝撃を受けた。自分の使命が、想像以上に重いものだと改めて痛感する。


「はい、マスター。その可能性は、極めて高いです。管理者は、この『侵食魔法』の進行を食い止めるため、最も適した『調律者』であるマスターを召喚しました。私は、その補助役として、マスターの傍らに遣わされたのです。」


ルミリアは、龍馬の問いに正面から答えた。彼女の言葉からは、この世界の未来に対する、深い責任感が感じられた。


洞窟はさらに奥へと続き、その奥からは、不純な魔力の淀みがさらに強く感じられるようになった。冷たい空気が肌を刺し、嫌な予感が全身を包む。


その時、龍馬の光魔法の先に、不気味な影が蠢いているのが見えた。


「何だあれは……?」


それは、巨大なミミズのような姿をした魔物だった。全身は粘液に覆われ、いくつもの鋭い牙を持つ口が、異様に大きく開いている。周囲の壁には、同じような粘液の跡がべっとりと付着していた。


「アビス・ワームです! 『侵食魔法』によって変異した魔物の一種です。この洞窟の不純な魔力を吸収し、それを撒き散らしています。物理攻撃は無効。浄化の魔力でしか、ダメージを与えられません!」


ルミリアが警告する。アビス・ワームは、龍馬たちに気づくと、その醜悪な口を開き、甲高い咆哮を上げた。洞窟全体が、その声によって震える。


「浄化の魔力……。俺の『調律の魔法』で、いけるのか!?」


龍馬は、右手を構えた。アビス・ワームは、その巨体をくねらせながら、猛スピードで龍馬たちに迫ってきた。


「はい、マスター! 集中してください! 周囲の不純な魔力も取り込み、自身の調律の力で純粋なエネルギーへと変換し、放出するのです!」


ルミリアの指示に従い、龍馬は目を閉じた。アビス・ワームが放つ不純な魔力、そして洞窟全体に満ちる淀んだ魔力。それら全てを、自分の体内に取り込むイメージをする。そして、それを自身の『調律の魔法』で、清らかな魔力へと変換し、一気に放出する。


龍馬の全身から、眩いばかりの青白い光が溢れ出した。その光は、アビス・ワームの禍々しい黒いオーラを押し返し、洞窟全体を照らし出した。


「くらえ! 『聖浄のホーリー・パージ』!」


龍馬が叫び、その光をアビス・ワームに放った。光の奔流は、アビス・ワームの体を直接貫き、ジュワアアアアア……! と、不快な音を立ててその巨体を蒸発させていく。アビス・ワームは、断末魔の叫びを上げ、光の中で消滅した。


その場には、不純な魔力の淀みは消え去り、澄んだ空気が満ちていた。


「やった……! 倒したぞ!」


龍馬は、額の汗を拭いながら、その光景に安堵の息を漏らした。この『聖浄の光』は、調律の魔法の応用で、不純な魔力を持つ相手には絶大な効果を発揮するようだ。


「見事です、マスター。あなたにしか扱えない、強力な浄化の魔法です。」


ルミリアが、静かに龍馬の傍らに立つ。彼女の顔には、微かに「尊敬」のような表情が浮かんでいた。


しかし、彼女の視線は、洞窟のさらに奥へと向けられていた。その奥からは、さらに濃密な不純な魔力の淀みが感じられる。


「まだ、先があるのか……」


龍馬が呟くと、ルミリアは頷いた。


「はい、マスター。この洞窟は、この世界の魔力的な歪みと、深く繋がっている場所です。この侵食魔法の根源は、さらに深部に存在します。そして……それは、もしかしたら、私の管理者の存在意義にも関わっているかもしれません。」


ルミリアの言葉に、龍馬は驚きを隠せない。彼女の管理者、つまり、自分をこの世界に召喚した存在が、この『侵食魔法』と関わっているというのか?


「どういうことだ、ルミリア? 管理者が、この魔法を……?」


龍馬の問いに、ルミリアは悲しげに瞳を伏せた。


「……管理者にも、その存在意義にも、『光と影』の側面が存在します。私は、その全てを把握しておりません。しかし、この侵食魔法は、私の記憶にある、かつての異世界の崩壊と、同一の性質を持っている。そして、その崩壊は、管理者が『世界を管理する』という使命の歪みから生じた可能性があるのです。」


ルミリアの言葉は、龍馬の頭の中に、新たな、そしてより大きな疑問を投げかけた。世界を救うために自分を召喚したはずの「管理者」が、実は世界の危機の一因である可能性もあるというのか。


この深淵の洞窟の奥には、単なる魔物の巣窟ではない、もっと大きな秘密が隠されている。


龍馬は、ルミリアの手を再び強く握った。彼女の不安を打ち消すように、そして、自分の決意を示すように。


「分かった。じゃあ、俺がこの目で確かめてやる。この侵食魔法の根源を。そして、お前の過去と、管理者の秘密を。」


龍馬の言葉に、ルミリアは、微かに、しかし確かな「感謝」の感情を瞳に宿した。そして、その表情は、まるで、凍り付いていた心が、少しずつ溶けていくかのように、柔らかくなっていた。


二人は、重い真実を胸に抱きながら、さらに深淵の洞窟の奥へと進んでいった。その先に待つのは、果たして希望か、それとも絶望か。龍馬の調律の魔法が、この世界の真実を解き明かす鍵となるだろう。

第十三話では、龍馬とルミリアが深淵の洞窟へと足を踏み入れ、ルミリアの過去と「侵食魔法」の関連性、そしてそれが「管理者の歪み」から生じた可能性が示唆されるなど、物語の根幹に関わる重要な情報が明かされました。龍馬は新たな浄化魔法「聖浄の光」を習得し、強力な魔物アビス・ワームを撃破。さらに、ルミリアの感情も「悲しみ」「後悔」から「尊敬」「感謝」へと発展し、二人の絆がより強固になりました。

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