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さば

作者: うらとも

陸丘花:りくおかはな。


波浦洋介:なみうらようすけ。


 :本編


 :とある道中


花:「ん、これなに?」


洋介:「んん? おぉ、なにこれ」


花:「何に使うん?」


洋介:「いや、わからん。……あー、あれちゃうか? こう、隙間に入ったもんを取る感じの……」


花:「いや、それやったらもっと便利なんあるやろ」


洋介:「あー、まあ、そうか。えぇ……、じゃあ何やろ?」


花:「ふむ……あ、あれちゃう? ほら、こう、高いところのものをとる的なさ」


洋介:「いや、それ俺がさっき言ったやつと変わらんやん。そのためだけにこれ使うんやったら、適当な棒状のもん引っ張り出すって」


花:「たとえば?」


洋介:「たとえばそうやなぁ……、ほら、余っとる突っ張り棒とか」


花:「突っ張り棒って余るもんなん? なに、そんなに持っとん?」


洋介:「いや、ない? そういうの。なんか特に突っ張り棒として使う場面はないけど、なんか家にあるみたいなさ」


花:「あー……、そう言われるとたしかにあるような気ぃするわ」


洋介:「あとは、クイックルワイパーの棒とか?」


花:「あー、あるな」


洋介:「やろ? だからわざわざ、高いところにあるもん取るのにこれ買う必要はないやろ。なんか取りやすいように先っちょが工夫されとるとかでもないし」


花:「じゃあ何なんこれ?」


洋介:「いや、だから知らんて。……ちょっと待って、そもそもこの店は何屋なん?」


花:「……たぶん、雑貨屋やな」


洋介:「雑貨屋かぁ……、なら連想しようにも厳しいなぁ」


花:「ちょお店の人に聞いてみる?」


洋介:「いや、そこまですんのはなんかちゃうやん?」


花:「負け的な?」


洋介:「そういうわけでもないけど、わざわざ聞くほどまで大仰なことでもないやんか?」


花:「あー、まあ、そうやな」


洋介:「しかしなぁ、もやもやしたまんま終わらせんのもなぁ」


花:「せやなぁ。このままやとデートに差し障るしなぁ」


洋介:「ちょい待てぇ」


花:「なんや?」


洋介:「今デートって言うたか?」


花:「言うたな」


洋介:「デートちゃうやろ、これ」


花:「え? いやいや、デートやん。仲睦まじい男女が二人っきりで街をゆく――これがデートでなくて何やねん」


洋介:「……いや、そもそも俺ら、付きおうてへんやん?」


花:「まあ、そうやな」


洋介:「やろ? デートっていうんは、付き合ってる男女がするもんであってな?」


花:「あかんわ」


洋介:「は?」


花:「いや、もうその考え方だいぶ古いで? もう今はな、付き合ってなくても二人で出かけたらデートになるねん。っていうか、あんたウチのこと好きやろ?」


洋介:「いや、特にそういうんはないけどな」


花:「……おい、あんたに今のウチの気持ちわかるか? ちゃんとした告白も何もなしに雑に振られたウチの気持ちが」


洋介:「いや、そう言われても……、ふっかけてきたんはそっちやしなぁ」


花:「ふっかけてきたって……、何なん? あんたからしたら恋バナは喧嘩と同じか?」


洋介:「そういう意味やなくてやなぁ」


花:「あぁん?」


洋介:「ほんまに喧嘩売ってどないすんねん」


花:「いやまあ、正直ぶっちゃけると、あんたがウチのこと好きでも、ウチはあんたのこと好きちゃうから、さっきの場面であんたが好きですって言っててもウチがフってんねんけどな」


洋介:「最悪やん。お前に俺のこと責める権利ないぞ」


花:「ええねん。早いもん勝ちや」


洋介:「何の早さを競っとんねん」


花:「で、話戻すけどやな」


洋介:「どの話に戻すんや?」


花:「この突っ張り棒についてや」


洋介:「もう突っ張り棒ってことにしてるやん。というか、もうこれ突っ張り棒ちゃうん?」


花:「いや、突っ張り棒やったら長さ調節できる機能ないとおかしいやろ」


洋介:「じゃあ突っ張り棒って呼ぶんやめようや」


花:「あくまで仮称やねんからそれでええやろ。で、この仮称突っ張り棒が果たして何を目的とした棒かやけど」


洋介:「なんかややこしいなぁ。まあ、あと考えれるんは……」


花:「お、なんかあるんか?」


洋介:「んー、如意棒的な?」


花:「チェストォ!」


洋介:「ぐふっ……! ちょっ、何すんねん?!」


花:「いや、クソくだらんこと言うとったから、ツッコミを入れなって思て」


洋介:「ツッコミとして許される攻撃力の範疇を超えとるんよ……」


花:「何言うとんねん、ツッコミは激しくいかなツッコミちゃうやろ」


洋介:「いや、穏やかいうか、静かにつっこむのもあるぞ……? 少なくともここまで激しくツッコミ入れる芸人は見たことないわ」


花:「いやおるやろ」


洋介:「うん、まあ、おるけど。全然見たことあるけど。でも別にここでは求めてへんのよ。あと、せめて場所選んで? もう周りの人なんやなんやってこっち見とるから。この情報化社会においてこういう注目の集め方は致命傷やから」


花:「いつの間にか撮影されとって、動画サイトとかに載せられるんかな?」


洋介:「そうなったら最悪やな。もう生きてられへん」


花:「何言うてんねん、今は情報化社会なんやろ? インフルエンサーになれるチャンスやん」


洋介:「いや、強かすぎるやろ、考え方が」


花:「カップルチャンネルでも開くか?」


洋介:「なんでウキウキしとん? あれよ? 注目されるとしても馬鹿にされる方向でよ? インフルエンサーとは正反対やろ」


花:「わからんやん。というかな、炎上でもない限りちょっとバカするくらいが受けはええやろ。実際、投稿してる人らもええ歳して何しとんねんみたいなもんやん」


洋介:「おい怒られるぞ」


花:「あれやろ? ちょいちょいーっと撮影して、ちょいちょいーっと字幕やら効果音やら付けたらもう完成やろ。ちょろいわ」


洋介:「やめろやめろ。今度は本気で炎上するぞ」


花:「炎上系としてがんばるわ」


洋介:「茨の道過ぎるわ、何としてでも止めるわ」


花:「消火系か」


洋介:「あ、止めるってそういうことになるん? ってか、ないやろそのジャンルは。何なん? ひたすら擁護するん?」


花:「……あー、擁護した結果大炎上とかやりそうやな」


洋介:「結局炎上系やんけ」


花:「火に油注ぐ系やな」


洋介:「最も味方にしたくないやつやん。しかも最初は消火系って名乗るんやろ? タチ悪」


花:「でも何だかんだ一番儲けれそうなんはこれよな」


洋介:「おい、やめろやめろ、本質を突くな」


花:「そうやな、これ以上は炎上するわ」


洋介:「もう手遅れな気はするけどな」


花:「さて、話戻そか」


洋介:「だからどこに戻すねん――ってこの棒か」


花:「そう。仮称突っ張り棒の使用目的についてやな」


洋介:「仮称突っ張り棒は譲らんねんな……。とりあえず写真でも撮っとくか? オカンとか知り合いで、誰か知っとんのがおるかもしれんし」


花:「せやね」


洋介:「それじゃあ撮るか――っておい」


花:「なに?」


洋介:「なに? ちゃうねん。邪魔や邪魔」


花:「なんや邪魔って失礼やな」


洋介:「いや、今その棒を撮ろうとしてんねんから、カメラの前に立つなて」


花:「ちょい待って」


洋介:「なんや」


花:「仮称突っ張り棒な? その棒とか雑に呼ぶんやめてくれる?」


洋介:「お前のそのこだわりは何やねん……。まあ、ええわ。その仮称突っ張り棒を撮るから、どいてくれ」


花:「え〜、彼女の可愛い可愛い写真いらんの?」


洋介:「彼女ちゃうし」


花:「可愛いのは否定せんのや?」


洋介:「まあな。実際顔はええし」


花:「……え、なに、ちょっと照れるやん」


洋介:「はいはい、照れたんならどいてくれ」


花:「貴重な照れ顔やで? 撮らんでええの?」


洋介:「ほんま強かやね、自分。別にいらんわ」


花:「あ、心のメモリーに収めたからさ的なアレ? うわぁ、ちょいそういうのはキツいって。やめときよ? 一気に引かれんで」


洋介:「言うてないことで勝手に幻滅すんなや。で、はよどいてくれんか? パッと撮ってパッと送って、パッと確認したいんよ」


花:「まあ、しゃーない。どいたるわ」


洋介:「なんで上から目線やねん」


花:「…………とうっ!」


洋介:「あ、おまっ……なんで邪魔すんねん!」


花:「いや、そういうノリかなと」


洋介:「振った覚えはないけどな! 次は邪魔すんなよ」


花:「えぇ……? そういうノリじゃなく?」


洋介:「ノリじゃなく。真面目にや」


花:「でもあれやろ、どうせ邪魔せんかったら邪魔せんかったで『何しとんねん! ここはもう一発邪魔するところやろが!』ってキレてくるやろ?」


洋介:「なわけないやろ……。こっちははよ撮ってモヤモヤを解消したいねん」


花:「なっ……、そこまでしてウチとのデートを楽しみたいということか……! ありがとう、その気持ち受け取ったで!」


洋介:「すごい拡大解釈やな。そう思われるんならいっそ邪魔してくれ」


花:「ええの?」


洋介:「やっぱりやめてくれ」


花:「でも実際、知っとる人おるんかなぁ」


洋介:「さあな。でもとりあえず聞いてみるのは大事やろ――っておぉい!」


花:「なんやねんうるさいなぁ」


洋介:「手ぇ! もう絶妙に被ったから!」


花:「あぁ、ごめん、伸びしとって。つい戻した時に写ったんやな」


洋介:「いや、ぜんぜん伸びとかしてなかったけどな。しかもこの残像見たらわかるけど、思いっきり下から上に上げとんよ」


花:「あー、じゃあラジオ体操やな。下から上にあげる運動あったやん?」


洋介:「あったけどそれもしてなかったなぁ。あと伸びをしてなかったことにした時点で信憑性は皆無なんよ」


花:「うるさいなぁ、ボケやんかボケ。イッツカンサイジョークやん、まじめに怒らんでえや」


洋介:「あのな、人には許容範囲があんの。何でもかんでもボケとツッコミでまかり通ると思ったら大間違いやで」


花:「つまらん男やのー」


洋介:「お前がふざけ過ぎるだけや。……よし、撮れた。とりあえず送れるやつ全員に送ってみるか」


花:「なぁ」


洋介:「なんや」


花:「今気づいたんやけどな」


洋介:「なんや、神妙な顔して。盛大なボケの前振りか?」


花:「なんでやねん。疑いすぎちゃう? もしかしたら大真面目な話かもなぁとか思わへんわけ?」


洋介:「思わん」


花:「ひど」


洋介:「日頃の行いやな。これを機に正してくれ」


花:「お母さんみたいなこと言うやん」


洋介:「まあ、おばさんから世話を頼まれとるからな。母親代理みたいなもんや」


花:「うっわ、腹立つわ。ウチも今度あんたのお母さんから世話を頼まれるようにせがむわ」


洋介:「どういうことやねん。せがむなや」


花:「で、本題入ってええ?」


洋介:「あぁ、そういえばなんやねん」


花:「これ、撮影禁止やった」


洋介:「…………」


花:「プチ炎上案件やね」


洋介:「……写真消して謝って、ついでにこれなんですかって店の人に聞こか」

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