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保想信起  作者: ジギ丸
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たもちおもいのしんじおこし

エブリスタとの重複投稿です。


皆さんは、日本武尊を知っているだろうか。今の九州で暴れていた、荒くれ者を討伐し、倭を平和に導いた、しかし天皇にはなれなかった男だ。


この物語の前書きは、そんな日本武尊の子、仲哀天皇の一生を描いた、魑魅魍魎、奇想天外な話である。


仲哀天皇は物語を書いたことで知られている。いや、その名よりも物語の名の方が有名になり過ぎてしまった。

彼の書いた小説の名は、浦嶋子。古来の神々の中の宇摩志葦芽の神の宇摩志から取った名だ。

彼は他の優れた小説家がそうであるように、優れた小説家であると同時に優れた歴史家だった。

神代の歴史を研究し、一つの物語を作り上げた。


そう、今でいう、浦島太郎は、日本武尊の子、仲哀天皇が書いたのである。


筆者は今、仲哀天皇の人生のどの部分を切り取って語るのがいいか考えながら書いている。

どうすれば、仲哀天皇が浦嶋子を書いた状況が伝わるだろうかと。



ある日、仲哀天皇は一人の少女と出会う。


九州のそのまた向こうから来たという少女。彼女と彼は瞬く間に恋に落ちた。

彼女の名は気長足姫、オキナガタラシ姫だ。沖縄の語感の語源になっている。

彼女はのちの神功皇后。女性天皇ながら、その活躍は、桃太郎として今も伝わる話にされて残っている。


桃は古来より女の象徴であった。桃から生まれたとは女として生まれたということである。神功皇后は、仲哀天皇が死んだという壮大なブラフの後、その頃日本にちょっかいを出していた朝鮮半島に渡り、これを討伐した。それが男装して行ったのだ。

朝鮮半島を鬼ヶ島と捉えれば、桃から生まれた神功皇后が、男装し、九州で仲哀天皇が討伐した熊襲たちを仲間にし、日本の村を襲っていた朝鮮に渡り、見事に討ち果たしたことが逸話として残ったことは、桃太郎として残っていたと考えると、符号が多くある。


壮大なブラフとはなんだったんだろう。


それは、熊襲を討伐した際、仲哀天皇が目に矢が当たり、死んだという嘘のことである。

歴史書には、天皇になった仲哀天皇は、神憑きの状態になり、今後の進退を占った。とある。

が、それが、仲哀天皇の最初のブラフ。布石である。


彼は最初から、九州に行く理由を決めていた。妃である神功皇后の故郷、沖縄へ行くことである。

だが、そこで幸せに

二人仲良く死ぬまで暮らしました、では、天皇としての立場がない。

仲哀天皇は、一計を案じ、自分が死んだことにする計画を思いつき実行したのだ。



浦嶋子には、玉手箱を開けた主人公が白くなるという描写がある。

死んだ天皇として、白くなったのだ。

そのまま、天皇はつかの間の幸せを得て、紙となった。つまり小説の中に永遠に閉じこもったのだ。


僕がこうしてその殻を打ち破り、歴史の舞台に出で来させるまでは、永遠に。


天皇が完全に崩御した後、神功皇后は、鬼ヶ島に渡り、鬼たちをやっつけた。

もしかしたら仲哀天皇が書いた物語、桃太郎をそのまま現実に起こすために、その話に準えるために、わざと男装したのかもしれない。


そののち、彼女は、神憑きを行った女性として卑弥呼と呼ばれる。

そう、邪馬台国とは、彼女が作った。

倭と読めるのもそのはずだ。



ところでこの物語はここで終わる。神代の時代。その終わりとして仲哀天皇が出てきたように、現代の神話の時代の終わりとして、出てきたのが、僕なんですよ

と、謎の正当性を訴えて終わります。


まもなく本編が始まります。

初めに混沌があった。


混沌が分かれて、古含(いにしえのふくみ)が始まる。


古含は時空であった。


時空とは世界であった。


世界は無勾(むまが)で、


無勾は、含勾(ふくみまが)である。


含勾は、紅と蒼

黒と白を表す、反対側の君達に伝わる為の蒼紅(そうこう)


蒼紅は四事(しじ)を象る。


四事とは、引足(ひきたし)

十二に繋がる奇跡の軌跡


と、実虚(じっきょ)

実々虚々全ての入れ子として


である。





それら全てが、全てと言い切っては違う程の、存在、集まり、何もかもが、混ざり合う混沌の世界があった。


引きと虚から大海が生まれ、足しと実から大地が生まれ、

引き引き足し足し虚々実々から、人間が生まれる。


そして世の中が、天地開闢(てんちかいびゃく)以来固められていた大海と大地がくっ付きそうな程近付いてきて何もかもが破滅の世界に巻き込まれていく。何もかもが、と言い切っては違う程の、人、行動、全てが混ざり合う矛盾に満ちた時代が来てしまう。


そこで、この二つを保つことが大切となる。想いが保つことになり、矛盾や混沌を徐々に和らげていく


最後はこの言葉すら……









人間が日本列島に住むようになると、人々は天皇(すめら)を選んだ。最初に天皇に選ばれたのは、天御中主(あめのみなかぬし)である。彼は火を起こした。

次に天皇に選ばれたのは、高御産巣日(たかみむすび)である。彼は地上に高く住まいを作った。

 次は、神産巣日(かみむすび)である。彼は神々を生んだ。


そして、宇摩志(うまし)という、葦芽(あしかび)という天皇が生まれた。彼は冠婚葬祭を整え、日本人が日本人らしく生きていく術を人々に教えた。


その後、加具土命(かぐつち)天照大神あまてらすのおおみかみ素戔嗚(すさのお)、玉櫛姫、大物主(おおものぬし)という神々が出て、人々は栄えた。


その後、神武(じんむ)が倭を立て、

倭武(やまとたける)、仲哀が邪馬台国を開いた。



その邪馬台国の最後の天皇の名は、銖鼎天皇(しゅていすめら)。この物語の敵役である。


彼は春めいたある日、大津波と共に生まれた。最初から人騒がせな人である。



物見やぐらが大津波の到来を告げ、門番の男たちは抱き合い、家政婦たちは机の下に隠れ、小鳥は大挙して飛び上がった。銖鼎天皇(しゅていすめら)は幼名を(はせる)といった。馳が生まれ産声を上げると、大津波はピタリと噓のように静まった。


一体どんな意味があってこのような生まれ方をしたのか、馳を巡って、周りの人々は首を傾げた。首都名古屋の預言者たちが集まってこっそりと神にお伺いを立てた。しかし全く風のそよぎが止まり、予言ができなかった。頭を抱えた預言者は含師(ふくみじ)荒和(あらなご)に尋ねた。

 含師の荒和は代々邪馬台国に仕えた忠臣である。彼は神世(かみよ)神術(しんじゅつ)の修行をしていたことがある。琉球諸島で波留教(はるきょう)に入り、神になり切れずに、本島に戻ってきたが、諦めきれずに富山の山奥で破面教(はじきょう)に入信したことがあった。しかし、その技を人世(ひとよ)で使うことはしなかった。であるから、国の預言者たちが荒和にお伺いを立てに来たところで、追い返すところなのだけれど、荒和も迷っていた。彼の乗る、雷竜(らいりゅう)が馳の誕生とともに一声泣いて、鳴くのをやめ、止まっていたからである。

「そうだな雷竜に聞いてくれ」

 荒和は咄嗟にそう返事した。

 預言者が大海原の竜にこの皇子の誕生は吉か凶か訊ねたところ、雷竜はやはり返事をしなかった。

 返事がないのは育て方次第だということだ。

そう荒和は考え、預言者を下がらせた。荒和は馳への想いが一潮で元気に育てようと頬ずりするのであった。


馳は含師の荒和という強力な後ろ盾を獲得し、元気に健やかに育っていった。しかし、次の天皇に選ばれるかは微妙なところだった。馳は三人兄弟の末っ子だったのである。そんな時、馳は先の天皇の命を助け、反対する者が消えた。

 こうして馳は、手提天皇(しゅていすめら)として皇太子として呼ばれるようになった。

その後、先の天皇が死んだ後ついに改名し、銖鼎天皇として、皇位についた。


銖鼎天皇は賢帝として頑張っていた。北海の(いき)のシビが反乱を起こしたという情報が入ったときも、含師の荒和が外門を出たとき、既に問題は解決したも同然と考えられていた。


朝礼の時、銖鼎天皇がいう。

「組織は堅苦しくあるべきだ。慎みたまえ」

横に畏まっていた総理大臣の鈴木が平伏しつつ答える。

「はっ。申し訳ありません!」

「大丈夫か?」

「そ、そうだ、銖鼎天皇! 荒和様の必勝の祈願に、伊邪那美(いざなみ)宮へ詣でては如何でしょう。」

「どうしてそんな事をするんだ? 鈴木総理」

「伊邪那美様は霊験あらたかと聞き及びます」

「それなら参ろう」


こうして銖鼎天皇は伊邪那美宮に来た。

暇そうに伸びをする。

「銖鼎天皇様! 大丈夫で御座いますか?」


白と黒の六角形の図形、二匹の生き物がお互いに食べ合っているような不思議な図形。


魔法のような呪文の書かれた記号だらけの本。


美しい女の壁画。


「ここには珍しいものが多数存在するな」


「はっ、左様で御座いまする! あちらに行かれてはどうでございましょう」



銖鼎天皇はその通りに進んだ。

そこには六人の女性に囲まれたぼうーっとした王の絵が描かれていた。

神聖な壁画が嘲笑わせる。


そして伊邪那美の像を見た。


雪解けの水滴が草木の葉を跳ねるようだった。とんでもなく美しい。

ほっと何度ともなく銖鼎天皇は嘆息をつく。


「おい! 伊邪那美とは何故このように美しいのだ!」


「ま、まあ、本世(もとよ)本女(もとにょ)ですからね……」


古からの置物に包まれて銖鼎天皇は、伊邪那美宮で、淫らに、指を指揮棒のように揺らし鼻歌を歌う。


 草の上を跳ねる露が如し

 かの神女をこの手に掴みたい

 神だって全柱それ位の事はする

 こんな感じで俺も幸せに生きてもいいんじゃね

 享楽に毎日溺れ神女の幸せを一身に受け

 そして聖女を誑かすそれのどこが悪い!

 俺だってほんの少し乱れるのが何が悪いんだ!!!  そうだろ?


指揮棒のよう指を揺らしながら不遜な淫らな思いを歌う銖鼎天皇。


そして、この歌を、伊邪那美宮の壁いっぱいに墨で書いてしまった。


なんて罰当たりな……総理の鈴木は驚き呆れた。そしてこの場に荒和がいないことを激しく悔やんだのだった。


伊邪那美はその夜、帰ってきた。正月で比古宮(ひこのみや)まで本世の方々に挨拶に行っていたのである。帰ってみると、侍女たちが泣きべそをかいている。

「どうしたの? みんな」

「銖鼎天皇が来て、こんな破廉恥な歌を壁いっぱいに……」

「これは、公然猥褻行為だっ!」

 とワナワナと体を震わす。そして

「かの邪馬台国は数十年で途絶えると本定(もとさだめ)で決まっている。だのにこのクソが、セクハラ行為、謝罪の余地が欠片足りとも存在するか!!」と銀杏義(いちょうぎ)の召喚鏡を取り出して、月の光で照らす。銀杏義は神々の力を増幅させる秘密道具である。


(りゅう)!」


伊邪那美が気合を込めると、蒼紅が四つ合わさり鏡から光が溢れ出し、一筋の波が現れた。そして波の中から妖光や妖精達が集まってきた。


動植物や物などが、大海の覇気と大地の精気を取り込むと、妖光となる。妖光が修行し、人型を取りうるようになると、妖精という。妖精が常に人の姿を取りうるようになると、妖孽と呼ばれるようになり、神人達と殆ど変わらない。神人は人間である。


「誰か! 銖鼎天皇をブチ壊せる気概ある者は来てないのか!」


伊邪那美は九百年の狐の魂と、妹分の二つの魂を残し、他の妖精や妖光達を帰らせた。

「本世の本定では邪馬台国はあと数十年で滅びることになっている。あの銖鼎天皇を破壊し邪馬台国を滅ぼすのだ。上手くいった暁にはお前等を妖孼(ようげつ)と認定し、人と同じく振舞えるように取り計らいましょう」


「畏まりました!伊邪那美様!」


九百年の狐が妹分の二つの妖精と共に、朝歌の名古屋に近づくと、そこに白い猫に乗った神がいた。由未猫守(ゆいねこじゅ)である。


「発狂しているのか? 伊邪那美!」


「くうううううう」


由未猫守は白い猫、白湖猫(びゃっこねこ)に乗った神である。腕輪に仕込まれた呼本玉(よびもとのたま)は最強の銀杏義と名高い。比古宮の「含上辺老(ふくみがみべのろう)」が与えたとされるが詳しいことは謎である。


九百年の狐の魂はスゴスゴと去って行った。


それから……

銖鼎天皇の歌に、天上の存在が、風と空の雲の影を感じ、驚いて、九百年の狐狸の魂を東京の女に入れ導き出だした。


その名は|芽嬬》。

古の凄艶な美女、玉梓(たまずさ)のように、傾国の美貌を持つ、妖艶な妖女だった。


芽嬬は銖鼎天皇の元にやって来た。


「あの失礼します銖鼎天皇様。芽嬬と申します」


「おぉ、なんと美しいのだ! ……神々しい……」と銖鼎天皇は嘆息をつくばかり。


人世(ひとよ)に降りた芽嬬は、銖鼎天皇の横にいて、毎晩お世話することになった。しかしそんな時、芽嬬は本来の目的から外れ、あらゆる悪事の中でも、悪い事に銖鼎天皇と共に呑み込まれていき人間社会は大混乱。特にひどいのが不妊怪波と呼ばれるもので、24時間長時間浴び続けた人は、不妊に近づいていくという怪しい恐ろしい波動である。


こういう事が続いて、こういう物を使って、銖鼎天皇は取り入れられていた。



銖鼎天皇は周りの域から朝貢させ、その税で生きている。更に自分を守る人々に対して、迷惑をかけている。悪いことを言ったりしている。彼らは安い賃金だ。命に見合う報酬として十分なのだろうか。


銖鼎天皇は自分の友達、つまり各域の諸侯達と通信し、呼び出し、精神を破壊し殺してしまう。東域東京、西域神戸、北域富山、南域大阪


東京と大阪の諸侯は殺し、西域の諸侯は囚われた。北域の諸侯は銖鼎天皇に(なび)き難を逃れた。


そこへ琉球十二神句の一人、映送幸君うつしおくりのしあわせぎみが、二神島より来た。

映送幸君は、義刀を、銖鼎天皇に献上するため参上した。

「屋敷の中から邪気を感じました。この義刀を掲げれば、治まると考えられます」

「そんな気するけど、それ、ちょっと早くないかな」と銖鼎天皇は小冊子を読みながら首を傾げた。


そうこうするうち銖鼎天皇は芽嬬に頼り、生きようとしなくなった。


「死にたい……殺してくれ……と思うじゃん! 誰だああああこのボケがあああああ……やはり」


生きる気力を失くした人間なのだ。こんな奴は人間と呼んでいいのか。


「それでも……」


「あらーん銖鼎天皇様? 今更何を御冗談言っているのかな?」


 あちらこちらに紙ティッシュの固まりが置かれた床面。その真ん中に大の字になり、呪いの言葉を吐く死んだ目の銖鼎天皇。

そんな彼に芽嬬が覆い被さる。


「銖鼎天皇様、肩が凝っておられますわぁ……こっちも」


窓の外は真っ暗で、人々の騒めき苦しい阿鼻叫喚の声が響いている。


それを見ている者があった。


それを見ている者があった。


琉球諸島宮古島の珠虚城(たまうつろのしろ)にいる。鳴一本尊なりはじめのもとみことである。


海を眺める丘の上の建物、珠虚城の明初間(あかりはじめのま)の窓が開かれている。鳴一本尊は目を閉じて立って、両手を開き、海の声や雲のざわめきをお聞きになっている。


「この予感……来てしまったかこの時が……」

と目を開きなさり、ゆっくりと舞を踊る。


すると傍らに、白犬の姿をした、白犬丸幼(しろいぬまるのおさな)が現れ、恭しくお辞儀をする。


「鳴一本尊様……っ! 踊りを!」


「来たか白犬丸幼よ、愛目丸(あいめざめまる)をここへ連れて来なさい」


と舞踏を踊り続ける。


「はいっ!」


白犬丸幼は直ぐに珠虚城の中を凄い速さで走り出す。


珠虚城の響きの間と呼ばれる、波動の集まる場所では、愛目丸が静かに寝ていた。


扉が開き、白犬丸幼が跳び込んでくる。


「愛目丸! 起きろ! 大事だっ!」

 と耳元で騒ぐ。


愛目丸はスーっと腕を組んだまま目を開いた。


「めっちゃうるさいやん」

「あーお社様が話すと色々台無しだ!」


「ギャーギャーうるさいなあ」

 と、愛目丸はスーっと目を閉じる。


「老爺様が舞を舞われたんですよーっ!」


「……それは事実か?」


「私の目で見ましたよーっ! そうだそれに」


「それに?」


「それに老爺様から収集命令ですから」


「老爺様が踊り、か……」

 と愛目丸は腕を組み起きてくる。


白犬丸幼に服の袖を咥えられながら愛目丸は歩いていく。


珠虚城、明初間で愛目丸(あいめざめまる)の声が響く。


「鳴一本尊様の一番弟子、愛目丸、只今参りました」


「もう何十年寝たと思っているのだ! 愛目丸!」


「うーそんなに寝てたのですか!」


「……白犬丸幼よ説明しなさい」


呼ばれ、傍らに下がっていた白犬丸幼が大声で申し上げる。


「アンタ! アンタみたいな方者(かたのもの)は、神人(かみびと)と一緒で不老不死なんですよー!」


「え、あ、そそ、そか、そうだった! ありがとな白犬」


「もうアンタ、そんなに調子乗ってたら〇ぬから気を付けてね」


「あ、うん。で、鳴一本尊様、何くれるんですか?」


「……まあよい……ご覧人間界を」


「ん?」


「そなたには保想(たもちおもい)計画の実行者として旅立ってもらう」


「え?」


「本世の本定では邪馬台国の命脈は数十年じゃ。お前は西方の域へ出掛けよ!集友(しゅてい)」を興して、邪馬台国の銖鼎天皇を討つのだ!」


「え……」


「また保想計画のまとめ役になって新しい想世(おもいよ)を開くのじゃ!」


「あ……はい」


「では出発しなさい」


 宮古島を後に、愛目丸は釈然としなかった。追い立てるように出されたのが冷たくもあり、寂しくもあった。浮かない気持ちのままで水波を借りて乗ろうとすると、そこへ由未猫守が声をかける。


「おい! 愛目丸! 行くのかい?」


「えぇ……由未猫守……あぁ……うん」


「どうしたんだ?」


「鳴一本尊様から保想計画たもちおもいのけいかくを……」


由未猫守が舌打ちする。


「それで?」


「色々言われたんだ、本世の本定で……」


「そんな妄言意味ない!」


「由未猫守、言うな……俺だってやる時はやるよ!」

と会釈する。


「本気で言ってるんだな?」


「立てた弁当元に戻らずだ」


「なるほど、いいだろう。愛目丸、人間界は終わりかけている!」


「だから保想計画が実行される……」


「上の連中が動き回っている、あれねぇ」


「任されたんだ」


「オレは好かんな、だが、人世のことはお前が何とかしろ」


「由未猫守……一人じゃきついよ」


「まず名古屋へ行け、そこで見て行け!」


「一緒に行くか?」


「フザケけるな。オレの銀杏義知っているだろう?」


「呼本玉か、あれ、使っちゃダメだからな」


「分かってる!」


「一回使っちゃ終わりだぞ」


「ザケるな、分かっている! いい加減にしろ!」


「あぁ、じゃあもう行くわ、ありがとう」


「後ろから打とうか?」


「その一回が今必要?」


「やってみる?」


「さあな」


「煽るか!」


由未猫守の乗っている白湖猫が話し出す。

「いくよー由未猫守ー、もうはいはい行った行った」


由未猫守は舌打ちをし、飛び去る。


茫然と取り残される愛目丸。


「俺は俺でやることがあるんだ」


愛目丸は水波に乗って、名古屋へ旅立つ。名古屋は邪馬台国の首都である。


名古屋では安政荒治将やすくにのあらおさかどである賢明(けんめい)火竜(かりゅう)が銖鼎天皇の愚かな行為に手を塞がれていた。


荒治将省の宿舎では、火竜が荒和にスマホで電話している。


「荒和、頼む、早く戻ってきてくれよ」


「火竜、止めるな、これしかなかったのだ。これもまた俺の務め。止めるな火竜……」


「荒和、そんなにもちそうにない……早く! ちっ……」

スマホを切り、火竜が舌打ちする。


「クソっ荒和、帰って来いよ!」


「火竜様……」


部下の男が荒治将省に入ってくる。


「お前か……ちっ」


「荒和様が仰っていたでしょう……」


火竜が両手を打つ、右手を拳にして左手に叩きつける。


「クッ、てめえは出世するよっ蛇乱!」


「蛇乱じゃない、蛇《《乱》》だ間違えるな。荒和様が仰っておいでだ、大人しく待つんだな」

蛇乱の後ろから、響獣(ひびきのけもの)の「真冠(しんかん)」に乗った、華乱傘(がらんざん)好昔(こうじゃく)が現れる。


「好昔までいるのか……」


「蛇乱! 行こう!」


「あぁ、華乱傘の好昔!」


『じゃあな火竜』と言って二人去る。


「荒和ぉぉぉぉぉおぉ!」


「あらぁん、外が騒がしいかもん!」

独特の足運びで芽嬬が現れる。


「あなたも静かにねぇん!」


「ここに荒和がいなくては、お前が、クッ」


「ねぇ荒治将さん、あの川ね!」


「あ、あああの川は」

突然質問され我に返った火竜が川の名前を言おうとすると


「今日からあの川、芽嬬川にしたから、よしくねぇ」


「くっ……荒和ーーー!」

頭を抱えうずくまる火竜。


手にしたスマホを真っ二つにしてしまう。


「銖鼎天皇様、私はあなたを……」


琉球諸島最果島(さいはてじま)から、含心思人ふくみごころのおもいびとが下りてきた。彼は、挙矢(きょや)という少年を作り上げた。


「そのうちさ、愛目丸の助けになるだろうから」


最果輪(さいはてのわ)や、水撃砲、水進車、蒼紅の刀などの銀杏義を彼に与えた。



さて、朝歌に着いた愛目丸は、山氏の家に行く。二人は幼い頃より一緒に遊んだ仲である。


町の様子を見た愛目丸は、

「荒れ果てている、邪馬台国を滅ぼして、新たな王朝を興すのはどうだろう

と言う。


それを聞いた山氏は、


「アホなん?」


と相手にしない。というより小馬鹿にして聞こうとしない。


「そんなことよりこれからどうするん?」


「まず王朝の様子を探ろうと思う」


「ずっと会わないうちにおかしくなっちゃった」


と、山氏による愛目丸の説得が始まった。


愛目丸は丁重に断り、王都で適当に仕事を探すと言った。


「なら俺の店を貸してやる」


適当に過ごしているとこんな噂を聞いた


「川の名が芽嬬川になるそうだ」


「どういうことだ?」


「芽嬬様のわがままさ、ひどいものだよ」


「芽嬬?」


愛目丸が曲げた指を伸ばしながら、小冊子を片手に占うと、本世の本定で決まっていることだと出た。

「今行っても勝ち目はない」


次の日、愛目丸は山氏に別れを告げ、西方へ旅立つのだった。



西方の神戸では、最高権力者の域の(かみ)理火名(りびな)が、含湊守(ふくみすめらじゅ)を探していた。これ以上朝歌の銖鼎天皇を好き勝手させておけないからだ。


含湊守とは、理火名の父親の、含守(ふくみのかみ)(あつ)めようとしていた人だという意味である。


「しかしいないな、違っているのではないか?」

と理火名は部下の南部(みなべ)に尋ねる。


南部は、


「大丈夫です! 必ずおられるでしょう! それに銖鼎天皇のやりすぎを止めれるのは、理火名様だけです!」


と、勇気づける。


「それでもなあ、そもそも賢人が現れない……」


と理火名は意気消沈している。


山の中の、草原の前の四角形の岩の上に、愛目丸が座っている。薬草でも摘んでいるのだろうか。しかし、籠は持っていない。


理火名が近づき、

「葦原で摘めますか?」と聞く


愛目丸は

「大物が摘めたようやなあ」と微笑みかけるが


「そんな大物では……」というので


愛目丸は小さく舌打ちする。


「世の中グロいことになっている。なのに軟弱な言い方だ。貴侯は変える力を持示しているからな」


「変える力、について教えてほしい」


「名古屋の王や姫は、ヤク木性湖(やくぎせいう)に溺れ、他の域の有力者をも破壊した。乱れた世の中で、徳川から集友(しゅてい)へと、革命の時が来ている。」


「革命の時、についてもっと教えてほしい」


「もう直ぐだ。西方の域が役目を果たす。国が壊れた時、立ち上がるべきは貴候だ。今だ。今行くのだ! あなたならできる! 間違いない! そう誓おう」


「分かりました。立派なお方とお見受けしていましたが、その通りです」



すると南部が


「これぞ我らが探し求めていた含湊守です」


と喜ぶ。


こうして、理火名と愛目丸は城へ帰り、「集友」を旗上げする準備を始めた。


朝歌では、今日も銖鼎天皇はヤク木性湖に耽っていた、いや、狂っていた。芽嬬が、

安政荒治将やすくにのあらおさかどの賢明火竜には、とても美しい婦人がいるそうです。わらわより格段に輝く、美貌をお持ちだとか……」

と銖鼎天皇に言う。

「そうか、余も気にしていた。火竜婦人を宴へ御招待だ!」


こうして火竜婦人は宴のある塔に招待され、芽嬬の卑劣な罠にかかり、塔から落ち死んだ。


「荒治将様! 火竜婦人が!」


荒治将省に報告の声が響き渡る。


報告を聞いた荒治将は叫ぶ。


「そんな……くっ、もう限界だ。すまぬみんな造反の時だ!」


そして銖鼎天皇に向けて奏上文を書く。


銖鼎天皇への奏上文

一、ヤク木性湖に溺れ、朝廷を顧みなくなったこと

一、地方の権力者を虐殺したこと

一、日本全国を不況にしたこと

一、不妊怪波を流しっぱなしにしたこと

一、芽嬬のわがままに川の名前を芽嬬川にしたこと

一、火竜婦人を墜死させたこと

以上をもって安政荒治将の賢明火竜は造反す


「やったぜ! そうこなくっちゃ! 兄者!」

荒治将の、四将が声を上げ、造反の準備を進める。

彼らは荒治将の義兄弟の契りを結んだ仲である。


奏上文を朝廷へ置くと、荒治将は外に出る。


城を出る荒治将、そっと後ろを振り返る。思いが募って声が出た。


「ここが天下の邪馬台国の終わる時! 徳川の命脈はここに尽きたのだ!」



長距離の旅から荒和は帰ってきて、荒治将の反乱の報を聞く。

銖鼎天皇への奏上文を読みながら

「これはきっと誤解だ。火竜に限って造反など考えられん」

とバサッと奏上文を傍の机の上に置く。


「大変失礼ですが、銖鼎天皇様、ここに書かれていることは正しいですか?」


「それは、誤解だ……」


芽嬬は隠れてしまって、後宮から出てこない。


その代わりに銖鼎天皇は、荒和が連れ帰った満月のペンギンと遊ぶのだった。


「メーメー」


可愛く、泣き叫び胸に飛び込む満月のペンギンに、銖鼎天皇は笑顔になる。こうして荒和の力によって、邪馬台国の平穏は続くかに見えた。


しかし荒和は、荒治将を追って、征伐軍を出し、それに伴って城門から出発してしまう。


出発の挨拶に、荒和は妻の呼伸姫(こしんひめ)に会う。

「帰ったぞ、呼伸姫……」

「お帰り! 荒和!」

二人はキスをする。

「だが賢明の火竜が造反したのだ、追跡せねば……」

「また行くんだね、分かった」


こうして荒和の軍は城門を出て荒治将を追跡する。


荒治将の軍が危ない!


それを見ていた琉球十二神句の一人、至宝島の夢澪手目(ゆめみおしゅめ)が銀杏義の、理対のヘアバンドを振る。


「流!」


と鋭く気合をかける。


時間の流れがラグくなり、荒治将の軍は隠れた。


そして東に向かってヘアピンを投げる。


「流!」


偽の兵団が出てきて荒和の目を誤魔化す。


「荒和に指を伸ばす時間をを与えなければ良いのだけど……」


こうしてグルグルと、消えたり現れたりする荒治将の軍を追いかけているうちに、荒和は西域に着いてしまった。



小冊子を片手に指を曲げ、伸ばす。


「死ぬかもしれない……」


と通っている道の絶竜峠を見ながら言う。



荒和が西域に来たところを見かけた斥候が、報告する。


「朝歌の含師の軍だ。含師の荒和は額の第三の目が開いていた。相当怒っている証拠だ」


愛目丸がそれを聞き、「ヤバいやん」


と、琉球王国宮古島まで砂波を借りて飛ぶ。


珠虚城で鳴一本尊に会う。


「鳴一本尊様……頑張っています」


「そうか、これを渡そう」


と木の枝と白い眼の生き物を渡す。


「これは!」


刺想槍(さしおもいのやり)無四像(むよんぞう)だ」


「銀杏義と響きの獣ではないですか!」


「そうだ、そして甲山(かぶとやま)に、保想の塔を作るのだ」


「了解です!」


こうして無四像に乗り、刺想槍を持って、愛目丸は帰ってきた。途中甲山で、保想の塔を作ることを忘れなかった。


帰ってくると、荒和が城の門の前に出て来ていた。


「ちょっと待て火竜!」


挑戦状を叩き付け、荒和が出てくる。額の第三の瞳が開いて白い煙が上がっている。


荒治将の火竜が出てくるが、横に愛目丸がいる。


それを見て荒和が激昂する。


「お前! なぜ裏切ったー!」


「う、荒和……」と帰りかける荒治将。それを愛目丸が止める。そして代わりに答える。


「邪馬台国の命脈は終わったんだよ。ゴチャゴチャっせえな」


「邪馬台国の命脈は終わらん! 私がいる限りな!」


「なら言うが、銖鼎天皇はもう人々の思いを失っている毎晩毎夜の悪行三昧に人々は呆れ返ったのだ。」

と咳払いし、続けて

「よって、我らが国が興された! 集友は邪馬台国を全滅させる」


荒和は顔面蒼白になり、ワナワナと震えながら去った。


「なるほど、含湊守とか言ったな、どこか納得するようなところもある。話す口が回るというのも本当だった! ……許容範囲外だ」


荒和は大海原の竜に乗り、富山の山奥まで飛んでくる。


そこには、破面教(はじきょう)の神達がいた。十本辺(じゅうもとべ)である。十本辺の一人、皇本辺(すめらもとべ)が言う。

「琉球諸島の連中が画策している。我ら富山の神共を殺し、想世へ保つとのことだ」

「皇本辺よ、力を貸してはいただけないか」

「無論だ。そんな無礼を許していたら、俺はどうなる。この日のためこの時のため生まれ、育ってきたこの俺は!」

「どうした」


万本辺(まんもとべ)が横から言う。

「鋳型を奪われたんだよ、皇本辺はそれで怒ってるんだ」


「そうか、神世のことはよく分からんなぁ」


「まぁ気にするな、気にしているのは実は皇本辺くらいのものなんだよ」

万本辺が再び荒和の方を振り向きもせず言う。


「ケッ無知な奴らはこれだから困る。アホだらけだ」

皇本辺がぼやく。


「は、はぁ……とにかく含湊守(ふくみすめらじゅ)を、集友(しゅてい)を止めに助けに来てくれ」


「無論だ。何度も言わせるな」


荒和は納得し、大海原の竜に乗り、帰る。


既に城門の前には、集友の面前に、十本辺が十絶領域を開いている。


琉球十二神句もその面前に住居を作らせ、一人一人と渡ってくる。


含波島 風時港 赤丸晴

三功島 地溝島 示侠命

二神島 天流港 映送幸君

五竜島 海岸港 夕見思人

六輪島 大海港 包夢印君

論鉱島 潮風港 由似手目

次回島 炎天港 柚実手読

最果島 稲妻港 含心思人

参尖島 機械港 悠深思人

至宝島 明紅港 夢澪手目

御賢島 氷雪港 優瑞手読

四珠島 水集港 真珠思人


神人たちが十絶領域を下見する。


「おい、神人共、皇本辺の白水領域に入って来い」


「明日以降にな、死に急ぐな皇真(すめらじ)


その夜、陣本辺が囁く。


「いったん含湊守を殺しとくか?」


荒和は


「おお、頼む」


と大きく頷く。


「愛目丸さえいなければ不用な争いをする必要がない」



陣本辺が自らの領域、殺魂領域に入り、藁人形を使い、愛目丸を呪いだす。


愛目丸は苦しみ瞳から力が抜け、茫然とするばかりになった。


琉球諸島宮古島から、この緊急事態に対し、すぐさま全勢神人(ぜんせいのかみびと)が渡ってきた。




全勢神人は、十二神句よりも格上の、別格の神である。鳴一本尊より伝えられた不真不不の概念を会得し、不老不死を賜った神人である。

「紫水宮の夜戯走神人(やぎばしりのかみびと)様は?」

「まだ矛盾辺としたご様子だ」と映送幸君が答える。

「救済の姿か、本当にあるのか」と夢澪手目。


「疑うな。それより、やはりここは……」と全勢神人が制止する。


真珠思人が来て言う。


「ああ、あの領域を破るには、比古宮の含上辺老様の含勾画(ふくみまがえ)が必要だ」


優弥(ゆうよ)をお借りできますか」


全勢神人が、真珠思人の弟子の四珠島、水集港の優弥を比古宮に遣わす。


比古宮へ、優弥は入って行く。


含上辺老と謁見し、事情を説明し終わると、含上辺老は、


「そうか、それならこれを貸してやろうかな、チェック」


と、含勾画を優弥にお渡しになる。


十二神句の一人、含波島、風時港の赤丸晴(あかまるのはれ)が、含勾画を受け取って、殺魂領域へ入って行く。



「流!」

銀の桟橋が現れる。

その上を通って、赤丸晴が殺魂領域の中に釣り糸を垂らして、貝殻を拾う。

殺魂領域は貝殻に呪いを込めて対象を殺す陣なのだ。


陣本辺が慌てて白砂を投げる。


赤丸晴は避けたはずみで含勾画を落としてしまう。


「なんだ? 今は原始時代だったか?」

陣本辺は他の貝殻をぴらぴらさせながら含勾画を拾う。


次の日、琉球諸島の神人たちがどんどん領域を破壊していく。


十本辺の一人、永鈴(とこすず)がそれを見て


「くぅぅむぅっ」と不貞腐れる。


柚実手読(ゆずみしゅよみ)がそれを殺そうとする。


「保ち想いだッ!」


永鈴は逃げ去った。


十本辺の十絶領域が破れた。


荒和は敗残の兵を率いて絶竜峠まで敗走する。そこへ全勢神人が現れた。


「君はここで殺さねばならんのだ。それが本定ということだ!」


「勝手な事を……」

と荒和が唸る。


「あの世へ行け! 荒和! 大人しく……灰燼に帰せ」


全勢神人の投げた時相珠により、燃える。


そのまま飛び上がる荒和は、頭上で待ち受けていた、包夢印君の極存の杯により、存在が歪む。


そして空中に設置されたテトラポッドにぶつかって落命する。


魂が保想の塔に向かって走る。


「待てぇ!」


朝歌を一周し、おもむろに荒和の魂は保ち想いされた。




賢明の火竜は、理火名に頭を下げる


「助けていただきありがとうございました。」


「朝歌では……」


「はい、安政荒治将やすきくにのあらおさのかどと呼ばれていました」


「なら西域では、始政荒治将はじめくにのあらおさのかどと呼びましょう!」


「ははっ」


そうこうするうち理火名は亡くなり、占術天皇(うらすべのすめら)と名付けられた。


荒和の亡きあと、情炎という女が現れ挑戦に来る。


最果島、稲妻港の含心思人が挙矢(きょや)を送り、挙矢は最果の腕輪を投げたりして、情炎を倒した。


そこへ全勢神人が来て、情炎を助ける。


「挙矢よ、ここから先はこちらに任せてもらおうか」


「へん、お坊様か神様も色恋沙汰に大忙しと見える」


「そういうな……情炎は私が責任もって面倒見よう」


「あら」と情炎は嬉しそうに呟いた。




集友では、愛目丸がまだ出国をためらっていた。

包夢印君が、

「勇気を貴方に」

といい残し去っていった。

しかし愛目丸は動かない。

そこへ理火名の息子の理火成(りびなる)がやって来るのだった。


「出国、まだしないの?」


「うーん、迷ってるんだ」


「すぐに時がやってくるんだ。それを座して通り過ぎるのを待っているの?」


「でもなあ」


「今も朝歌では人が死んでる! 命を消す気か! 行こうって湊守!」


こうして理火成は武押天皇(たけおさえのすめら)として呼ばれるようになった。


そして愛目丸は、遠征軍を出すことを考えるようになる。


理火成、もとい武押天皇を後ろに立たせ、愛目丸は二人で、武将たちへ向かって演説する。


「立てた弁当元に戻らずだ、行こう皆、行くしかない」


「そうだね含湊守」


「時が来た! これより集友は邪馬台国へ叛旗を翻す! さあ出発だ」


大歓声が巻き上がったのだった。





第一の関所へ、集友たちが遠征軍として進むと、伏持姫が現れ、勝負を挑む。


愛目丸が優弥に聞くと、優弥は


「人世で一番美しいとされる女です」と答える。


愛目丸が腕を組む。


西域の武将たちは、みな目が眩み、たんこぶを作って帰ってくる。


「ご無沙汰だねえ含湊守さん」


伏持姫が愛目丸を呼ぶ。


「いや、初めてだけど……」


「雑魚ばっかりだね!」


「いや、お前の美貌に目が眩むんだよ」


三功島より、示侠命(じきゃんのみこと)が渡ってくる。力量の靴下で、伏持姫を止める。


「私の体が重くなってるぅぅぅ!?」


伏持姫を仲間にし、遠征軍は先を急ぐ。


快進撃を続ける集友に向かって、破面教の神たちが殴り込みを仕掛け、敗れていく。


富山の山奥


「そうか、許せんな」


暗がりで、破面教の教主、世創本神せかいつくりのもとがみが決断する。


「もはや俺自ら出るしかないか! 皆神領域を展開……する」


こうして遠征軍の前に皆神領域が展開する。


含勾領域、蒼紅領域、引足領域を越え、皆神領域中枢部へ辿り着く。


含上辺老、鳴一本尊を始め、琉球諸島の波瑠教の神たちが集まり、皆神の領域を、集まった破面教の神たちごと壊し始める。


奥では、八犬火車に乗った由未猫守と、含湊守が、対峙していた。


破面教の神々が殆ど死に絶え、世創本神と方線桜子くらいになった。


八卦台に乗って、方線桜子が手を伸ばす。それを白犬丸幼が、鳴一本尊の三義海鳴珠で殺す。


それを見て、世創本神は憎しみのあまり覚悟を決める。最後の手段の永鎮合一をしようとする。あらゆるものを無に帰す、最終奥義である。

含上辺老と鳴一本尊は顔面蒼白となる。


そこへ


夜戯走神(やぎばしりのかみ)でーす」


夜戯走神がやって来る。


含上辺老、鳴一本尊、世創本神が、投網に絡まれ、領域空間のガラスの壁を破って、ポンポンポンと出されていく。


「あん? やる気なのか? やめとけって死ぬぞ?」


救済の姿である。


「これくっとけ、次やったら知らねぇぞ」


と赤い方薬をパシパシパシっと三晴天の口の中に入れ、食べさせる。


三晴天は顔を見合わせ、静かに頷き、配下の神々をまとめて、去って行った。



ようやく神同士の戦いは終わったが、首都直前の長野県に、蛇乱がいた。


「お前が蛇乱か」


「蛇乱じゃない、蛇《《乱》》だ間違えるな」


好昔(こうじゃく)の吏奈もいるよ」


「弱そうなのが出てきた」


「荒和様の亡き今……」


ぼんやりした顔の愛目丸達、しかし


「ここはこの蛇乱が、貴様らを全滅させる」

と好昔の吏奈と共に、響獣(ひびきのけもの)潮風狸(ちょうふうり)に乗り、戦場を縦横無尽に駆け巡る。



「流!」

最果ての腕輪を投げる挙矢。


その速度より早く走る潮風狸の上から好昔が「なんちゃってー当たらないよー」と笑う。


瞬く間に、油断していた武将や神の魂が保想塔に飛ぶ。


それに混じって火竜の魂も飛ぶ。


すぐさま、夕御手読が渡ってくる。


「そっか、そういうことか!」


圧倒的な力で集友の武将たちは捕まっていく。


呼伸姫が出てきて、愛目丸は捕まる。


悠深思人が来て、ギリギリ愛目丸を助ける。


優弥が気付く。


「なるほど、そういうことですか」


そして蛇乱を呼ぶ。


「何だ? 俺はお前らを許すわけにはいかないんだ」


「ではこうしましょうか?」


と優弥は対決の準備をする。


「何だ?」

「今から私が勝ったらどうしますか?」


「お前が勝ったら、含湊守を解放しよう……とでもいうと思ったか!」


といきなり斬撃を放つ。


「さっきからごめんね。でももう、ちょっと許せないよね」


優弥が放った喰本烏が潮風狸の足を食い破り、好昔が落馬する。一筋の魂が、保想塔に飛ぶ。


続いて、蛇乱も落馬し、優弥の三又刀が、その首級をあげる。やはり一筋の魂が保想塔に向かった。


櫛和が現れる。


由似手目が現れ、それを止める。


「世界が、変わるのですね」


「本当に?」挙矢が首を傾げた。


朝歌の、名古屋の銖鼎天皇の屋敷の中に、集友達が入って来た!


反響する壁の中の音。一番最後に抵抗する銖鼎天皇の姿があった。


挙矢が立ち向かう。


「いいよね! ぶっ潰すよ!」

「頼んだ!」


何合か刀がぶつかった後、挙矢がとどめの一撃を入れる。


「この! 斬撃をもって! 世界は変わる!!」


首が飛び、一筋の魂が保想塔に飛んだ。




それからしばらくして、琉球諸島宮古島では


愛目丸が保想欄を書いて完成させていた。


夕見思人が来る。


「終わりましたね」


「ああ、武押天皇が、銖鼎天皇の首を飛ばし、邪馬台国の世は終わった」


「史実の上ではね」


「あの時、芽嬬は……」


天皇の屋敷の中で、大勢の集友達に囲まれ、芽嬬と、愛目丸が対峙している。


「私、上手くしたよ!」


「黙れ女狐、貴様は、許せない! もう!」


と、首を飛ばし、一筋の魂が保想される。


「あらかた終わりましたね」

と優弥


「俺も、この言葉すらも、保たれる」

というと愛目丸は、大阪へ保たれることになった。




全明全想なりあかりのすべておもいが来る。


「これでおしまい! この話はおしまい! ……?」


何かに気づき立ち止まる。


読んでいただきありがとうございました。

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