始まり
初小説です。
ゼノガルド大陸の小さな村に一人の男が生まれた
畑を耕し村の食料を作り生計を立てる元冒険者の父。セイル。
村の医者として薬を調合し診療所で働く元魔術師の母。エーカ。
二人の間に生まれ、優しい両親の元で元気に育った男、カイル。
平均的な身長、黒い髪、黒い瞳の平凡な男に育った。
シーファ村は小さな村だった。だが不自由な生活とは真反対の環境だった。
皆に尊敬される村長、働き者の村人、元気な子どもたち。
村の中央に川が流れ畑の植物はよく育つ。水車が設置されており洗濯や水汲みにも困らない。
小さな花畑や木々が生い茂り、虫や動物も多く、子どもたちの遊び場や教育に最適な環境。
そんな村にカイルは生まれ育った。
シーファ村のすぐ近くにはラルガント王国と呼ばれる大きな国があり、王族や貴族が住んでいた。
交通の便も良く、村の人々は頻繁に街に出て商売をしたり買い物や酒場などを楽しんでいた。
近くの村は他にもあり、カイルはよくそこに出かけていた。
理由は2つ、恋人のレンと街からの依頼だ。
隣村だったがレンとは依頼で一度パーティを組んでから仲良くなり、そのまま恋人になった。
暗い赤色の髪でショートカット。白のシャツと黒のスカートを身に纏い、身長よりもかなり長い魔術用ロッドをいつも持っていた。常に笑顔で誰にも優しい彼女をすぐに好きになっていった。
そして恋人や生活のために、お金を稼ぎ依頼をこなす必要がある。
ラルガントで討伐の依頼を受け、目的の街に行き任務をこなす。
儲けた金でレンと遊ぶ。もちろん家にもお金は入れている。
食べ物に困ることが無くなるほど入れている。給料はかなり良い部類だ。
魔物の種類は様々だが、カイルが受ける依頼は危険度が低いものばかりだった。
植物を枯らしてしまうスライムや単体行動のはぐれゴブリンの討伐、植物採集などだった。
そもそも依頼を受ける時にパーティを組んでいないと難易度の高い依頼が受けられない。
レンとパーティを組む時に難易度が高い依頼を選ぶ時はあるが、好きな女の人に危険な目に合わせたくないため、一人での依頼を多くこなしている。
低い難易度ばかり受けているが、カイルは弱い冒険者ではなかった。
基本的な剣術はもちろん、ある程度の武器であればそつなく使いこなす事ができた。
両親から教えて貰っていたため魔法も使えた。基本的な属性である火、水、風、土は使うことができ、光や闇も少しだが使うことが出来た。
だが、特段強みがある訳でも無い、器用貧乏な男だった。
一方でレンは強力な魔術師だった。
この世界の人間は魔法が元々使える者と鍛錬で使えるようになる者がいる。
元々使える者は、主に王の血筋や由緒ある血縁が多いが、一般の人も使える者はいる。
魔法は体内に貯まったマナを魔法に変換することで発動させている。
元から使える者はスタミナを使うことで魔法が使える。
マナはスタミナと同じで、疲れが取れれば再度魔法を使えるようになる。
鍛錬する必要がある者の共通点は、体内のマナ貯蔵量が少なくマナを貯めておくことが出来ない。
スタミナからマナを作り、魔法を放つ必要があるのだ。
鍛錬で使える者は、一度マナを作ってから魔法を使う必要があるため必要なマナが作れない場合、魔法を発動できない。スタミナからマナへの変換効率が悪いと疲れるだけでマナが貯めれず、魔法が発動しない。といったように、鍛錬だけで魔法が使える訳では無く、決して全員が修行で使えるようになるわけではなかった。
魔法が使えるという時点で一種の才能であった。
レンの両親は魔法が使えない。鍛錬もした事が無かったが、レンは独学で鍛錬し魔法を習得していた。
魔法の鍛錬は基本的に魔術師に見習いとして弟子入りして習得する。修行方法が分からないからだ。
そうすることで、様々な魔法を学習し師匠の指導で精度を高める事ができる。
レンは独学なため少ない属性の魔法しか使うことが出来ないが、どういう訳か威力だけは異常だった。
光と闇の属性しか使うことが出来ないが、比較的万能な属性であり、加えて威力や精度が高いため、
デメリットが無いようなものだった。
どんな修行したのか聞いても、本を読んでがんばった、としか教えて貰えなかった。
あまりに特異な経歴の魔術師のため、街からスカウトがあったらしいが、今の方が楽という事で断っているらしい。カイルとしては近くにいれて嬉しかった。
ある日依頼を受けにラルガントの城下町へ向かっていた。父の畑で栽培する植物の種や、母の薬の材料の買い出しと、ついでに依頼を受けるためだった。そんな時、偶然街の入口でレンに出会った。
「やっほー!偶然だね!暇なら一緒に依頼受けよーよ!」
カイルを見つけたレンは、お気に入りの黒いスカートをなびかせながら嬉しそうに手を振って街の方向からパタパタと駆け寄ってきた。最初から結んでいないのか外したのか、襟のリボンであろうモノが胸ポケットから少しはみ出していた。
カイルより頭ひとつ分低い身長で、小さい体を大きく動かして走っていた。腰にはパンパンになった道具入れ用バッグがぶら下がっているが、中身が飛び出しそうなほど激しく揺れている。
「おはよう。走らなくても逃げないよ。街には依頼以外で用事はある?」
「私は無いよ!なんかいい依頼ないか探しに来たんだけど、カイルに会えたし一緒に受けよーかなって!」
「なら少し商店に寄ってから依頼を受けに行くから一緒に行こうか」
「はーい!いつもおばさん達のお手伝いしてて偉いね!今日も強い魔物倒して稼ご!」
レンは嬉しそうに横に並んで笑顔で歩き出す。カイルも内心嬉しく思い自然と笑顔になった。
「今日はいい依頼あるかなー?」
「最近は強い魔物は強いパーティが倒しちゃってるから、どうだろうね」
「あたし達だったらよゆーで倒せるのにー!」
「僕達っていうより、レンが倒せるだけだよ」
「カイルは強いよ!あたしが魔法でやっと倒せる魔物でもカイルは魔法使わず倒せるじゃん!」
「相性とかあるからね、僕は1回倒すまでは苦戦するし」
「それ!それがすごいの!1回倒せば何でも覚える!すごい!」
興奮しながら熱く語るレンにカイルは苦笑いした。
「強い加護だけど、その1回で失敗しないように常に修行しないと。何があるか分からないから」
この世界には加護と呼ばれるモノがある。いわゆる特技のようなもので、全ての人々は異なる加護が備わっていた。
カイルの加護のように断定できるモノから、レンのように気付くことが出来ないものまで様々だ。
「でも1回成功しちゃえばいーんでしょ!あたしがサポートしてカイルが倒す!はい勝利!」
「ははは・・・」
1度倒した敵の行動、技を自然と覚えることが出来る。それが僕の加護らしい。僕は周りに言われて気付いたのだった。確かに1度敵を討伐したら明らかに戦いやすくなり、2,3回倒すと何も感じなくなるのだった。
「いーなー。あたしの加護はなんなんだろ・・・」
「やっぱ魔法なんじゃないか?独学なのに魔法のレベル高すぎだよ」
「うーん、でも勉強はすっごい苦労したんだよ!加護があったならあんなに苦労しないよ!」
「でも師匠もいないのにすごいよ」
「えへへへ・・・そうなんだよね・・・えへへ・・・」
カイルは褒めるつもりはなく予想を言っただけだったが、レンは恥ずかしそうにニヤニヤして下を向いた。まぁ喜んでいるならいいだろう、と並んで歩く。
しばらくニヤケ気味レンと並んでいると商店街が見えてきた。
大小様々な規模の店が並んだ通りに入っていく。旬の野菜や果物を山積みにした店、樽に入れた酒を店先に出した店、その店の外に並べられたテーブルで早くから酒を飲み交わす客、宝石や装飾品を吟味する人々、ドレスアップした男性と女性のデート姿などさまざまな様子が見れる街だ。
飲食の出来る店もあり、肉の焼ける香りやフレッシュな果物、香辛料の香りがお腹を刺激する。
レンも口を開けて行きたい様子を漂わせていた。
目当ての商店で売買を終わらせ、レンに声を掛ける。
「ありがとう、用事は済んだよ。依頼を受ける前にご飯でも食べにいくかい?」
「いきたい!!カイルはお腹すいてる?」
「いい匂いのおかげで、お腹すいたよ」
「じゃあ食べに行こ!あたしお肉の気分!!」
「そう言うと思ったよ、僕もその気分だ」
「よーし!食べるよー!」
先ほど通り過ぎた道を戻り、ステーキの食べられる店に入った。
「ステーキ!500グラム!あんまり焼かないで!一緒にパンもください!」
「い、いらっしゃい!お嬢ちゃん元気だな!」
扉をくぐった瞬間にレンは注文していた。店長と思われる男が笑いながら答えた。
カイルは彼女を連れ、軽く店長に会釈しつつ席に着き注文を済ませた。
「500って結構多いぞ・・・大丈夫か?」
「平気だよ!依頼前だし、ちょっとセーブしてるんだよ!」
「そ、そう、セーブしてるんだ・・・」
料理が来るまで村の近況や最近の依頼などの話をしていた。
すると肉が焼ける音が聞こえてくる。さらにあらゆる芳香が漂ってきた。
肉と共に塩や胡椒などのスパイスも感じられる香り。
ステーキソースなのか、ニンニクやワインなどを煮詰めた濃厚な香りもする。
パンが焼ける小麦の深い香りまで。
「先にサラダでも食ってな!朝から来てくれたサービスだ!」
店長がそう言うと綺麗に小皿に盛られたサラダを二皿テーブルに置いてくれた。
「ありがとうございます、頂きます」
「ありがとー!」
「朝から元気な子が見れてこっちも元気出るからな!」
「えへへ、美味しくいただきます!」
「あいよ!」
サラダをつついていると、パン、続いてメインのステーキが運ばれてきた。
パンにはバターが添えられており、焼けた熱で溶け出しており見ただけで美味しいと感じた。
ステーキにもバターが添えられ、中央に乗ったローズマリーと相まって色も美しかった。
「うおおお、いただきます!」
「いただきます、すごい美しいステーキですね」
「はは、ありがとよ!周りの店に負けねえステーキ屋にしてえからな!味は勿論、見た目も大事だ!」
「おおおいしい!パンも合う!」
「ははは、早いな嬢ちゃん!」
僕が店長と一言話す間にレンはステーキとパンを頬張っていた。
「急がなくてもステーキは逃げないよ」
「いほいえないお!いふおおえぐあい!」
「そ、そっか・・・」
食事を堪能して店を出て、商店街とギルドの通りを繋ぐ道の中央に位置する噴水広場で一息付いていた。
「おいしかったねー!帰りにお母さんとお父さんと自分用に買っていこうかな!」
「うん、すごい美味しかった!僕も買っていくよ」
「ね!この後の依頼もさっと終わらせてステーキ食べるぞー!」
二人で笑いながら話し、任務の後の予定を軽く話していた。
すると街に音が響いた。
「「「カーンカーンカーンカーンカーン」」」
突然、街に警告の鐘が鳴り響いた。鐘の音は近くの村にも聞こえるほど街の外壁の至る場所で鳴らされてた。二人は初めて聞く音に戸惑い、会話が止まると同時に心臓が早まるのを感じた。
「え?どーしたの・・・?」
「分からない・・・内容を次第では村に戻った方がいいかもしれない」
二人は警告の意味を知るため、その場に留まっていると、すぐに街に拡声魔法による大きな声が響いた。
「「「緊急事態 ラルガントにゼノドラゴン接近中 ゼノドラゴン接近中」」」
「「「至急討伐へ向かえる者はギルドに収集願う 至急討伐へ向かえる者はギルドに収集願う」」」
登場人物
男 >カイル 冒険者
恋人>レン 魔術師
父 >セイル 元冒険者
母 >エーカ 元魔術師
ステーキ屋>店長