昔話
初小説のため、細かい所におかしな表現があるかもしれません。
疲れた・・・少し休もう・・・
心の中でそう考えながら、ため息を付くこともなく気怠げに王座へと向かう。
広い城のせいで扉から椅子に向かうだけでも手間だ。
身につけている大小様々な指輪やシンプルなネックレスなどの装飾品でさえ煩わしく感じる。
背にある細身の剣も早く武器庫に入れてしまいたい。
扉を抜けると広間全体にカーペットが広がっており、汚れはおろかホコリ一つ落ちていない。
今日も皆が掃除してくれているのだろう。ありがたいことだ。
広間は半円形の作りになっており無数の扉が目に入る。
王座へ向かう途中、扉の一つが開き一人の女がパタパタと走ってきた。
元気な姿を横目にしながら王座への階段を踏みしめる。
疲れのせいかいつもの階段が高く感じる。
「お帰りなさいませカイル様!今日はお疲れ様でした!」
腰まで伸びた鮮やかな紅色の髪の女が、嬉しそうに駆け寄ってきた。
白いシャツに黒いエプロンを掛けているが、エプロン越しにも分かる大きな胸を弾ませ、
首元のリボンは結び目がほどけてしまっている。
興奮しているのか、少し瞳孔が開き、汗ばんでいる。
「あぁ、レン、お疲れ様。今回は少し長くなってしまった。皆変わりないか?」
「はい!みんなカイル様の帰りを待ってましたよ!まだかなーって!」
鼻息を荒くし、捲し立てるように返事をする。
王座に腰掛ける私を、目を輝かせ両の拳を握りしめて見つめていた。
竜人特有の硬い鱗に包まれた尻尾をブンブンと音を鳴らしながら振っている。
座ると同時に広間の扉が次々と開き、多くの魔物や魔族が入ってきた。
それを見るとレンは慌てた様子で皆の前に並び、声をかけて整列を始めた。
半円状に広がりながら整列した皆が膝を付き私に頭を下げている。
しばらくして落ち着くと同時に私は話し始めた。
「今戻った。私のいない間、周辺の警備や城の世話を任せたが問題無いようだな。感謝する。
今回の戦いで、相手の御一行は長い間動くことが出来なくなった。
これからしばらくは暇になると思うから、皆趣味や休暇などを過ごすと良い」
皆を労うと同時に、慌てたような声がいくつか聞こえてきた。
「な、何かご不満がありましたか?急に休暇を下さるとは・・・」
最近この城で仕え始めた魔物だ。そういえば業務についてしか説明していなかったな。
「不満などありはしない、心配させてすまない。この時期になると決まって休暇を与えているんだ。
各々好きに過ごしてくれ。説明していないことは遠慮なく聞いてくれ。私でも上の人間でも」
私がそういうと、胸を撫で下ろす者、それを見て優しく笑う者、表情が強張る者、様々だった。
「私はカイル様と一緒に・・・ふふふ」「俺がカイル殿と慰安旅行へ・・・ぐひ」
「当然、私も休暇を取るが城を開ける訳にはいかない。旅行は皆で行くように」
絶望の顔をする者も出たが、まあいいだろう。
「あといつも言っているが私に頭を下げる必要は無い。皆のおかげで今の私があるんだ」
皆の表情が和らいだ気がした。
その時一人が立ち上がり声を上げた。
「あ、あの!」
王座に一番近い距離で4人並んでいたうちの一人が立っている。
レンだ。さっきまでの空気とは違って慌てたような声だった。
「約束のしていたお話、休暇に入る前に聞かせて貰えませんか?」
その言葉を聞いた皆は、一斉にこちらを見て目を輝かせる。
「あぁ、だから様子がおかしかったのか。皆の時間があるなら、今からしてもいいぞ」
少し恥ずかしそうにしながら、レンは周りを見渡す。
しばらく静寂に包まれていた。
するとレンの隣で膝を付いていた男が立ち上がり、軽く頭を下げて話した。
「この場にいる全ての者はカイル様に忠誠を誓い、全ての時間を捧げております。
カイル様のお話を聞くためだけに遠くから戻ってきている者もおります。
カイル様の体調がよろしければ、ぜひお話を聞かせて頂けませんか。」
話し終えると、しゅんとするレンを座らせその男も再び膝を付いた。
「分かったよ、ありがとうオルター。じゃあ約束していた話をするとしよう。
少し長くなるが、休憩を挟みつつ話そうか。」
すると皆が喜びの声や奇声を上げ始めた。
そんなに私の昔話が聞きたいのか。微笑みながら私は立ち上がった。
体の疲れは城に貯蔵された魔力で回復してきている。集まってくれた皆の魔力も相まってほぼ全快だ。
魔法で少し声を大きくして聞こえやすいようにしないとな。
軽く咳払いをし、一歩前に出てから私は口を開いた。
「それじゃあ語っていくとしようか。私が魔王になるまでの話を。」
登場人物
魔王>カイル
部下?>レン
>オルター