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『現実恋愛』短編集

夢の続きが見られたなら

作者: pan

暗め注意です

 最初に言っておくが、僕はクズだ。自分と他人を比較しては、悪いところがないか粗探しをする。それで自分が勝っている部分を見つければ意地になって見栄を張る、そんな人間だ。

 だけど、そんな僕にも春は来るものだ。


 高校に入学してから数週間はろくに友達も作らず一人で過ごしていた。。人に話かけることに抵抗はなかったが、地方から来ていた僕にはハードルが高かった。


 まわりは流行の最先端と言えばいいのか。僕の知らないテレビ番組の話や俳優の話、スポーツの話やゲーセンの話。


 耳に入ってくる言葉は知らないものばかり、その中で分かったものと言えばゲームやアニメの話くらいだ。


 地方には都会にあるような大きい建物もないし、遊べるところも少ない。だから、家で過ごす時間の方が長かった。友達とゲームをしている時間がどれほど楽しいものか。


 そんなクラスの様子に仰天していたら、いつの間にか宿泊研修の時期が来ていた。

 親睦を深めるために行われるそれは僕にとって退屈で仕方ないもの。だって友達いないし、ホテルの部屋割りだってあまりものだったし。


 本音を言えば、楽しみたい。そんな浅はかな願いが届いたのか、僕に転機が訪れた。

 目的地に向かうためにバス乗り場に歩いていた時のこと。


「え!? 新島(にいじま)くん、このキャラクター好きなの?」


 誰かが僕がリュックにつけていたラバーストラップを見て声をかけてきた。その人物はクラスでも一際目立っていた女子、東條愛実(とうじょう あいみ)だ。


 肩まで伸びた艶やかな黒髪。顔立ちも良く、男子なら誰でも目に留まるスラっとした体には適度に凹凸がある。

 そんな彼女に話かけられたものだから、僕はもちろん戸惑った。


「え、あ、うん……」


 一世一代のチャンス、逃す。しかし、今後もこういうことが起こるのかといったら可能性は低い。だったらこのまま淡々と過ごしていればいいだろう。


 僕はそう思ったのだが、彼女にそんなつもりはなかったらしい。


「へー、やっぱりそうなんだ」


 そういうと彼女は僕に向かって微笑んできた。

 思わずときめいてしまいそうになるほど優しい表情に邪念は感じられず、話しかけたいから話しかけてきたと言わなくても伝わってきた。


 この後はキャラクターが出ているアニメの話をして盛り上がった。気づけば囲まれるように同じクラスの人たちが集まっていて、話題は次へ次へと方向転換。和気あいあいとした雰囲気に僕は上手く溶け込んでいった。


 そのおかげで宿泊研修が終わった後も愛実を中心に友達の輪が広がり、学校祭や夏休み、たくさんの思い出を作ることが出来た。

 家の方向も一緒なのか、共に下校をした日もあった。


 そして、ここからが本題。


「ハルくん! 今度の夏祭り一緒に行かない!?」


 二年生になり、またしても同じクラスになった愛実と突然夏祭りに行くことになった。この時の僕は他に誘ってる人でもいるのかと思っていたけど、いざ集合場所についてみると。


「あれ? 他の人は?」


「……いないよ?」


 なぜか目線を合わせようとしない。どこかよそよそしくなっていたため、僕は首を傾げたのだがようやく理解した。


 これは、二人きり。つまりデート……!?


 頭がショート寸前になりふらついたが、「大丈夫!?」と愛実が声をかけてくれたことで我に返る。

 気合を入れてきているのか浴衣だし、自分は適当な服装だし。こんことになるならちゃんとしてくれば良かったと猛省したが、愛実は気にしていない様子。


 むしろ、喜んでいるのか終始笑っていた。めちゃくちゃはしゃいでいたし、とても疲れたのを覚えてる。それ以上に楽しかったのも、もちろんね。


 この時、初めて二人きりになって分かったことがある。僕はいつの間にか愛実のことが好きになっていたって。


 教室にいるときに気づけば目で追っていたし、一緒に帰っているときも彼女の無邪気に話す姿にも見惚れていた。そして、僕にだけ見せる表情も。


 今まで知ることのなかった感情に戸惑ったけど、いつか付き合えたらとか淡い期待を抱くようになった。


 そして、夏祭りを終えても僕らは二人きりで出掛けるようになった。デートと言えるのかわからないけど、ただ一緒にご飯を食べに行って、ただ一緒に買い物をして、ただ一緒に水族館や動物園に行って。


 どれもこれも僕にとっては最高の思い出。

 愛実はどう思っているか分からないけれど、この想いだけは伝えたいなと思うようになってきた頃、その時は突然やってきた。




 冬も通り過ぎて、春の陽気が顔を覗かせている。もうすぐで三年生になるという頃だ。


 僕は今日もいつも通り一人で登校していた。

 教室に向かう途中、なにやら不穏な話声が耳に入ってきたが気にしない。そのまま席についてリュックから教科書やら取り出していると、クラスメイトの男子が話しかけてきた。


「なあ、新島って東條と仲良かったよな?」


「え、うん。そうだけど」


「……東條がサッカー部のやつと付き合い始めたってほんと?」


 僕は何も言わなかった。というより言いたくなかった。

 ただの噂話だと思い込んで過ごしてきたが、現実はそう甘くない。そもそも僕は愛実が付き合い始めたことを知っている。


 だって、見ちゃったから。一緒に帰っているところを見てしまったから。

 それだけで思い込んでしまうのか、と言われても仕方がない。けど、けどさ。


 いつもなら笑顔を振りまく天使のような女の子がずっと暗い顔をしているし、僕が教室で彼女のことを見ても目くばせどころか、僕のことすら見てくれなくなった。何があったのか聞くまでもなく、そう思い込むしかなかったんだ。


「うーん、僕には分からないや」


「そっかあ」


 僕は適当にはぐらかすことにした。これでいいんだ。




 帰りのホームルームが終わり、僕は帰ろうと教室から出た。

 その瞬間、聞き覚えのある声。いや、今は一番聞きたくない声に呼び止められた。


「ハルくん!」


 僕は聞こえていないふりをして足早に階段に向かう。だけど、追ってくるような足音が聞こえてくる。早く、早くどっかに行ってくれ。


「……なに」


 耐え切れず僕は返事だけをした。振り向かずに、ただ下を向いたまま。


「どうしたの? いつもより元気ないけど……」


 誰のせいだと思ってるんだ。こんなことになったのは、全部……。


「いや、いつも通りだよ。何か用?」


「それならいんだけど……。ね、今日久しぶりに一緒に帰らない……?」


「は?」


 僕の声音は自分でもわかるほど低くなっている。


 この後、何を言ったのか思い出したくもない。心無いことを言ったのだと思う。

 何かをおぞましいものを見るような目、今にも泣きそうに震える唇。

 東條さんの表情を思い出せばそう思える。


 今日の僕はどうかしている。

 何をそんなに焦っているのか。

 受け入れれば済む話だろうが。


 いつの間にか、僕の心は荒んでいた。




 そして今、僕は自分の部屋で天井を見上げている。


 帰ってきてからも東條さんの顔がよぎる。思い出したくもない記憶、そして知りたくなかった事実。


 一緒に帰ろうと誘ってきた理由は彼氏を紹介したかったんだろうな。だるい。

 紹介されたって自慢にしかならないし。僕が傷つくだけだ。

 そして相手はサッカー部のエース?

 頭も良くて、運動できるとか完璧すぎるだろ、僕に勝てるところなんてあるわけない。


 てか、なんでまだ「ハルくん」って呼んでくるんだ。普通に「新島くん」か「大翔(はると)」でいいだろ。特別感出すなよ。


 くっそ。今まで僕だけが知っていた東條さんを知られるのか。いや、そんなことはもうどうでもいいんだ。気にする必要はない。彼氏面している僕の方が気持ち悪かったんだ、そう思おう。


 でも、楽しかったな。初めて行った二人きりの夏祭り。そして修学旅行も一緒に回って、クリスマスもイルミネーション見に行ったな。この前バレンタインで友チョコ貰ったから返さないとな。


「……ちくしょぅ……」


 瞳に映る波紋で天井が霞んでいく。


 僕は惨めで、情けない。


 なんでこんなに諦められないのだろう、認められないのだろう。


 悔しくて、悔しくて、吐き気がする。


 もっと。


 もっと、僕に勇気があれば、こんなことにはならなかったのかな……。

お読みいただき、ありがとうございます。

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感想やレビューもお待ちしています。


……僕が書く話はなぜ毎回暗いのか

自分でも謎なのですが、きっと何かしら引きずっているのでしょう

まぁ、こんな恋愛をしていた時期もありましたよと……

皆さんは、ちゃんと想いを伝えれていますか?


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