女性社員、杉本目線
「杉本、ちゃんと化粧した方がいいよ」
え?と思った。だってそりゃあそうだろう。今までろくに話したこともない同僚の男から職場でいきなりそんなこと言われたんだから。でも、一応私も大人なので「そう?」なんていう返答をした。しかし、やつはこの返答に食いついてきた。
「そうだよ!似合うと思う!」
言いたいことを言った同僚は満足したのかにこにこと満面の笑顔で去っていった。え、ちょっと待て!私メイクしてるけど!
毎朝化粧水で肌を整えて下地にファンデにチークに眉かいてアイラインひいてまつ毛ビューラーであげてマツカラ塗って!やってるけど!!メイク!!化粧!!!ナチュラルだけど!
そう大声で叫びたい衝動に駆られた。でも、今回だけだろう。なんてたって今までろくに話したこともなく、仕事も担当業務が違うから関わることもほとんどない同僚だ。そう思っていた。
「えっ、杉本化粧してない!どうして、した方がいいって!」
翌日には私の考えは木っ端微塵に破壊された。
「あ、うん、そっか」
なんて生返事しかできなかった。
今日もメイクしているよ!化粧水から何からいろいろやってるんだよ!昨日もやってたけど!
なんでいきなりメイクしていないなんて絡んできたんだ?挨拶以外にそんな話したこともないのに。え、待ってそんなにメイク薄い?ナチュラルメイクにしようと思っていたけどそんなにわからない?メイクしてないように見える??
思考がゴチャゴチャしてきてどうしても気分が落ち込んだ。
まあ、でも明日少しメイク濃くすればもう何も言ってこないだろう。
なんて軽く考えていたのを少し後悔した。
「杉本!ちょっと化粧してる!?いいな!!やっぱ俺が言ったから!?そうか?そうだな!?」
え、なんでこんなに食いついてくるの?少し引いた。
そうか、そうだな?そうだよ、お前がうざいからだよ。なんて思ったが言わなかった、だって私は大人だから。
だが、これで満足しただろう。そう思って翌日からはいつものメイクにしようと思った。
のだが、ここで考えてしまった。あれ?もしかしてナチュラルメイクだったらまたあいつに何か言われるのか?化粧したら?なんて言われるのか?と。
言いたいやつには言わせておけばいいじゃないか。
なんて思うがしつこく「化粧しないの」「化粧したら」と言われるのか?
そう言われるのかイヤだった。そうして前日のようにメイクは濃いままだった。
「化粧したら」なんて言われることは無くなった。だが次は「俺のおかげで化粧をするようになった」とか「俺の為?」みたいなことを言われることもまたストレスになっていった。そうだよ、お前がうるさいからメイク濃くしてるんだよ。君の言う通りにしてるから放っておいて欲しい。そしてメイクはいつもしてたわ。
なんでこんなメイク警察のようにあいつは私に突っかかってくるのだろうか。美容関連に興味を持っているわけではなかったはずだ、おそらく。なんだか気味悪く感じる。どうして急に?考えてもわからないが考えるとどんどん恐怖が増してくる。
そんな増してくる恐怖との戦いは続いていくのかと思われた。
「今日も化粧してるな!杉本!」
やめてくれ、毎回その確認がイヤなんだけど。
いつもはそれを聞くとニコニコして去っていくんだけれども、今日は違った。なんだか神妙な顔をしていた。そしてこう聞いてきた。
「杉本、俺たち付き合わないか?」
「え、むり」
え、むり。思わず心の声と同じ言葉が口からでた。
何言ってるんだこいつ?
しかし、相手はショックを受けたような顔をしている。なんでだ。私に好かれるようなことしてないだろう、お前。
もうこんなやつのいうことを気にしたくはなかったから今からでもメイク直してこよう。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
もう少し続きますのでよければ見ていってください!