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攻め落とす気満々の年下幼馴染に、そろそろ陥落してしまうかもしれない俺の話

作者: 藤崎珠里

 俺にはとびっきり可愛い年下の幼馴染がいる。

 綾木(あやき)千沙(ちさ)。現在高校二年生、俺の七つ下の女の子。

 男女の幼馴染なんて疎遠になるのが普通だし、ましてや歳の差があればなおさらだ。だというのに、千沙と俺の関係は今に至るまで続いている。


「おはよう、(つかさ)くん! 今日のだし巻き卵、すごい綺麗に焼けたの、見て見て!」


 ――なぜなら、千沙は毎日俺の朝食を作ってくれるので。

 なんで? とたまに思う。こんな恵まれていることが現実にあっていいのか。気を抜いたら誰かに闇討ちされるかもしれない。こわい。


 じゃーん! と千沙が見せびらかしてきた皿には、まるで高級料亭で出てきそうなほどに美しい、完璧なだし巻き卵が載っていた。


「ほんとだ、おいしそうだな」

「でしょ! あったかいうちに食べてね。ごはんとお味噌汁も今つぐね!」


 千沙はにこにこと茶碗としゃもじを持つ。味噌汁ももちろん千沙作だ。

 お盆の上にはすでにレンコンのきんぴらが載っていた。千沙のきんぴら、おいしいんだよな。

 朝からがっつりは食べられない俺のため、基本的にごはん味噌汁卵焼き、あとは副菜一品、という素晴らしい朝食である。



 千沙が俺の朝食作りを始めたのは、千沙が中学に上がったころだ。

「司くんのお嫁さんになりたいから、花嫁修行させて!」「あらぁ、じゃあ司の朝ごはんとか作ってみる?」という会話が発端である。千沙と俺の母親の。俺の意思も聞いてほしかった。

 千沙が俺の面倒を見てくれるなら、ということで、母親は基本朝は俺が出るまで寝ている。父親も幼い頃に亡くなっていて、相当な負担をかけた自覚はあるから、そこに関してはゆっくりしてほしいとは思う。俺の意思尊重してほしかったけど。


 花嫁修行はいいとしても、俺のお嫁さんになりたいから、という理由はいただけない。

 だって可愛い可愛い幼馴染には、完璧な男と幸せになってほしいものだろう。

 俺は平々凡々な男で、とてもじゃないが俺の大切な幼馴染を任せられるような奴じゃない。もっとイケメンで、努力せずともなんでもできるのにそれでも努力を欠かさない完璧超人でなければ。


 という旨を滔々と語ったのだが、千沙はめげなかった。「いいって言ってくれなかったら可愛いわたしが大泣きするから!!」なんて恐ろしい脅しまでかけてきたから、屈するしかなかった。



「はい、どうぞ。召し上がれ」


 語尾にハートがついていそうなほど可愛らしく言って、千沙は俺の前にお盆を置いた。


「いつもありがとう、いただきます」

「……おいしい? おいしい?」

「うん、おいしい」

「えへ」


 ご機嫌に笑う千沙は、いつか俺以外の誰かの花嫁になるのだろう。

 そう思うたびになんとなくセンチメンタルな気持ちになるが、絶対俺じゃダメなので仕方ない。彼女のプロポーズを受け入れる気はなかった。


 千沙は頬杖をついて、からかうような口調で言う。


「今日も司くん、ちゃんと起きれたねぇ。残念だな」

「大人だからな」

「昔は朝激ヨワだったのに~!」


 ちょっと不満げな彼女の言うとおり、俺は昔朝に弱かった。というか今も弱い。

 けれど、どうしてもちゃんと起きなければならない理由があるのだ。


 花嫁修行初日、千沙はなかなか起きてこない俺の部屋に勝手に入り(何度声をかけられても起きられなかった俺が悪いのだが)、あまつさえベッドにまで潜り込んできた。

 人の気配に目を開けたら目の前に可愛い幼馴染の顔があって、「おはよう、司くん!」なんてにっこり微笑まれたらどうする? 俺は切腹しようかと思った。

 たとえ無意識下であったとしても、俺が千沙をベッドに連れ込むようなことは断じてないと言い切れるが。


 それに朝といえば、あれがある。逃れられない生理現象が。

 幸いにもあのときはちょうど起こっていなかったが、あれを千沙に見られようものなら、俺は即座に舌を噛み切って死ぬ。


 だから千沙には、部屋に入るのは俺が遅刻ギリギリまで起きてこなかったときだけにしてくれと頼み込んだ。

 千沙は賢い子なので、俺が本気で嫌がっているときには必ず言うことを聞いてくれる。……本気じゃないとだめなのだ。


「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした! お嫁さんにしたいくらい最高においしいごはんだったならキスして! まだまだ未熟だったなら頭なでて!」


 最高においしかったが、頭をなでておく。千沙を守るためには多少の嘘もやむなしだ。

 千沙は可愛らしくむくれたが、結局にこにこと笑った。満足らしい。


「司くんのお嫁さんにはまだまだなれないかぁ」

「これを言うのは本当に気が引けるけど、一生なれないよ」

「気が引けるなら毎日言うのやめてよ!」

「毎日プロポーズしてくるのやめたら考える」

「ほんっと難攻不落なんだから……!!」


 あの千沙が難攻不落なんて難しい単語を使うようになって……。

 さらになでなでしたら、千沙もさらにぶすくれた。そういう顔も可愛い。


 客観的に見れば可愛くない顔も、千沙はためらわず見せてくれる。結局どんな顔をしていても俺には千沙が可愛く見える、ということを彼女が理解しているからだ。可愛さに自覚のある子に育ってくれて嬉しい。


「あっ、司くん、ネクタイちょっとよれってしてるよ。直してあげる!」

「自分で直す」

「……ち、千沙が直したいなぁ?」


 中学に上がったあたりから一人称を『わたし』に切り替えた千沙だが、おねだりのときはあえて『千沙』と言ってくる。恥ずかしそうにしながら。

 なぜなら俺がそれに弱いと知っているので…………。


 無言でネクタイをほどいて、千沙に差し出す。

 千沙はぱあっと顔を輝かせた後、鼻歌を歌いながらネクタイを俺の首に回した。必然、距離が近くなって気まずいので、意識しないように目をつぶる。

 途端により強く感じるのは、どこか甘くて、優しい匂い。もう慣れてしまった千沙の匂いだ。バレないように息も止める。


「……司くん、ちょっとかがんで」

「ごめん、やりづらかったか?」


 目をつぶったまま少し腰を折り曲げる。――と、唇にやわらかいものが押し当てられた。思わず目を開ける。

 思った以上にすぐ近くにある千沙の顔。気まずそうに、引き攣った笑みを浮かべている。


「…………は?」

「え、えへ。奪っちゃった」

「千沙」

「ごちそうさまでした」

「千沙」

「はい」

「騙し討ちをするような子に育てた覚えはないんだが」

「はい」

「ごめんなさいは?」

「ごめんなさい。反省してません」

「俺は今後一週間千沙の朝ごはんを食べません」

「わーーーんごめんなさい!!!! お味噌汁だけでも食べてくれない!?」

「食べない」


 猛烈にしょんぼりとしてしまった千沙に心が痛みかけたが、ここは心を鬼にするべきところだ。


「隙を見せる俺も悪いけど何回目だ、これ」


 こんな見事な騙し討ちは初めてだったが、実はキス自体は何度もされている。

 チャンスがあるたびに(俺としてはこれがチャンス認定されるのか、とびっくりするようなときであっても)、この幼馴染はキスをしてくるのだ。

 ファーストキスは大事にしろ、とはもうとっくに言えなくなった。


 千沙は挙動不審に視線をさまよわせる。


「わ、わかんない」

「……どうせ数えてるくせに」

「う、だってキスの回数数えてるとか気持ち悪くない……!?」

「千沙だったら気持ち悪くないけど、その分だけの反省はしてほしい」

「司くんだって本気では嫌がってないじゃん! 本気で怒ってはいるけど!」

「本気で怒ってるのがわかるならやめてほしいけどな……」


 結局、本気で嫌がれない俺が一番悪い。

 ため息をついて、千沙の手からネクタイを奪い取る。そのまま自分で結び直すと、千沙は「あー!!」と不満げな声を出した。さっきの今で千沙にやってもらうわけないだろ。

 そのまま出かける準備を済ませ、玄関へ向かう。


「いってらっしゃいダーリン! お仕事がんばってね!」

「俺は司くんって呼ばれたほうが嬉しい」

「……いってらっしゃい、司くん」

「ん、いってきます。ありがとう、頑張ってくる」


 頭を差し出されたので、それを優しくなでてから出発する。


 さむ……。玄関を出た途端吹いてきた冷たい風に、ぶるりと震える。

 でもいい天気でよかった。今日は千沙の好きな体育の授業があったはずだし、最近はソフトボールをやっていると聞いた。めいっぱい楽しんでほしい。



 ……それにしても、明日から一週間、千沙の作ったごはんが食べられないのか。

 駅への道を歩きながら、またため息をつく。


 千沙がキスとかやらかすたびに同じ罰を与えているものの、地味に俺自身にも効くのだ。

 可愛い幼馴染の朝食が食べられなくて仕事なんて頑張れるものか――という思考が千沙にバレたら、鬼の首を取ったかのようにぐいぐい来るのは目に見えているので、口には出さない。


 一週間は自分で朝食を作ることになるわけだが、何作ろうかな。

 俺一人だったらトーストだけでもいいのだが、俺が作るときには千沙も食べるので、手抜きするわけにはいかない。

 とりあえずは洋食か。千沙はいつも俺の好みに合わせて和食を作ってくれるが、千沙自身は洋食派だ。とろとろのオムレツが大好物なので、それは絶対に作ってやりたい。


 そんなことを考えていたら、後ろからタッタッタッ……と足音が聞こえてくる。振り返ると、千沙が駆け寄ってくるところだった。


「司くん! 言い忘れてた! 今日も大大大だーいすき!」

「……わざわざありがとう、でもご近所さんに迷惑だから大声はやめような」

「ごめんなさい……。司くんはわたしのこと好き?」

「世界一好きだよ」

「ふふ、ふふふっ。だよねぇ。そろそろ押し負けてくれてもいいのにな~」

「千沙とだけは絶対付き合わないし、結婚もしない」


 ちぇー、と千沙は唇を尖らせる。


「わたしが司くん以外にときめかないの、司くんのせいなんだから」

「まともな男が周りにいない千沙の環境が悪い」

「みんな結構まともなんだよ。司くんが飛び抜けてカッコよくて優しくてなんでもできるだけで!」

「俺程度に負けてるようじゃ千沙は任せられないからな」

「程度じゃないんだってぇ……!」


 千沙の前ではいつもかっこつけていたせいか、千沙は俺を過大評価している節がある。

 それで理想が高くなってしまっているのなら申し訳ないが、都合もいいので特に誤解は解かない。

 むむむ、と口を引き結んだ千沙は、「もう!」と小声で叫んだ。


「わたしが行き遅れたら司くんの……こと大好きなわたしのせい!」

「行き遅れたらさすがに俺が責任取るよ」

「……………………え?」

「電車の時間やばいからもう行くな」

「えっ、司くん?」

「千沙も遅刻するなよ。気をつけて」

「つ、つか、司くん?」


 電車の時間がかなりやばいので、千沙の顔も見ずに全力で走り始める。

「司くんどういうこと~~!?」と何やら叫ぶ声が聞こえたが、振り返る余裕もないくらいだったので手だけ振っておく。


 無事電車に間に合って、息を整えながら考える。

 千沙はなぜあんな動揺していたのか? 俺としては当たり前のことを言ったつもりだったんだが。

 ……まあ、何か気になるなら今夜電話か、明日の朝あたりに直接訊かれるだろう。



     * * *



「司くん、お話があります」

「……どうぞ」


 千沙が動いたのは翌朝だった。

 神妙な顔つきで切り出した千沙の前に、とろふわのオムレツとカリカリのベーコン、シーザーサラダ、バタートーストを置いてやる。

 途端にそわっと、千沙は視線を皿に落とす。


「さ、冷めたらいけないので、お話は後に……」

「うん。召し上がれ」

「いっただっきまーす! おいしい!」

「おいしい判定が相変わらず早いな」


 つい吹き出してしまう。さて、俺も食べるか。

 お行儀のいい千沙はにこにこと無言で食べ切り、「ごちそうさまでした!」と元気よく手を合わせた。


「それでね司くん、行き遅れってどのくらいを言うかな!?」

「……それを男である俺が言うの、かなり問題があるんじゃ?」

「だってさ、調べたら三十五歳以降とか出てきたけど……司くんの中の基準が一番重要でしょ。おばあちゃんになるまでって言われてもちゃんと待つけど、そしたら赤ちゃん産めなくなっちゃうし……」


 出産というのは命懸けの大変な行為だから、千紗の子供が産まれないのは世界の損失だな、なんて気軽に言ってはならない。……でも千沙の子、絶対可愛いよな。


「行き遅れないようにしてくれ」

「だめですー。行き遅れたら絶対勝てるってわかっちゃったら勝つしかないから」

「じゃあ俺は責任取らな……取ら……と…………ら……」

「言えないことを無理して言うのやめよーね」


 口が裂けても言えなさそうだった。

 結婚だけが幸せの形ではないけど、それが幸せか不幸せかなんて実際にしてみなければわからない。千沙にその選択を捨てさせる、あるいは遅らせるというのはとてつもない大罪なわけで。

 責任を取る気概もなくこんな態度、取れるわけがないのだ。


「勝ちが確定したわたしは、死ぬまで待っちゃうよ。どうする?」


 くるんとした大きな瞳が、じっと、刺すように俺を見つめる。


「たとえばわたしが三十五歳になった頃に結婚してくれたとして、運よくすぐに赤ちゃんを授かれたとしても、もうすでに高齢出産なんだよ。リスクが高いの。そのときにわたしが絶対赤ちゃん欲しいって言ったって、司くん、反対するでしょ。もう大喧嘩だよ」


 姿勢を正す。

 ……さては千沙、めちゃくちゃ調べてきてるな。


「でも司くんはわたしのこと大好きだし、わたしの子ども見たい気持ちも大きいから、万全の準備をしたうえでいろいろしてくれることになると思うんだ。どうせそうなるならもう、早いうちに結婚したほうがいいよ。少しでもリスクが低いうちにさ」

「……どうせそうなるってなんで言えるんだ」

「司くんは結婚までしてくれたら絶対今まで以上にわたしに甘くなるもん。も~ゲロ甘になるね! わたしには見えます。なぜならわたしは司くんのことが大大大好きなので」


 千沙は自慢げに胸を張って、にっこり笑った。

 だけどすぐに不安そうに瞬きし、そうっと窺ってくる。


「ガ、ガチすぎてこわかった……?」

「……怖くはないけど、自分を人質に取るのはずるい」

「それは本当に申し訳ないけど、司くんのほうがずるいもん。ずるい自覚がないのがずるい」


 ……まあ、確かにずるいよな。

 今までの千沙の告白は本気で断ってきたが、本気で嫌がったことはなかった。好意だって返してきた。まだこれが――認めたくはないが、恋愛感情でなかったころから。

 七歳差は大きい。十三歳だったかつての彼女は俺にとって完全に子どもで、だけど、世界で一番好きな女の子であることには変わりなかった。

 だからそれを素直に伝えてきた。


 いや、俺にも言い分はある。俺は千沙を悲しませたくないのだ。

 本気で断るだけなら、彼女のことを思っているからこそ、というのは千沙にも伝わる。つまり悲しませることはない。

 だけど嫌がったり、あるいは嫌われようとあえてひどい態度を取ったりしたら……千沙は絶対に傷つく。


 だからこうして今、俺は千沙に追い詰められているのである。


「司くん、それで今日のお返事は?」

「…………少なくとも二十歳超えるまでは断り続けるから」

「おっ、え、わ、わぁ、わ~!! 前進!? ついに!?」


 興奮したように手を叩き、大はしゃぎする千沙。目がキラッキラで可愛いが、「少なくとも、だから!」と釘を刺しておく。


「その後も断り続けるかもしれないから!」

「かもしれない、がついたのは大きいよ! やった~! 司くんはわたしのことが大好きだし愛しちゃってるから、いつかは陥落してくれると思ってた! うれしい!」

「俺は陥落しない……まだ……」

「そうだねぇ、まだだね! まだ! えへへ」


 あまりにも幸せそうに笑って、千沙はぴょんっと椅子から立ち上がった。う、やばい、千沙が立ってて俺が座ってるときはキスのチャンスとみなされることがあるのだ。

 慌てて俺も立ち上がると、千沙はにまーっと笑う。


「二十歳になるまで、もうキスはしないであげる!」

「……それはありがたいけど、恋人でもない男にキスするのは普通だめなんだからな」

「司くんならいいでしょ?」

「千沙」

「……ごめんなさぁい」


 誠意がないが、謝れたのは偉いので頭をなでる。千沙はご機嫌な様子で、猫のように目を細めた。


「……電車の時間、大丈夫?」

「そろそろやばいから行く。片付け任せていいか?」

「もちろん! 任せて任せて! 時間かけちゃってごめんね」

「ありがとう。大事な話なんだから時間かけるべきことだろ、謝らないで」


 すっかり長話をしてしまった。ばたばたと準備を済ませて玄関で靴を履く。今日も寒いらしいので、マフラーを巻いておく。

 見送りにきてくれた千沙は、「はい」と鞄を渡してくれた。


「ありがとう、いってきます」

「いってらっしゃい、司くん。お仕事がんばってね」

「うん、ありがとう。千沙も学校頑張って」

「ありがとう~! がんばる! 大大大好きだよ、司くん!」

「ありがとう。俺は千沙のこと宇宙一好きだよ」


 なんか一言ごとにありがとうって言ってるな、と思ったけど、ちゃんと全部感謝を伝えるべき場面だ。

 ドアに手をかけ、ふと思い立って、くるりと体を反転する。頭なでてくれるの? という感じで、千沙がまた頭を差し出してきた。


 普通になでてもいい、けど。




 ――ちゅ、とつむじにキスを落として、満足する。

 これくらいならセーフだよな。



 千沙はこぼれ落ちそうなくらいに目を見開いて、おそるおそる自分の頭に手を当てる。何が起きたかわからない、という顔をしていた。


「つ、つか……」

「いってきます」

「~~っ司くん! わたしに追い詰められたの悔しかったんだね!?」

「いってきます」


 ガチャリとドアを開いて外に出る。


「そういうとこ!! そういうとこだぞずるいぞ司くん!」


 ドアが閉まっても、「司くんのばか! 意味わかんない! わかるけど~!!!」なんて、しばらく叫び声が聞こえていた。


 昨日と同じくらいの気温のはずなのに、やけに暑い。

 せっかく巻いたマフラーを外して手に持つ。

 マフラー……そういえば昔作って千沙にあげたやつ、そろそろボロボロになってたよな。違う色で作ってやれば、気分で使い分けるようになるだろうか。今日は毛糸買って帰ろう。







《ちさ:明日から隙あらばキスしてやるからよろしく!!!!!!!》


 電車に乗ってスマホを開いたら、そんな死刑宣告みたいなメッセージが来ていてスマホを落としかけた。もしかしてセーフじゃなかったのか?





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