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06 スライムの住まい

06 スライムの住まい


 聖邪学園始まって以来のはちゃめちゃな入学式が幕を閉じ、そのあとは校内を案内されるオリエンテーションとなった。

 スライはすでに新入生どころか全校生徒をすべて敵に回した状態になっていた。


 理由は言うまでもなく、ママリアージュに無礼を働いたから。

 その時点で、スライはローフル組の生徒たちから敵認定される。


 そうなると、ローフル組と敵対関係にあるケイオス組からは迎え入れられるのが普通なのだが、そうはならなかった。

 ママリアージュに見染められたスライは、なによりも厄介な敵として認定されていたのだ。


 スライムに育てられたスライの立場は、本来は路傍の石のような『取るに足らない存在』であった。

 意図的に蹴飛ばしたりしなくても、いつのまにか消えてなくなっているような、脆弱なもの。


 しかし入学式の一件で、『見つけたら即蹴り飛ばす石』になってしまった。

 スライはまわりから孤立するだけのはずだったのだが、ほぼすべてが敵に回る。


 それでも、人目のあるところでは目立った嫌がらせはなかった。

 なぜならば、スライはすでにママリアージュに気に入られていたから。


 ママリアージュの目の届きそうなところスライに手出ししようものなら、大事になりかねないからだ。


 スライはオリエンテーションを何事もなく終え、新入生たちは解散となった。

 聖邪学園は全寮制の学園で、そこからはローフル組みとケイオス組、それぞれに分かれて寮に案内される。


 しかしスライだけは、その場にぽつんと取り残されてしまった。


「俺のヌル組の寮は、どこにあるんだ?」


 それはすぐに見つかった。

 ふたつの組の男子寮に挟まれるような形で、大型犬なら寛げそうな小屋の前に、『ヌル組男子寮』と立て札が立っている。


 しかしスライが見つけた時には小屋は跡形もなく破壊されており、立て札には『天誅』とペイントがされていた。


「誰かがブッ壊しやがった」


 スライが舌打ちとともに見上げると、ふたつの男子寮の窓からは、ニヤニヤ顔の男子生徒たちが見下ろしていた。

 スライの肩に乗っていたライムが憤りながら跳ねる。


「クソが! 灰色の脳細胞を持つ、この俺様をマジにさせやがったな!

 いくぞ、強制捜査だ! 目についたヤツからしょっぴいて、犯人の手掛かりを……!」


「いきなり強制捜査かよ。灰色の脳細胞どこ行ったんだよ。

 それに、犯人探しはいらねーよ。こんな犬小屋に住むつもりはねぇからな」


「じゃあどこに住むんだよ!? 女子寮か!?」


「いや、あそこだ」


 スライが親指で示した先は、男子寮のすぐ近くにある森だった。

 ひとりとひとプルは森に入ると、適当な木によじ登る。


 丈夫そうな枝に座り込み、幹に身体をあずけた。

 スライはそれでひと心地ついたが、ライムは不満たらたら。


「なんだよ、学校に入ったのに野宿すんのかよ」


「里にいる時もずっと外で寝てたんだから、別にいいじゃねぇか。

 この天井を見てみろよ、王様だってこんな立派な天井の部屋には住んでねぇぞ」


 星空の瞬き始めた空を見上げるスライ。

 ライムは見向きもせずに「腹減った」とぼやく。


「そういえば朝からなにも食ってなかったな、これでも食えよ。スライムの里を出るときに採っておいたんだ」


 スライは起き上がると、腰のポーチからリンゴをふたつ取りだした。


 木の枝に座って足をぶらぶらさせながら、リンゴをかじるスライ。

 ライムがリンゴをひと飲みすると、ライムグリーンの体色が鮮やかなルビーレッドに変わる。


 わびしい夕食を食べていると、ふと、森にふたつの人影が近づいてくるのが見えた。


「うわぁ、最低っ! スライくん! ここにいるのはわかってるのよ! 大人しく出てきなさい!」


「あの声はキルシュだな」とスライ。

「隣にいるメスはボインメガネだな」とライム。


 なんだかよくわからないが探されているようだったので、スライは木から飛び降りた。

 目の前に黒いコートの少年が巨大コウモリのように降りてきたので、少女たちは「きゃっ!?」と悲鳴をあげる。


「お……おどかさないでよ!」「び……びっくりしましたぁ!」


「ふたりしてなんの用だよ?」


「おっと、まずは逃げなよお嬢さん、貝殻のイヤリングならその後で返してやるぜ。楽しいゲームの始まりだ!」


 ライムの軽口を真に受けたキルシュはピュリアをかばう。

 引っ込み思案なピュリアは普段はそれに従うのだが、今回ばかりは気になることがあったのか、「あっ」と前に出た。


「ライムさん、真っ赤になってます。どうかされたんですか?」


 気づかうようなピュリアに、スライは心配するなといった微笑み返す。


「ああ、スライムは食ったもので身体の色が変わるんだ。ライムはさっきリンゴを食ったからな」


「フフ……次はボインメガネ色に染まってやってもいいぜ……」


「ボインメガネ色ってなんだよ」


「うふふ、リンゴみたいな色のライムさんもかわいいです」


 和やかな雰囲気のふたりとひとプル。

 キルシュはすっかり蚊帳の外だったが、ふと我に返ると、話の輪に割り込むようにしてスライをピッと指さした。


「スライくん! あなたに決闘を申し込むわ!」


「決闘? なんだそれ?」


 『決闘』、それは聖邪学園にあるシステムのひとつ。

 生徒どうしのいさかいを、公の場で決着を付けるというものである。


 対決は1対1である必要はなく、相手の同意があれば仲間を呼んでもかまわない。

 決闘を始めるときに、決闘場にいた全員が参加できるルールとなっている。


 キルシュは決然と、そして挑発的に言ってのけた。


「ちゃんとハンデをあげるから安心して!

 わたしはひとりで戦うけど、スライくんは何人でも仲間を呼んでもいいわ!

 まぁ、最低のスライくんに加勢してくれる人なんて、その肩にいるスライム以外はいないでしょうけどね!」


 スライはやるとも言ってないのだが、キルシュはどんどん話を進めていく。


「それと、わたしが勝ったら全校生徒の前で土下座して、スプリングベル様にした、最低の非礼を謝るのよ!」


「誰だ? スプリングベルって?」


「入学式のときにいた、笑い上戸(ゲラ)のメスのことなんじゃね?」


「ああ、ママリアのことか」


 スライとライムの重ね重ねの非礼に、両手で口を押えて驚くピュリア。

 キルシュは総毛立っていた。


「誰だ、じゃないわよ! ママリアのことか、じゃないわよ! それになによ、ゲラのメスって!?

 最低っ! 失礼すぎるにもほどがあるわ!

 そうそう、わたしが勝ったらちゃんと『スプリングベル様』って呼んでもらうからね!」


 この世界では、女神はラストネームで呼ぶ礼儀となっている。

 女神に許されて初めて、ファーストネームで呼ぶことができるのだ。


 スライとライムはママリアージュに認められているので、ママリアと呼ぶことは問題ないのだが……。

 しかしどうしても、キルシュは許せなかったのだ。


 自分が慕い、ゆくゆくは召し抱えられたいと思っている女神を、こんないい加減な少年に馴れ馴れしくされるのが。

 ようするに嫉妬の感情であった。


「決闘は明日の午後にやるわ! もう学園の許可は得てあるから、逃げずに決闘場に来るのよ! いいわね!?」


 自分の言いたいことだけを一方的に言いつけて、去ろうとするキルシュ。

 しかしその背中を「やーだね!」とからかうような声が呼び止めた。


「そんなの、俺様たちにぜんぜんメリットねーじゃん! だからお断りでぇ~っす! ベロベロバーっ!」


「おいおいライム」


「いーからスライは黙って、俺様に任せとけって!」


 キルシュは鬼のような形相で振り返った。


「いいわ……! ならあなたたちも、勝ったときの望みをいいなさい……! わたしにできることなら、なんでもしてあげるわ……!」


「いや、俺は別に……」


「よし! んじゃ俺様たちが勝ったら、お前のスライムを好きなときに揉ませろ!」


 下劣なスライムの要請に、思わず歯噛みをするキルシュ。

 ギリギリと噛みしめる歯の間から、声を絞り出した。


「最っ低……! でも、いいわ……! あなたたちが勝ったら、好きなときにわたしのスライムを揉ませてあげる……!」


「き、キルシュさん!?」


 怒りのあまり頭から湯気を出すキルシュに、いたたまれなくなるピュリア。


「ああっ……! キルシュさん……!

 お顔が、ライムさんみたいに真っ赤っかに……!

 頭に血が上りすぎて、わけがわからなくなっちゃってます……!」


 かくして、決闘の約束は取りつけられた。

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