最初はこんな感じで。
いったいどうしてこうなったのかーー、ただはっきりしていた。
乳母車が目に写る。
すこやかに眠るーー、赤ん坊とは対称的に悲壮な表情の母親は。
どうして目を離すのだと……身体は自然と動いた。
反射神経には自信があったのだ。
ドカン!! ゴロゴロゴロゴロ…………
「オギャア! オギャア!!」
あぁ良かったなぁ、正義感だけは捨てなくて。
ーー偽善者? あぁ、そうさ。
あちゃー、買い物袋の中身はぐちゃぐちゃだ。
自分もぐちゃぐちゃになっている。
いいね、これぐらいで。
速報にはならないだろうが、明日の朝刊の片隅に載ってくれたらねぇ。
やがて大勢駆けつけて、解剖されるだろう。
嫌だなァーー、細かく切り刻まれるのは。
『あなたには勇者の資質があります、やり直ししますか?』
ちょっと意味が分からない。 ただどうせなら。
「ヒーローになりたいっす」
『承りました、無敵能力は欲しいですか?』
「あぁ……地味なヤツでお願いします」
これはあれかな? いわゆる転生特典ってヤツ??
ファンタジー小説や漫画やアニメとか信じられなかったけど、まさか。
これは現実ではない、きっと。
たぶん、絶対に、あり得やしない。
レベル1と書かれたプレートを胸ぐらに隠していた。
「ボサッとしてんじゃあないわよ! 灼熱!!」
「ハぁーーッ!! 直撃!!」
「あとは任せたわよっ、グリーン!!」
グリーンと呼ばれていたのは、自分のコトだ。
身につけた装備はすべて緑一色だったから。
いま、異世界にいます。
初級のクエストーー、迷宮の一階でスライムを相手に悪戦苦闘しております。
やがて、魔王とか倒さないとならないのか。
そんなのは勘弁して欲しかった。
却下、却下、却下、却下。
「うひぃぃぃぃッ! ちょっとタンマッ!!」
どうやら3人パーティーのリーダーになったらしい。
ただあの世界でも臆病者だったから、正直。
「モタモタしてんじゃあないよ!!」
鋭く尖った切っ先がスライムを引き裂く。
「はぁはぁ…………なんだい、これっぽっちかい」
モンスターを退治すれば宝箱がドロップするのが常識だった。
「ひいふうみいよう…………全部で十ギメルかねぇ」
ギメルというのは、この異世界でいう一番安い。
1食分の値段に他ならなかった。
なるほど、どうやら。
危険を冒すモノーー冒険者として転生したらしい。
「……………………はい??」
いつしか酒場兼、宿屋で報酬を分けあう。
それが当たり前となっていたのであった。