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はやりのやつてんこもり  作者: さくらとももみ
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第一章 1話

 セロの突きが戦車くんにクリティカルヒットする。


 戦車くんは死んだ。


「やばいね」


 セロは独り言のように呟くと、自分の右手に握られている剣に目を向ける。


ーーーーーーーーーー

セロ

▼レベル 10

▼所持武器

・鉄の剣 1

ーーーーーーーーーー


 1というのは使用回数である。

 つまり――。


「大丈夫ですよ。私が魔法でなんとかしますから」


 同行人のフィアがそういった。白いローブに身を包んでいる彼女は、長い金髪をふたつのおさげに結っていた。フィアは少々息苦しそうだ。


 彼らがいまいるところは、ガルドの洞窟と呼ばれる場所だ。


 人があまり立ち入らないそのダンジョンには、『天使の布』と呼ばれるアイテムが眠っている。彼らの目的はそれだった。


 辺りはカビ臭さが充満している。そして今、彼らは地下三階にいた。


「ありがとう。でも根本的な解決にはならないから、やっぱりなんとかしないとね。宝箱でもあればいいんだけど、戻るにしても微妙な距離だしね」


 笑みを浮かべながらフィアにそう返す。


「そう都合よく――あっ!」


 フィアの視線の先。そこには目立たないよう、端っこに置かれている宝箱があった。一体誰が置いたのだろうか。


「ラッキー! あけるよ?」


 急ぎ足でその場所に向かうセロ。後ろを振り向いてフィアに確認すると、彼女もまた力強く頷いてセロの側に陣取る。


 セロは宝箱を開けた――。


 すると箱の中から飛び出したのは、小さな妖精だった。

 妖精は長い黒髪を振り乱しながらこう言った。


「えすえすあーるでーす」


「よっし!」

「やったっ!」


 セロとフィアは同時にガッツポーズをとる。


 妙なエフェクトの後、出現したのは――。


「え?」


 セロとフィアは同時に声をあげた。

 彼らの目の前に現れたのは、また別の妖精。今度は赤毛のショート髪だ。


「ピクシーだね」

「ですね」


 それはピクシーと呼ばれるモンスターの一種だった。


「ちょっとちょっと、なんでそんな不満そうなのよ」

 ピクシーは声を荒げながら、右へ左へ飛び回っている。


「だって、いまじゃないよ。いまはどう考えても武器だよ」

 セロは妖精に向かってため息をつきながらそういった。


「いくらSSRでもね」


「こう見えてもあたし攻撃できるんだよっ?!」


「マジックアローだよね。あれダメージ一桁しか出ないよね」

 ピクシーは、うぐっと呻いた。


「ピクシーはどちらかというと、回復と補助ですから」

 フィアはその後小さく「役割が被ってるんです」と呟いた。


「あれ、あたし、呼ばれてない?」

 シュンとした面持ちで、ピクシーは所在無げだ。


 何も答えないセロとフィア。その様子を見たピクシーは、

「いーもん、いーもん!」

 と、ダンジョンの奥の方に飛んで消えていってしまった。


「行ってしまいましたね。えすえすあーる」

「アイテム扱いじゃないのか」


 取得したアイテムが自力で逃げていくなんて話を、セロはきいたことがなかった。

 ガッカリしたふたりは、ダンジョンのさらに奥へと目指して歩いて行く。


 セロの革靴が、地面の小さな石を蹴り飛ばす。地下三階となると、旅慣れた人間でも易々とはたどり着けない位置だ。せいぜい勇者ご一行や、金に物を言わせた課金戦士ぐらいだろう。


 何せガルドに潜ってからもう一週間が経っていた。


 水も食料も心許ない。たまにある地底湖で『一緒に』水浴びをしているお陰で、不快指数はそれほどでもない。それでもダンジョンに長く潜っているとストレスが溜まるもので、セロとフィアの間でも、口数が減ってきていた。


「セロ、モンスターですよ」

 小声でフィアがそう伝えると、セロは小さく頷いて見せた。


 彼らの目の前にはサラマンダーと呼ばれる火トカゲがいた。レベルは大体8ぐらいのモンスターだ。ちょうど消耗するぐらいの嫌な相手だ。


 できればエンカウントしたくない。セロはそう考えて、人差し指を立てて口元に当てる。フィアも察したのか、物音を立てずに息を潜めた。


 そのときである。


「サラマンダーさーん! ここに人間がいますよー!」


 そんな声が響いた。

 目をこらしてよく見てみると、先ほどのピクシーが飛び回っている。声の発信源は彼女だ。


 ご丁寧にセロたちの側に飛んできたピクシー。サラマンダーが気づき、咆哮をあげてセロたちに突進してきた。


「あのピクシーなんなんだ!」


 当のピクシーは既にどこかへ飛んで行ってしまった。

 ピクシーのことに腹を立てていたが、そんなことをしている場合でもない。


 セロは剣を構える。フィアも杖を構えて魔法の詠唱準備を始めた。

「セロは撹乱してください。私がアイスニードルで倒します」

「わかった!」


 言われた通り、セロは相手の注意を引きつける。手に持っている剣は、あと一回攻撃すれば壊れてしまう。なるべく温存しなければならない。


「武器は使えない――ならば!」


 セロが革靴でサラマンダーを蹴り上げる。するとサラマンダーが怯んだ。しかし焦げた臭いが辺りに充満し、セロの革靴はつま先が黒く炭化していた。


「肉弾戦は無理か」


 剣を鉄の鞘に納刀したセロは、鞘とベルトを繋いでいる留め具を外す。鞘に収めたままの剣をふるって、相手の気を引く作戦にでた。


 大きく剣を振るったとき。


 鞘は彼方へ飛んでいってしまった。中から現れたのは、使用回数1の刀身。それが見事にサラマンダーにヒットする。


 鉄の剣は壊れた。


 グォォォォォっ!


 咆哮が響く。しかしサラマンダーはまだ絶命していない。

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