いじめとオタクと尊厳と①
ステラからの告白を受けた翌日の朝。俺は支度を終え、重たい足を何とか動かし登校していた。
「昨日は投げやりにしちゃったけど、これからどうするかな……」
そんな事を思いながら、学園の門の前まで着いた所で。
「さっさと出さんかいコラ!」
門の端から怒鳴り声が聞こえた。
何事だと思い声がする方を見ると、怯えている男が1人と怒鳴り散らかしている男が1人。どちらも学園の制服を着てる事から2人共ハルシャギク学園の生徒なのだろう。
「か、勘弁してくださいっ! もう今月はっ……」
「あぁん? てめぇ、面白えじゃねえか。痛ぇ目あいてぇらしいなあ!」
真面目そうな生徒に向かい大柄な男がカツアゲをしていた。
……この学園でもあんな奴いるんだなぁ…。そんな事を思いながら、いざ男が手を出すようなら止めようと、ジッとその光景を見ていたら大柄の男と目があった。
「何見てんだコラァ!」
視線に気付いた男が俺に向かって怒声を撒き散らす。
気にせずジッと見続けていると、男がこっちの方へ血相を変えズカズカと歩いて来た。
「お前いい度胸してるじゃねえか」
男はそう言って俺の目の前に立ち、胸ぐらを掴んで威圧する。
この男、遠目から見ても大柄と分かっていたが、目の前に立たれると予想以上にでかい。俺も180くらいはあると思うのだが、それよりも遥かに大きい。
2mくらいあるその男は黒髪の短髪で、顔立ちは骨格がしっかりしており目つきがすこぶる悪い。でかい上に、制服の上からでも筋肉の形がわかるほどムキムキだ。
「1年坊主が調子乗ってんじゃねえぞ‼︎」
男が今にも殴りかかりそうな勢いで怒鳴り声を上げる。
……なんか俺、この学園来てから不幸な目にしかあってなくないか?
何か呪い的なものがついてるのだろうかと不安になっていると。
「こっ、コラーー! やめなさい‼︎ 何してるんだ君たちは‼︎」
先生がそう言いながら、こっちへ走ってくる。
「チッ、めんどくせえなあ……おいお前、顔覚えたからな。覚えとけよ」
男はそう言って、俺を掴んでいた手を離し、学園内に向かって歩いて行った。
……よし、忘れよう。
そんな事を思いながら、俺も教室へと歩いて行った。
ーー今日も今日とてステラがうるさい。
マイペースで周りの目を考えない王女様に、最初は困惑していたクラスメイト達もだんだん遠ざかっていき、今となっては完全にステラの事を怖がっている様子だ。
「私お花積みに行ってくるわ!」
2時限目が終わり休憩時間に入ったタイミングで、ステラが堂々とそう言い放ちドタドタとトイレへ向かって行った。
「……はぁーーーーーー」
深くため息をつくと同時に、机に向かって倒れこむ。
学園生活が始って早々、色んな事が起きすぎてる。ステラの奇行もそうだが、常に俺と一緒に行動している為俺達2人は完全にクラスから固執してしまっている。それだけでも大事なのに、昨日はステラに告白されるという大事件まで起きた。
……何とかしないと、このままじゃ駄目だ。積もりに積もった問題をどう解決していこうかと机に項垂れながら悩んでいると。
「大変そうでござるな、プリム殿」
クラスメイトの1人に声を掛けられた。
何でだろう、どこかで聞いた事のあるような声だ。
顔を上げると、メガネを掛けたいかにも冴えなそうな男が立っていた。
黒髪の長髪で、背が高く、俺と同じくらいの高さだ。
聞き覚えのある声だと思ったのだが、どうやら勘違いだったようだ。完全に初めましてだ。
「そ、そうなんだよ! もうほんと大変でさあ」
びっくりした。まさかクラスメイトから普通に声を掛けられるとは思いもしなかった。
だがこれは友達を作る大チャンスだ! このこの機を逃すなプリム!
自分で自分に強く言いきかせ、これまでの流れを挽回するべく勝負に出る。
「よく俺の名前覚えてくれてたね。凄い嬉しいよ。」
「何を仰りますかプリム殿! 互いに拳を交えた戦友を忘れるわけがないでござるよ!」
……ん? 互いに拳を交えた? ……何を言ってるんだ。
「えぇ……と、俺ら初対面だよね?」
「ひっ、酷いでござるよプリム殿! 我らこうして話を交えるのは二度目でござるよ!」
まじか。……やばい、全く思いだせない。
「ご、ごめん! どこで会ったか全く思いだせない! 名前教えてくれるかな?」
「プッ……プリム殿! それはないでござるよお‼︎ そ、それに学園初日に自己紹介もしたでござるのに!」
そっ、それは……どっかの誰かさんのせいでほとんど聞けなかったんだよなぁ……。
「ごっ、ごめんって! ほんとごめん!」
「まっ、まあ、初めて会った時より多少外見は違うでござるが……」
そう言いながらあからさまに落ち込んだ男は「仕方ないでござるな……」と小さく呟き。
「拙者の名はセニア・ノースポール! プリム殿と1年前互いに拳を交わし、盟友となった者なり!」
その男は高らかにそう名乗った。