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七光りBREAK!!  作者: 芦田
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門出と王女と告白と⑥

 時が止まるとはこの事なのだろう。空気、風、音、人、そして自分さえも完全に止まったような感覚。

 ……は? 今この女……何て言った? 俺の事が好き? この女が? 

 ……駄目だ理解が追いつかない。


「悪い、聞き間違えた。もう一度言ってくれ」

「だから、プリムが好きなのよ私。あ、もちろん異性としてよ? だからいっつも一緒にいるんじゃない」


 真顔で堂々と言いきるステラ。これはもう聞き間違えじゃない……。


「なっ……なっ、何で⁉︎」


 やっと事態を理解した俺だが、反射的に聞きかえしてしまった。


「一目惚れよ。あなたの顔、私のタイプなの」


 そんな事を平然と言ってのける。


「なっ……でっ、でもお前! 門の前で俺の事いきなり蹴り飛ばしたじゃないか‼︎ まじで危なかったんだぞ! 蹴られて気失うとか初めてだ‼︎」

「だってだって! パパからの忠告もあったし! 後お前じゃなくて! ……まぁいいわ。だって仕方ないじゃない、顔が確認出来たのはプリムが気絶した後だったもの。それに保険医の人に治してもらったんでしょ? だったらいいじゃない」


 ステラは堂々と悪柄もなくそんな事を言い放った。

 ……この女、どうしてくれようか。

 正直、顔は嫌いじゃない。門の前で会った時も一瞬だったにも関わらずその可愛さに見惚れていた程だ。


 ーーだが、それ以外が論外だ。


 お前は何様なんだと言われるだろうが全然構わない。俺にも人を選ぶ権利くらいある。

 門の前で強烈な一撃を入れられたからだろうか、俺の体にステラへの苦手意識が染みついている。それに、俺はある人物のせいで王女という存在自体が苦手になっていた。

 ステラの告白は純粋に嬉しい。たとえ、自己中で無知で、悪魔であったとしてもだ。だからこんな女でもいざ振るとなると、罪悪感で胸が押しつぶされそうになる。

 だが、言わなければ。そう決心し、ステラに向かって口を開く。


「あのなステラ。気持ちは凄い嬉しいんだが、その……ごめん!」


 ……言ってしまった。でも、よく言ったプリム。こればかりは、なあなあにしてしまってはいけない。ステラの気持ちに正直に応えなければ。

 しかし、断りの返事と共に頭を下げた俺はなかなか頭を上げれないでいた。

 ステラの返答がないのだ。

 どうしよう……めちゃくちゃ怖い。

 しばらく頭を下げていた俺は、怖いながらもステラの反応が気になり、恐る恐る頭を上げる。

 そして、頭を上げた俺がステラの方を見ると……。


 ……あれ?


 そこには怒りもせず、悲しみもせず、困惑顔のステラがいた。

 ……これあれだ。俺がよくステラに向けてる顔だ。ステラが訳わからない事を言う度に俺は「何言ってんの?」みたいな顔を向けている。別に故意があるわけではない、自然とそんな顔になるのだ。

 もちろん自分で見た事はないが、間違いない。絶対こんな顔してるはずだ。

 顔を上げた俺にしばらく黙ってたステラが。


「ごめんって何が? プリム何か悪い事でもしたの?」


 そんな事を当たり前のように言い放った。


「……はい?」


 いや、今の流れでごめんの意味が分からない筈は……。でも……え?

 状況が飲み込めてない俺に向かって、ステラは続ける。


「いや、だからね私がプリムの事を好きなの! ちゃんと理解してる?」


 あー……これあれだ。このお嬢様、『恋』を知らない。

 ステラが今俺に抱いてる感情は園児が先生に抱く好意だ。……ただ、これはこれでまずい。

 もし、俺の考えが正しければ……。


「ステラ、俺を見てなんかこう……胸がドキドキするか?」

「何? セクハラ?」

「……子供ってどうやって出来るか知ってるか?」

「知らないわ」

「……ステラは俺と結婚したいか?」

「したいわ。ていうか結婚はするでしょ?」


 ……やはりそうだ。この女、色恋沙汰に関しては園児レベルだ。

 まず前提として、ステラは俺の事を異性として好きだと言った。それは本当に思っている事なのだろう。

 ただ、このお嬢様は『恋』というものを知らない。俺も園児の頃は先生の事を好きだったが、ドキドキした覚えはない。なにより、俺が言う胸を自分のお粗末な胸と勘違いしだす始末だ。

 そして、子供の作り方だ。本来であれば恋人同士が愛を育み生まれるものだ。その過程を知っているならば、この質問にこそセクハラだと訴えるべきものだが、ステラは知らないと答えた。

 つまり、ステラには恋人という概念が無いのだ。

 そして、結婚だ。俺が懸念していた事がやはり的中してしまった。園児の頃、先生が好きで結婚すると高らかに宣言した事を思い出す。

 あの時俺は、先生と結婚出来るものだと思っていた。結婚というものがどうすれば出来るのか、何をするものなのか、何一つ知らないくせにだ。

 ……厄介だ。災厄という言葉が相応しい。


「まあ、結婚の事はとりあえず置いときましょ。まだ結婚できる年じゃないし」


 そう言ってステラは再び帰路につく。……どうしよう、説明するのがめんどくさい。

 勿論このままでいい訳ではないのだが、俺が説明してステラが理解出来るとは到底思えない。

 理解出来ないのはいいとして、変な解釈をしてこれ以上めんどくさい状況になればそれこそ取り返しがつかない事になる。


「……帰ろう」


 俺は考える事を止めた。

 とりあえず今はステラがつきまとってくる以外弊害はない。いや、それもかなりの迷惑行為なのだが。

 ただ、まだ許容範囲内だ。俺が何か言ってこれ以上めんどくさい状況になるのなら、俺は喜んで今のこの状況を受け入れよう。

 どうかこれ以上変な事に巻き込まれませんように……。

 そう願いながら、俺も寮に向かい再び歩きだした。

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