門出と王女と告白と④
俺の隣に貧乳ボブの悪魔が降臨した数分後。教室は自己紹介タイムに突入していた。
これから1年間共に同じ時間を過ごすんだ、俺も必要な事だと思う。
自己紹介が前の席から順番に進んでいく中、俺は隣の席に座っていた人物に話しかけられた。
「あなた誘拐犯じゃなかったのね。いかにも私を見る目が怪しかったから勘違いしちゃったわ」
隣の悪魔が悪柄も無く、そんな事を言ってくる。
……こいつ、やっぱり関わっちゃ駄目なタイプだ。誘拐犯と勘違いした、怪しかったから蹴り飛ばした。なんでそんな馬鹿な勘違いをしたのかは知らないが100歩譲ってこれを許すとしよう。
だがこの女、今の言葉の中に謝罪の言葉が1つもなかった。つまりこの女はあれだ……人の話も聞かなければ、自分が一番正しいと思い込んでる自己中心的タイプだ。
「ねぇ、あなたのお腹に私のキセキックが綺麗に入ったと思うんだけど、どうして歩けているの? ……あっ! キセキックっていのはね、私の鍛え上げられた脚力と強靭な……」
……しかも悪質の。
俺の隣で訳の分からない事をブツブツ言ってるこの女はとりあえず無視だ。そんな事より、みんなの自己紹介を聞かないと……!
俺は悪魔に背を向ける形で、自己紹介中のクラスメイトの方に目を向ける。
「リン・アマリリスです! みんなと楽しい学園生活を送りたいと思っています! 私の事は気軽にリンちゃんって呼んでください!」
「初めまして! 僕の両親は飲食店を経営していて、家業を継ぐ為必死に勉強中です! 学園の近くにもお店があるので、良かったらみんなで食べに来て下さい!」
「絶賛彼女募集中です! よろしくお願いします!」
……あの、リン・アマリリスって子、完全に初対面なのだが、アマリリスという家名をどこかで聞いた事がある気が……。
……いやいやっ、そんな事より! もうすぐ俺の番だ! みんなの自己紹介を聞きながら、俺は何を話そうかと少し考え込む。
……どうしよう、脇腹が痛い。
「ちょっと! 私の話聞いてるの⁉︎」
そんな中、自分の話を全く聞いてない事が分かり腹が立ったのか、俺の脇腹をつねりギャーギャーと文句を言ってくる悪魔が1人。
「おいやめろよ、……痛い、本当に痛い」
「あなたが私の事無視するからでしょ? 私がせっかく徳のある話をしてるんだからちゃんと聞きなさいよ」
……何が徳のある話だ。訳の分からない事をブツブツ言ってただけじゃないか。
「今みんなが自己紹介してるんだからちゃんと聞けよ」
「私の話を聞きなさいよ」
この女本当駄目だ。自己中を拗らせて話も通じないらしい。
これ以上この女と関わってたら本当まずい。
俺がどうやってこの女と距離を取ろうかと考えていると。
「じゃあ、次プリム君」
「……え? ……あっ、はい!」
しまった、完全に油断していた。どうやら、早くも俺の番まで回ってきてしまったらしい。
隣の悪魔のせいで自己紹介の内容を考える暇がなかった。
「えぇ……と」
やばい。みんなが超見てる。でも、何にも思い浮かばない……えぇい! どうにでもなれ!
「えぇ、プリム・アスペンです。僕もこの学園生活を楽しく過ごして行きたいと思っています!よ、よろしくお願いします‼︎」
……とんでもなくつまらない自己紹介をしてしまった。
いや、無難といえば無難なのだが……。
ーーそんな事を必死に考えていると、次第にみんながざわつき始めた。
「えっ、嘘でしょ」
「いや、でもさ……」
嫌な汗が頬を伝う。何か変な事でも言ってしまったのだろうか。
みんなの反応に焦り、オドオドしていると。
「あのー、プリム君?」
1人の女の子に話しかけられた。
「な、なんでしょう……」
「先生の言葉から気になってはいたんだけど、アスペンってあの『英雄』様と『女神』様の名前だよね?」
……ああ、なるほど。そう言う事ですか。
「そ、そうだね……一応その2人は俺の両親……です」
俺がそう答えると同時に、教室が沸いた。
「えぇーーーー! あの『英雄』様と『女神』様の息子⁉︎」
「一人息子がいるとは聞いてたけど……すげーー!」
……やばい。このままじゃみんなに変な気を使われて……。
「あっ、あのっ! ……『英雄』と『女神』の息子とかは関係なく、普通に接して貰いたいです! 俺は……みんなと楽しく学園生活を送りたい……から」
俺がそう言うと、さっきまで騒がしかった教室が途端に静かになる。
……やばい、もう本当に泣きそう。しばらく静寂が続き、次第にクラスメイト達が口を開く。
「そうだよな! 俺ら同じクラスの仲間だもんな!」
「よろしくね! プリム君!」
「めちゃくちゃ上手いパン屋があるんだけど、今度一緒に行こうぜー!」
俺の気持ちを察してくれたのか、次々に話しかけてくれるクラスメイト達。
「あっ、ありがとう! よろしく!」
みんな優しくてこれからの学園生活が楽しくなりそうな予感がし、自然と笑顔が溢れる。無事自己紹介が終わった事に安堵し、席に着き一息つくと隣からガタッと音がすると同時に悪魔が立ち上がった。
「ステラ・ロビウムです」
隣の席の悪魔が名前を言ったその瞬間。
「えぇーー‼︎ ロビウムって……えぇー‼︎」
またしても教室が沸いた。
……何だよっ! この騒ぎ何事だ⁉︎
「ねぇ、なんでみんなこんな騒いでるの?」
みんなが何に騒いでいるか分からず、右隣のテーブルに近付き聞いてみた。
「プリム君知らないの⁉︎ ロビウムって言ったらこのサングリスタの王族の名前よ‼︎」
……は?
「コホン私の名前はステラ・ロビウム! 家系で言えばサングリスタの第1王女って事になるわね! 私にも普通に接してくれて構わないけど、言葉遣いと態度には気をつける事ね。馴れ馴れしくしたらぶっ飛ばすわよ」
……なるほど、メディ先生が教室に行けば分かるって言ってたのはこの事か。
「王女様なんて初めて見たぞ‼︎」
「すげえよ‼︎ 本物の王女様だ‼︎」
「まさかステラ様と同じ学園に通えるなんて……!」
自己中をそのまま表したような自己紹介にも関わらず、悲鳴にも似たような歓喜の声が教室に鳴り響く。
それもその筈、今までこのステラ・ロビウムは王女として人前に顔を出した事は1度も無いという。
この教室で1番の盛り上がりを見せている中、俺は……。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
教室の歓喜の声を掻き消す程の叫び声を上げた。