門出と王女と告白と③
この世界には魔法というものが存在する。
この魔法という力は体内に魔力というエネルギーによって発動できるという仕組みだ。
今は魔力を持たない人間の方が少ないが、もちろん昔の人間が魔力なんて物を持っている筈もない。
ならばなぜ人間がそんな力を使えるようになったのか。
それは魔族の存在があったからだ。
大量の魔力を宿し、高い生命力に加え、爪や牙などが発達した魔族にとって人間など貧弱な生物だったのだろう。
魔族は次々に人間を蹂躙しこの世界を支配しようとした。
しかし、人間には唯一魔族に勝っている物があった。
知恵だ。
人間の成長は著しく、あっという間に兵器を作り上げ魔族と交戦した。
人間と魔族の戦争は続きお互いどちらかが滅亡の運命を辿ると思われたその時、人族の王が魔族の王に話をらもちかけた。
それこそ人間が魔力を持つようになったきっかけだ。
魔族に知恵を与え、人間には魔力を与え共存していく。
この提案に魔族の王も応え、人間は魔力を授かり子へ、また次の子へと繋がっていったーー。
魔法……か。
実は魔力を持っていても魔法を使える訳じゃない。
訓練や努力して身に付いていくものでもない。
こればかりは生まれつき、つまり才能なのだ。
「メディ先生は魔法をつかえるんですね」
「ええ。回復魔法を使えるの。そのおかげで、今こうして保健医を任されているんだけどね」
そして、魔法を使える人はかなり少ない。
それこそ王族や、貴族など高潔な血を継ぐ者達が魔法の力を授かる事がほとんとだ。
それ故魔法の力は偉大なのだ。
こんな大怪我をあっさり治す程に………。
改めて『女神』と謳われていた母の偉大さを思い知る。
「そういえば、なんで門の前で倒れてたの?」
そう言ってメディ先生は、素朴な疑問を俺に問いかけてきた。
「いやぁ……なんか俺にもよく分からないんですよね。教室に向かおうとした時にうちの制服を着た女の子にいきなり蹴られて………」
……なんか思い出してきたら無性にイライラしてきた。
「あんの貧乳ボブめ、次会ったら一発引っ張たいてやる。……いや、もう会いたくないな」
そんな事を呟いていると、メディ先生が少し考え込み、こんな事を言ってきた。
「貧乳ボブ……。ねえ、それって……」
メディ先生が何か俺に言おうとしたその時、まるで天国にいるかのような綺麗な音色を奏でるチャイムの音が、学園全体に鳴り響いた。
「あら、もうこんな時間。……さあ、怪我も無事治ったんだし早く教室に戻りなさい。始業式は……残念ながら終わっちゃったけど、まだHRには間に合う筈だから」
そうか、今のはHRが始まるチャイムだったのか。
俺はベッドから降りて、メディ先生の側へ行き。
「メディ先生、本当に有難うございました!」
怪我を治してくれた先生にお礼を言った。
「いいのよ、保険医だもの。怪我治すなんて当たり前の事よ。担任の先生には事情を伝えてあるから安心しなさい」
そう言って優しく笑いかけてくれた。
あれ……? どうしよう。好きだ。
さっきの悪魔と出会ったせいか、先生が天使にしか見えない。
性格も態度も、それに胸もあの悪魔と比べれば天と地の差があり……。
いつの間にか先生の胸を凝視していた俺の目線に気付いたのか、メディ先生は「早く行きなさい」と微笑しながら言ってきた。
教室を出る際、俺は1つ気になる事があり、先生に問いかける。
「そういえばメディ先生、さっき俺に何て言おうとしてたんですか?」
突然鳴り響いたチャイムでその先を聞けなかったが、メディ先生は何か言おうとしていたのだ。
そんな俺の言葉を聞き、先生は片目をつむり人差し指を口に当て言った。
「それは教室に行けば分かるわ」
ちくしょう! 可愛い! 好きだ!
邪な思いを抱きつつそんな意味深な言葉を聞きながら、最後に先生の胸をしっかり目に焼き付けた俺は自分の教室へ歩いて行ったーー。
このハルシャギク学園にはA組、B組、C組の3つのクラス分けがされている。
そして1年A組、これが俺のクラスだ。
つい先程保健室に居た俺は、始業式が終わりHRを受けているであろうクラスの前にまでやってきた。
「ふぅ……」
緊張する。
門の前でも緊張していたが、今朝の比じゃない。事故に遭ったとはいえ遅刻は遅刻だ。
それに、今までであれば、『七光りのバカ息子』というあだ名が定着していた為、遅刻をしようが何しようが、誰も気にも留めないし、俺自身も何とも思っていなかった。
だが、俺がいるこの場所はアッシュベルトではない。
アッシュベルト王国から海を渡り別大陸にある国。
多くの人達がこの国で存分に羽根を伸ばせると言われ、大人気の旅行観光地とされている娯楽国サングリスタ王国。
つまり、俺が今いるこのハルシャギク学園は、サングリスタ王国の学園なのだ。
この地でならば、『英雄』と『女神』の息子がいると知っていても、『親の七光り』だの『バカ息子』などと不名誉な呼び名で言われる事はないだろう。
だからこそ、最初が、肝心なのだ。
……大丈夫。不器用もバカも見た目ではばれない。
自慢じゃないが、俺は外見には自信を持っている。端正な顔立ちに、女性も羨む程のサラサラの金髪。それに背も高く、スタイルも抜群だ。
ミスをしなければ好感度は上がれど、下がる事は無いだろう。
「ふぅぅ〜〜」
大きく深呼吸をし、心の準備を整える。
そして、覚悟を決め、教室のドアを開けたーー。
「あっ……」
気合いを入れ直したせいか、思った以上に力が入っていたみたいで、かなりの勢いでドアを開けてしまい、物凄い音が教室に響き渡る。
初っ端からやらかしてしまったと、頭の中が真っ白になり困惑していると。
「プリム・アスペン君?」
そう名前を呼んでくれたのは教壇に立っているとても優しそうな人だ。
「メディ先生から聞いているよ。大変だったみたいだね。私はノーマ・フーツ。この1年A組の担任です、よろしくね」
そう言ってノーマ先生は、優しく笑ってくれた。
「さぁ、どうぞ入って入って!」
なんだこの学校は。天使しかいないのか?
ピンと張り詰めていた緊張の糸が解れ、淀みきった心が浄化されていく。
保健医の先生に癒され、担任の先生には恵まれた。この感動を強く噛み締めたいが、その前にやる事がある。
俺は先生と、それから生徒に向かって頭を下げた。
「入学早々遅れてしまい申し訳ありません!」
俺が謝罪と共に頭を下げると、少し間が空き、クスクスと笑い声が聞こえだす。
だが今まで弄られ続けた俺にはわかる。これは……。
「全然大丈夫だよー!」
「なんか保健室に運ばれたみたいだけど大丈夫かー?」
そう、これは誰かを蔑んだり、バカにする笑いではない。これは良質な笑い声だ。
「ハハハ、プリム君が謝る必要はどこにもないじゃないか。ちゃんとメディ先生から事情は聞いてるから」
……優しすぎて、涙が出そうだ。
「まぁ、とにかくクラスメイト全員が揃ってよかった! さぁ、席に座って。あそこの空いてる席に座るといい」
指定された俺の席は、1番後ろの窓際のテーブル席の通路側だった。
目で席を確認している時に1つ疑問に思った事がある。遅刻した俺の席は空いてるのは当然として、もう1席空席があるのだ。他に遅刻している人がいるのか? でも、さっき先生はクラスメイト全員揃ったと言っていた。
つまり、このクラスは27席あるが、俺を含めても人数は26名という事になる。
……まあ、席に余裕があるのはそんなにおかしい事ではないか。そう思いながら、先生が指示した席に向かって歩き出した。
席に向かう途中みんなから「よろしくー」なんて言葉を掛けられた。
あぁ、天国だ。このクラスは本当に天使が集まった楽園だ。嬉し涙を必死に堪え、席に着いた。
そして、隣の席の人に一言挨拶をしようと……。
「これからよろし……」
そこにいたのは忘れもしない、貧乳で黒髪ボブの……。
「あぁぁぁぁぁぁーーー‼︎ あんた今朝の金髪誘拐犯‼︎」
……前言撤回。俺の目の前に、悪魔が現れました。