━序━ 日常の終わり
改めて連載を開始致します。
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普段生活している日常なんていつ終わるか分からない。
「あ、日常終わったわ。」
そう実感した事はあるだろうか?
俺はある。
と言うか、ついこの間体験したばっかりだ。
無茶苦茶な出来事に巻き込まれて、自分の理解し得ない所へと連れて行かれた訳なのだが。
見知らぬ土地で見知らぬ誰かと過ごし始める。
そんな俺が今まで歩んできた人生を全否定されるような形で起こったその出来事。
ようやく落ち着いてきた所で今思い返してみれば、俺の人生が全否定されたのでは無く、こうなる事も決まっていた事なのかもしれない。
『転生させるから好きにしてくれ。』
厄介な出来事に巻き込んだ張本人から後々言われることになるその一言。
俺はどう受けとったら良かったのか。
何をしたら正解なのか。
今でも分からないままだ。
転生させるとか何とか言っていた所もそうなのだが、もっと理解出来ない発言もあったな。
『それじゃあ、蹂躙を。』
蹂躙なんて聞きなれない言葉。
アイツは軽々しく発言していたが非常に物騒な発言だ。
兎にも角にも、俺がどうなってしまったかまでは進めていこうと思う。
話すことは多々あるが、先に一言だけ、簡単に言うのであれば、
俺が死んだ出来事について語ろう。
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俺は何処にでもいる男子高校生だった。
だったってのは別に中退したとか、俺の歳が高校生の世代から離れてるからとかではなく、今思い出してる現時点では男子高校生ではないからだ。
普通に朝起きて親と数回口を利き、身支度を整えて朝食を済ませる。
そして登校する。
「行ってきまーす。」
高校生活を始めて3年目、そろそろ夏休みも近づいてきていた頃だった。
7月の1週目、気温も今年は高いとの事で、俺も肌着か汗ばんで非常に不愉快だった。
暑い、暑すぎる。
きっと他の人も同じことを思っていたであろう。
なんせ日本だ。
こんなに四季のはっきりしている国なんてほかにそうそうない。
そんな訳だから、夏は暑苦しくなるし、冬は凍えてくる寒さだ。
まぁ、18年間もその環境で生きていれば次第と体も慣れてくるものだ。
慣れというより適応に近い。
他の国ではこんな寒暖差の激しい気候じゃないはずだから、外国から来る人達にとっては苦痛であろう。
にしても暑い。
今日は朝からいつも見ているテレビチャンネルの、これまたいつもののニュースキャスターが言っていた気がする。
『いやぁ、今日も暑くなりそうですねぇ。
連日猛暑日ですから、皆さん外出の際はくれぐれも━━』
後半は聞き流して身支度の時間にあててた訳なので覚えていないが、その後のコーナーで可愛いお天気お姉さんはしっかりと目に焼き付けていた。
所詮男子高校生なんてそんなもの。
可愛い人や綺麗な人がいたら目がいく。
いくと言うか、勝手に反応している。
目だけ独立して思考しているのではないかと錯覚する(そんなことで錯覚していたら生きてくのが大変になるのは置いといて)くらい、それはそれはマジマジと見てしまうものだ。
『今日も一日頑張ってくださーい。
それでは、行ってらっしゃーい。』
億劫な一日の始まりに、可愛い女性からそんなことを言われてみろ、そりゃ頑張っちゃうでしょうよ。
俺もお姉さんに胸の中で、「行ってきます!」と告げて朝は家を出たのだから。
恥ずかしいだなんて思ってない。
断じて思ってはいない。
他人からは思われてるのかもしれないが……。
そんな感じでいつも通りの日常は始まって、時間は経っていった。
人間、主観的時間が経つのは、普段の生活に慣れれば慣れる程、あっという間になっていく。
よく言う、歳を重ねると1年があっという間に感じるってやつだ。
少しニュアンスは違うのかもしれないが、これとそれとで大して差異はないだろう。
1日か1年かの違いだし。
それを言うと細かい人は、全然時間の長さ違うだとか言い始めるからこの話は以上にしよう。
無駄な思考なのかもしれないが、何も考えずに生きてるよりマシだと言い聞かせている。
俺は周りに合わせて生きるのが他の人より上手いらしいので、授業中寝てようが、掃除を少しばかりサボろうが咎められることもあまりない。
それが良いとは言い切れないが、悪いことでもないのだろう。
特に何かある訳でもない俺の少しばかりの、他人に比べたらあまりいい自慢話ではないが自慢だ。
さて、担任のいつもと変わらない連絡を聞き終えたところで、今日もまた学校生活が終わった訳だ。
「すまん言うの忘れてたんだが、明日は全校集会があるから時間に間に合うように。それじゃあ、気をつけて帰れよー。」
と、最後の最後で思い出したらしく再度話してから教室を後にした担任。
この人は言うの忘れてるって言う割に週に4、5回あるのだがどうなのだろう……。
担任もきっと教師という職なので疲れているのだろう。
こんな子供を何人も相手してるのだ、肉体的疲労だけでなく精神的疲労も溜まる一方だろうな。
俺だったら上手いことやりくりするのだけれど、担任にとっては難しいことなのかね?
適応、順応、対応……etc.
言い方は色々あるけれど、人間生きてればそのうち何事にも慣れていくものだ。
そう、何事にもね。
下校するのに身支度を整えて教室をあとにした俺、いつものように自販機でブラックコーヒーを買っている。
格好付けて無糖を選んでるとか、男子高校生特有の粋がりとかではない。
普通に飲みたいのだ。
昔から飲めていたので、あれば買って飲みたくなる。
飲料水を飲むのと同じ感覚だ。
ブラックコーヒーを喉に流し込んだらようやく帰宅だ。
この1日頑張った俺にご褒美のようにして買うブラックコーヒー、それを飲めるだけで幸せだ。
みみっちいって?
いいじゃないかブラックコーヒーがご褒美だなんて。
小学校、中学校と、給食で牛乳が出ていただろう。
その牛乳を毎日飲んでいた経験のせいなのか、クラスに数人は牛乳が好きになった人が居るだろう。
簡単に言えばそれと同じだ。
だから別にみみっちくない。
ご褒美なのだから、俺が喜べばそれでいい。
さて、俺のブラックコーヒー好きについてだが、最後にこれを忘れてはいけない。
飲み終わった缶を捨ててから帰らねば。
流石に、買ったそばから自販機の目の前で飲むような馬鹿じゃないから、横に置いてあるゴミ箱からは若干距離が空いてしまっている。
となれば、いちいち歩いて入れるのも面倒臭い。
本当は歩いて捨てに行くのが理想なのだろうが、投げた所で危なくなるような状況でもない。
だから毎度、俺は上向きに口の空いた缶専用のゴミ箱へと飲み終えた缶を投げ入れるのだ。
「よっ……と。」
カラランッ……。
空き缶の奏でるその音が無事に聞こえたので、俺はバスケット選手がフリースローをしたようなポーズから体を直す。
誰かに見られてないか不安になるが、過去に何度か見られても割と無視されるのでもう慣れている。
「それじゃあ、帰るとしますか。」
やっと帰路に着いた。
今日は何時もよりも考え事が多いので、その分足取りもゆっくりなものだ。
考え事をしながら歩くのは割かし危険だが、俺も考え事による不注意で死にたくは無いので、辺りをしっかりと見ながら歩いている。
同じ高校の女子生徒や男子生徒、先輩や後輩等、いつもの下校路の様子。
最寄り駅から電車で帰る生徒達は右へ、バス停でバスを待つ生徒は左へと別れるT字路に着いた所で、俺は左へと曲がる。
俺は高校へと徒歩で通っている。
それは、徒歩で登校して可愛い女子高生とばったり! とかを期待してとかではない。
単純に自宅から近い高校を選んだからだ、
よって、自宅から学校まで、どれほど道が混んでても、交差点に全て引っかかったとしても、15分を超えることは無い。
実際にふざけて検証したことがあるので間違いない。
まぁ、帰り道の途中に何が起きたりするのかなんて分からないので、俺が検証した範囲内では確実に超えないだけなのだが。
今日は少し遅いので自宅までの最後の横断歩道までの地点で、いつもより数分遅い。
校門を出る前に時間を確認していたら午後四時前だったので、10分経ちそうな時間歩いている。
暑いからさっさと部屋に篭もりたい。
外に出るや否や、暑さに負けた俺。
しかし、考え事が今日はとても捗るので、余計に暑さに苦しんでいるのだ。
暑い、暑すぎる。
いくら何でも暑い。
昼過ぎが1番暑かったのだが、それでもいまも十分に暑いと感じてしまう。
全く厄介極まりない気候だ。
夏はこれだから嫌だ、
夏の日常は夏休みだけでいい。
日常はいつも平然と過ぎていくから日常であって、イレギュラーな出来事が起きてしまったら、それはもう日常とは到底呼べるものではなくなるのだ。
そう、俺がこの後体験する出来事のようにね。
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これは、死んだな俺。
彼はそう感じた。
目の前に突然現れた乗用車に。
自宅が見えた刹那、視界の左に飛び込んできた黒い影は勢いを落とす事無く、彼の体を捕えることとなった。
「?!」
当然な事に驚いていた彼だったが、不思議にも冷静な思考が出来ていたのだ。
車種までは分からないにせよ、色々と気付いたのだ。
車体が黒に近い紫な点。
軽自動車ではなく、普通車な点。
運転席に座っている筈の運転手が項垂れている点。
(あぁ、熱中症か……。)
それに、ナンバーの数字が不吉に揃っていた点。
不自然なくらい真っ直ぐに彼に突っ込んでいった車は、止まることなくブロック塀へと衝突していった。
激しい衝突音。
金属がひしゃげる音。
人体が潰れる音。
車体前方が原型を留めないレベルで彼を巻き込んで壊れていた。
少し遅れて鳴り止まないクラクションが住宅街へと反響していく。
当たりが騒がしくなり始めてきた。
もう死にかけの彼は動かなくなった体を動かそうとはせず、こんな不慮の事故に巻き込まれたことでさえ受け入れてしまった。
日常なんていつ終わるか分からない。
病気で突然死ぬこともあれば、今回のように事故に巻き込まれることもあるらしい。
その程度の認識で自分の終わりを悟った彼だったが、最後の最後まで思考することは辞めず、意識が途絶えるまで考え込んでいた。
そして、
(ったく……ちゃんとニュース見とけよな。)
それが彼━━四ノ宮 恢斗の思考の最後だった。
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四ノ宮 恢斗……今作の主人公。転生者。凡人。創造主の選出により、異世界へと転生させられる。