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第一章9話 垣崎の忠義

  それは、一種の賭けであった。  垣崎景家に、景虎の正体が、桜姫である事を白状する。


  宇佐見殿は、彼ほどの忠臣なら大丈夫だとは言っていたが、私にはそう判断させる材料を持ってもければ、垣崎景家殿の気性を知らない。

  前君、景清様の最も信用された懐刀というくらいしか知らない。

  後は、世間一般の評……。  猪武者といっていいほどの男。  よくいえば実直。  悪くいえば頑固。


  私的には、どうしても後者、頑固というイメージを捨てれない。


「金次、あんた何神妙な顔してんの?」


  私の胸中などどこ吹く風と言わないばかりに桜姫は快活な顔で言ってくる。


「私はやはり反対です……。  いくら景清様の懐刀、垣崎殿といえど確実に信用できるに値する要素を見いだせません」


「垣崎って、そんなに融通きかない男なの?」


「はい」


「でも、いつかはばれるんだし、それが早いか遅いかの差だと思うけど……」


「姫、あなたは気楽ですね。  地盤が固まった時ならばともかくとして、今まだ姫、いえ景虎様は表舞台に立たれたばかり……。  必中の要素はこの金次、見いだせませんが」


「なるようになる……。  ならなきゃそれまで」


  私の杞憂をすっぱりと斬る発言。  あいかわらず豪胆な姫だ……。


「このバカ姫!  ならなきゃどんな結末に行き着くか考えてないでしょう?  よくて垣崎殿の自害。  悪くて永生の分裂です!」


「バカ姫?  あんた二人っきりだと容赦なく不敬を働くね。  私はこれでも永生の頭首ですよ?」


「上の愚行を我が身の安全を振り返らず制止するのは臣下の勤め。  これこそ忠臣の鑑というわけです」


「何綺麗な言葉でかたずけようとしているのよ、全く」


  なんとなく、こんなやり取りをしていて思うのは、例え姫が景虎様になっても姫は姫であるということが、私は嬉しかった。


「金次、あまり景虎様をおちょくるものではないぞ」


  背後から声をかけられ、ビクッとした。


「ち、父上……」


「中身は姫とはいえ、外は景虎様だ。  永生が頭首様だ……。  いうなれば、我らの御館様である……。  不敬は慎め」


  父上の言葉を聞いた桜姫は妙な顔をした。


「……慎めって、ちょっとだけならやってもいいって事じゃ」


「……そりゃ姫主観の考えです……」



  桜姫はムッとしかめっつらのまま、ふて腐れているが、父上はそんな桜姫に、


「景虎様、垣崎殿をお連れ致しました。  通して宜しいでしょうか?」


「わ……、待って待って」


  桜姫はコホンと咳ばらいをし、今まで弛みきっていた顔を引き締めた。


「……どうぞ」


「御意」


  父上は礼をし、垣崎殿を連れて来た。


「御館様、某に何の様で?」


「御呼び立てして申し訳ありません、垣崎殿」


  桜姫は、地声で言った。

  垣崎殿は怪訝な顔をして、桜姫を見る。


「景虎様ではないな?  何者だ……」


「垣崎殿、貴殿を信じて真相を打ち明けよう……」


  宇佐見殿が口を開いた。


「真相……とな?」


  宇佐見殿は頷き、そして口を開く。


「ご紹介しよう……。  景清様のご息女、桜姫だ」


「桜です……。  垣崎殿の武勇は亡き父や、虎千代より聞き及んでおります」


「待て……。  ご息女?  一時期噂になった景虎様の双子の……」


「はい、その桜です」


「……で?  つまり、景虎様を名乗っているのは……」


「垣崎殿のご想像通りかと……」


「実は景虎様も、亡くなられている……ということか?」


「……………」


「………そうか」


  垣崎殿は短刀を抜き、自害をしようとしていた。


「垣崎殿!  先も言うたな!  仇を取らずに自害するは最大の不忠であると!」


「ぐっ………」


  垣崎殿は、短刀を落とし膝をつく。


「尚江殿、宇佐見殿……。  貴殿らは何を思って姫を景虎様に仕立てようとしている?」


「全ては先代と景虎様の敵討ちのため……。  そして永生の乱れを最小限に食い止めるため……」


「確かにな……。  椎田殿や南条殿はこのことを知れば離反するであろう……」


  垣崎殿は桜姫をマジマジと見る。


「景虎様の双子か……。  だが、いつかばれるであろうな」


「垣崎殿が近くでマジマジ拝顔しているからそう思うんですよ。  景虎様を演じる桜姫を至近距離でマジマジと拝顔する機会が臣下にあろうはずもないですが……」


「現に某も恥ずかしながら見分けはつかなかったしな……。  不覚といえば不覚だが、あの場で気付いたら某の事だ、大騒ぎしていたであろう……」


「垣崎殿ならやりかねんだろうな」


  宇佐見殿は笑いながら言った。


「面目ない……」


  垣崎殿はそういいながら頭をかいた。


「さて、垣崎殿……」


「ん?」


「これより貴殿は真の永生の臣としての忠義が問われる。  言っている意味……わかるな?」


  父上は真剣な顔をして、垣崎殿を見据える。


「うむ……。  姫の存在を今まで隠していた事についてとやかく言う気もなければ、尚江殿や宇佐見殿が姫を景虎様として祭り上げたということも、某でも察することはできる……」


「貴殿ならわかってくれると思ったぞ」


「某は良くも悪くも永生の臣下……」


  垣崎殿はふっと笑い、桜姫の前で膝をついた。


「景虎様、一日も早い敵討ち、この垣崎も骨惜しみませぬ……。  この老骨、景虎様の手足となり、戦う事を誓います」


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