第一章 最終話
リーズ率いるウェンデス海軍第一艦隊はファラス港に食料などの物資を補給するため、停泊していた。
「お待たせしました、提督」
新白衆の忍、美空がコーヒーを啜っていたリーズの前に現れた。
「ああ、待っていたよ。 首尾の方はどうだい?」
「はい。 今回の件、やはり総督が一枚噛んでいました」
「やはりね。 それで総督の身辺は洗えた?」
美空は首を横に振る。
「新白衆の情報網でも引っかからないのか……。 何者なんだ、あの男」
新白衆はリーズお抱えの忍衆である。 諜報に特化した衆なのだが、その新白衆でも過去の経歴を掴めないときた。
ウェンデス海軍の全権を持つ男、ヘレクト=ムシュ。
いつの間にかどこからかやってきていきなり海軍のトップに立った男だ。
とりあえず言えるのは、適当な奴という所か……。
ヴィンセントの北進作戦の協力体制自体、ヘレクトが主導で行った作戦だ。
それを急に方向転換してポシューマスに参加しろだと言ってくる。
「ポシューマスの戦況は聞いているより悪いの?」
「一時期優勢でしたが、ポシューマス連合軍に赤鳥の英雄が付いてから劣勢を強いられているみたいです」
「赤鳥の英雄、ね。 どんな奴なんだろ?」
「クラブ=ラングリス。 ポシューマス王立アカデミーの学生です」
「は? 今、名前なんて言った?」
「クラブ=ラングリスです」
「クラブ!?」
「ご存知なのですか?」
「知ってるも何もクラブは弟だよ」
「ラングリスの姓。 提督のご実家、エンセンツ家と繋がりがあるんですか?」
「いや、ラングリスは恐らく偽名だろう。 クラブは確かナストリーニのウェルダン家に養子に出されたからな」
リーズは懐かしむような顔をして、言った。
「そっか、クラブがポシューマス連合軍にいるのか……」
「その、提督……」
「ん?」
「確かユハリーンのリバル商会にも妹君がいらっしゃると……」
「ああ、ミエルの事か」
懐かしい名前だ。
リーズに懐いていた妹で、ユハリーンのリバル商会とかいうの商人の息子の嫁に行ってしまった妹だ。
「その、ミエル様なのですが、ミエル様も今、ミエル様の旦那と一緒にポシューマス連合軍にいるんです」
ガシャン、と。
リーズが持っていたコーヒーのカップがリーズの手から離れて地面に落ち、割れた。
「ちょ……、な、なんで?」
「調べによるとお二方はポシューマスに新婚旅行に来てたとの事ですが、現ユハリーン王国が前のユハリーン王朝を倒した為……」
「……なる程、リバル商会は元々ユハリーン王朝御用達商人だしな。 今のユハリーンに帰れる訳がないか」
リーズ個人毎ではあるが次々と衝撃的な事実が判明していく。
ポシューマス連合軍の事を調べれば調べる程、リーズにとってやりにくい事案ばかり浮上してくる。
リーズはため息をつくしかなかった。
「なんという運命のイタズラか……」
リーズは先ほど割ってしまったコーヒーカップを拾い集めながら、美空に聞いた。
「多恵たちはいつ頃ファラスにつく?」
「もうまもなく着くとの事ですが」
「多恵らを乗せたらすぐにポシューマスに向けて進行する。 索敵怠るなよ」
「了解」
これにて第一章完結です。
続きは第二章で