表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/63

第一章第62話

「………………」


「………………」


 私は銀太の姿をしたものと対峙していた。 銀太の姿をした者は何故か敵意のようなものを感じられない。 そして先ほどまで立つことどころか、動く事もままならなかった私がなぜ立っているのか、それすらも分からない。


「気分はどうだ、尚江金次?」


「…………理解出来ない事が多すぎて混乱している頭を除けばすこぶる順調ですが?」


「ふむ……」


「質問していいので?」


「我に答えられるならな」


「なら、何故私を殺さない?」


「逆に聞こう。 何故我が汝を殺さなければならない?」


「は? お前は破壊の象徴、魔王だからだろ?」


「我には汝を滅する理由が無い。 逆にいうなれば汝らには好感をもっているのでな」


「はい?」


 何を言っているのか分からない。 こいつは何を言っているんだ?


「我は保科銀太として、常に見ていた。 保科銀太が見聞し記憶している事を我は共有している。 保科銀太が好感を持っていた者に対しては我も同様に好感を持っている、ということだ」


「意識の共有? しかし銀太はお前が出ている時の記憶を持っていない筈だ。 それはどういう事だ?」


「それは、そうだな。 説明するのが難しい……。 如何に説明すれば汝が理解出来るかうまい言葉が浮かばぬ。 あえて言うならば我が上格だからだ」


「上格?」


「我の魂と保科銀太の魂は融合している。 しかし我の魂の質量は保科銀太の魂の質量とでは我が遥かに凌駕している。 我が表だっているときに保科銀太に意識が無いのはそのためだ」


「じゃあ、なんで私を攻撃した?」


 そう……。 矛盾している点はそこだ。 私から仕掛け返り討ちになったとはいえ、明確に排する意志で私に攻撃してきた。 これはなんだというのだ。


「汝の持ってたあの槍。 あれはさすがに洒落にならぬであろう。 防衛本能というやつだ。 我の存在理由はβ336……、汝らが信長と呼ぶものを滅する事。 それを阻む可能性がある場合、我の意志に関係することなく迎撃するようになっている」


「心を穿つ槍…………」


「あれの使い手は既に滅んでいるはずだがな。 汝が使えるのはβ336や我も想定外だった。 あれは我らにとって天敵に値する技なのでな」


「滅んでいる……。 ソウマの爺さん、死んだのか」


 ソウマ=ベルセウル。

 六年前、大陸から倭国黄金伝説を信じて海を渡ってきた老槍使い。

 大陸では倭国には大量の金があるという伝説があるらしく、それを求めて倭国を目指した者がいるらしい。

 ソウマ=ベルセウルもその一人だった。

 ユハリーンとかいう国が何度かその伝説を信じて倭国に軍隊を送ってきた事はあるが、幾度となくその地方を治めている大名に撃破されたりしているのだが、その辺の経緯を語ると長くなるので今回は割愛する。

 つまり、軍隊のように徒党を組んでやってきた場合は容赦なく撃退されるが商船のように自分らの利にもなる場合は大名にもよるが受け入れる。

 永生の先代もそんな大名だった。

 大陸の商人としてやってきたソウマ老は、半年くらい永生家に庇護されていた。 その辺りも長くなるし本筋から離れるので割愛させていただく。


「あれは、どんな障壁をも貫く。 防衛本能が起動するのは当然だ」


「では今、まさに私が心を穿つ槍を改めて出すとは思わないのか?」


「出せないはずであるが?」


 しっかりと見抜いている。

 心を穿つ槍を具現化するためには膨大な精神力を要する。

 何故かある程度は回復している精神力では、足りていないのだ。


「何故、私は立っている?」


 そう、さっきまで半死半生に近かった私は、自力で立って会話出来るまで回復している。 これは一体どういうことなのか、この男は知っているはずだ。


「理解していると思うがな……」


 銀太の存在はニヤリと笑って言った。


「我が空であった汝の精神力を注入したことによって、汝は今立って話している。 そういう事だ」


「なぜそうしてまで私を回復する必要があった?」


「汝の助力が必要だからだ」


「助力? 何のだ?」


 銀太は横たわっている遥姫をちらっと見る。


「彼女をこれから蘇生させるのだが、蘇生させた後、我はこの場に留まる事が出来ぬゆえ、彼女に伝えるべき事を伝えられぬ。 だから伝言役として汝を回復させた」


「そ、蘇生?」


 意識が混沌としている時に何があった?

 遥姫は何故横たわっている?

 蘇生って事は……。


「魂縛の術を発動しようとしていたのを我が強制中断させた。 あんな不完全な術では我はおろか我の半分程度のβ336にすらまともな効果は得られない」


「!」


「しかしその強制中断が良くなかった。 β336はその隙に我の存在理由を悟り、自らを一時的に封じたのだ」


「意味がわからんのだが……」


「我の存在理由はβ336を排する事。 β336の存在を検知出来ない今の状態では、存在理由がなくなる。 そうなると我は役目が終わったという事となり、我の存在は抹消する」


「……え?」


「我はそういう風に創られた存在。 それにあがなう術は持ち合わせておらぬ……。 我が抹消されればβ336に対抗できるのは彼女だけとなる。 汝の心を穿つ槍も対抗手段としてはありなのだが、同時に欠点もある。 とてもではないが、それに賭けるほどの冒険はできん」


 心を穿つ槍の欠点。

 それは対個に特化しているということだろう。

 確かに対個の場合は無双だが、それが対軍ともなると不利になる。

 一人貫いて終了。 それが心を穿つ槍の弱点なのだ。


「β336は我が消えると自らの戒めを解き、現界するだろう。 そうなると、上位の存在はβ336を滅ぼすのに手段を選ばなくなる公算が高い」


「ちょっと待ってくれ」


「なんだ?」


「上位の存在ってなんだ?」


「我とβ336を創りし者らだ」


「は?」


「β336は上位の存在が創りし失敗作。 我はβ336を駆逐するために創られた存在なのだ」


「ちょ、ちょっと待て。 それってどういう……」


「汝には理解出来ぬであろう。 理解するための知識を有しているわけがないからな」


「……………」


 確かに何を言っているのか分からないが、信長と目の前の銀太は誰かが創った存在ということはすわなち、その、考えたくないが、こいつらより上がいるということ。


「上位の者が手段を選ばなくなる、とは具体的にどうなる?」


「すべて無にかえすだろうな」


「無?」


「何もかもが滅びる。 それをする事が出来、それを行う事を躊躇しない連中だ」


「…………………」


 話が壮大すぎて理解がついて行かないが、かなりヤバい話をされているのは分かる。


「お前が消えるのはわかった。 そうなると銀太はどうなる?」


「保科銀太は元々死に体。 我が滅ぶと共に保科銀太も滅ぶ」


「は? 銀太が死に体?」


「十年前、保科銀太は亜空間に取り残され、滅びていた。 それを上位の者が見つけ我を保科銀太に宿すことで形を取り戻したのだ。 だから我が消えれば我の恩恵を受けること叶わなくなり、再び滅ぶ定めなのだ」


「滅び!? じゃあ今までの銀太は不死者のようなものなのか!?」


「不死者……。 いや、あんなのとはまた違う。 現に保科銀太は閻魔丸を飲み、黄泉に行っている事を忘れてはいないか?」


「あ……」


「閻魔丸を不死者が飲んだ時、どうなるかは閻魔丸を管理している汝の方が詳しいのではないか?」


 不死者が閻魔丸を飲んだところで黄泉に行くことはない。

 不死者とはこの世に留まっている死者であるため黄泉に御霊を送る閻魔丸は意味を成さず、飲んでも何も起きないのが正解だ。


「…………………と、なると銀太はなんなんだ?」


「肉体は死んでいるが魂が生きている、そんな状態だ。 肉体の精製に我の力でなっている。 即ち、我の消滅と共に保科銀太は我と共に消滅するのだ」


 銀太は遥姫を慈しむ目で見てから


「しかし、それでは彼女が気の毒だな」


「気の毒?」


 銀太にはそぐわない単語だった。


「汝や保科銀太は端から見て朴念仁すぎてなかなかイライラさせていただいたものだ」


「へ?」


「結局、汝ら二人は取り返しのきかない時点でようやく悟っているが、女のほうからみると外道畜生に勝る下劣」


「な、な、な」


「だからこそ、汝と保科銀太のためではなく、彼女と汝の主君がせめて報われるようにしたいと思うのが傍観者にすぎなかった我の善意だ」

 微笑し、銀太は続ける。


「出来ることは少なく解決にもならん悪手であるがな。 山県遥と、上杉桜には幸せになる権利があり、そのための岐路を用意することが可能。 その岐路を如何にいかすことができるかは汝ら次第」


 山県遥と上杉桜には幸せになる権利があり、その為の岐路を用意……だと?

 それはつまり?


「尚江金次よ、山県遥の中に三人分の魂が入ることとなる」


「え? 三人?」


「山県遥と保科銀太、そして上杉桜の三人分だ」


「……………え?」


 上杉桜?

 桜姫……?


「上杉桜の魂は我が回収している」


 腰が砕けるとはこんな感覚か。

 足が踏ん張りきれず、ガクンと膝を折る。

 心のどこかで諦めていた。

 だけど………。


「あれ? ちょっ………」


 目から涙が止まらない。

 嬉しくて、嬉しくて……。



 そうして、遥姫の中に三人の魂が入り蘇生した。

 最初に意識を持ったのは桜姫だった。


「………え?」


 私はひざまずき、涙を流しながら言った。


「お帰りなさいませ、姫……」

携帯で執筆してるとろくでもない事故がおきますね。

主に「さ」行の文字をうつ時に事故多発。

「さ」行をうつつもりでパワーボタンを連打連打、画面が待ち受け画面に戻るとかいう……。

なんでそんな事を書くかと申しますと、今話執筆中、その事故が三回も発生。

話間で割愛だの、すごくこじつけだのしてる所はまさにその事故発生現場だったりします。

さすがに挫けちゃうとただでさえ遅い更新がさらに遅くなってしまうのでこんな醜態を晒しています。

割愛部分はいずれ、外伝でかきますので今話ではご容赦を。

さて、第一章模倣編も後一話で完結します。1月中にはアップしますので少々お待ち下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ