第一章第60話 毘沙門天の侍6
心を穿つ槍。
この槍を銀太の心臓を貫く事が出来れば、全てが終わる。
最初から信長にやってればこうまで悲惨な事にはならなかったかもしれない。
いや、無理か。
出来るんなら当の昔にやっている。
信長は組織を形成していたから信長に近づけなかったんだった。
こんな中途半端は能力じゃ、信長の前に辿り着く前に討ち果てていただろう。
まあ、逆に徒党を組んでいない銀太にだからこそ使える手段。
一撃必殺なんぞ、生涯で一回でも使えば、次からは一撃必殺と名乗れなくなる。
知られるということでそれに対する予防策を張られるからだ。
「まだだ……」
まだ、心を穿つ槍を放つには距離が遠すぎる。 それまで銀太の放つ魔弾を避け続ける事ができるか、もはや賭け。
正宗の竜を模倣したとはいえ、正宗の竜の機動力とかなりの差がついている。
また、正宗な竜を使役する能力であって操る能力ではない。
回避行動しているのは竜であって、金次が操作しているわけではない。 だから、魔弾に当たる当たらないは竜次第。
心を穿つ槍が届く位置まで行くことができるかどうかは、竜が上手に避けてくれることを祈るしかないのだ。
「………もう少し、もう少しなんだ」
近づけば近づくだけ、魔弾が降り注ぐ量が段違いになってくる。
後少し、後少し……。
回避しながら昇るため、昇る速度は苛立つほど遅い。
「頑張ってくれ……」
しかし限界は訪れる。
銀太の放つ魔弾が竜に一発被弾した。
それを皮きりに次々と魔弾が竜の身体を貫いていく。
「く……」
竜はやがて力尽き、そのまま墜落を始めた。
「限界か!」
距離は全然足りないがやむを得ない。
金次は心を穿つ槍を銀太の胸をめがけて投げつける。
金次の手を放れた心を穿つ槍は、飛行機雲のような線を描きながらまっすぐ銀太に向かって進んでいく。
金次の知る対個最強の能力、心を穿つ槍。
威力をオリジナルに近づけるため、オリジナルの特異性である追尾能力を一切模倣せず、威力だけを模倣した金次の対人最強技。
能力が使えるようになって初めて使う技。
初めて使う技とはいえ、その一撃は信頼に値する威力。
いや、初めて使うからこそ、最も信頼するに値する一撃になり得るのだ。
心を穿つ槍は、銀太の胸に接触した。
殺った。
そう確信した直後、金次は諦めの胸中に達した。
槍は銀太の胸部をすり抜け、そのまま四散したのだった。
槍が接触したのは銀太の残像。
オリジナルの槍ならば、そのまま四散せずに本体を追尾するところだが、生憎と追尾を犠牲にした模倣。
「所詮は模倣ですか」
下は海とはいえ、そのまま墜落すれば墜落死も免れぬ高度。
再度竜を招聘する気力は足りないため、金次に出来るのは死を受け入れることだった。
「桜姫、お側に参る私を許してください」
刹那の間。
金次の腰に柔らかく暖かいものが触れる感触がした。
「え……?」
気付くと、舟の上にいた。
「遥……、なんて無茶を……」
この声は、福島瑠璃だったか。
「桜ちゃんのためにも、死なせるわけにはいかないもん」
弱々しい声で答えた。
生きているのは、遥姫の仕業か……。
「瑠璃ちゃん、魂縛の術を使うから手伝って?」
「魂縛を? 私が結界になればいいのかな?」
「瑠璃ちゃん、ごめんね。 ありがとう」
意識の遠くで聞こえてくるやりとり。
二人の神子の覚悟はまさに決死。
止めないといけないのに、意識が戻ってくれないもどかしさ。
早く目覚めるんだ、尚江金次。
今、目を覚まさなければ、後悔することになる。
意識はあるのに動かない身体が恨めしい。
あれだけ多数の力を模倣した代償は、金次の身体を蝕み、指一本とて動かすことはできなかった。
こうなることはわかっていた。 わかっていたのに……。
悔しくてはらわたが煮えくり返りそうなのに涙すら流す力も残っていない。
「結界生成……」
「黄、令、紗、昏、覽、設……」
太古の呪を唱える2つの声……。
止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ、止めろ!
心で叫び続ける。
声が出せない以上、それが唯一の抵抗。
頼むから止めてくれ………。
一瞬、強烈に冷たい風を感じる。
その風を知覚した瞬間、呪が止まった……。
ちょ……。
すごい凡ミスで58話が2つあるとかいう阿呆なことしていましたので、とっとと修正しました。いやはや、13時間ばっかり恥を晒しておりましたね。
気づいてよかった…。
今回更新きまぐれで早くてよかった。