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第一章第58話 閑話休題

 閑話休題……。

 多恵たちがゆったりファラスに向かっている頃、リーズはウェンデス艦隊を引き連れ、ヴィンセント帝国領の軍港に停泊していた。


「提督、王宮から命令書が届きました」


「…………」


 リーズは、入ってきた若い士官の声が聞こえていないのか、書類をじっと読んでいた。


「あの、提督?」


「……………」


 書類から目を離せない。

 いつも沈着冷静なリーズが、茫然としているようで、全く反応がない。

 若い士官も、王宮からの勅令を手にしているので勅令が書いてある紙をその場に置いて立ち去る事も出来ず、ただ、リーズが気付くのを待っていた。


「……………ぁ、セイブ中尉か。 どうしたんだ?」


 やっと存在に気付いてもらえたセイブは、勅令が書いてある紙をリーズに手渡した。


「王宮からか?」


「はい」


 リーズは封を切る。 中に入っている紙を取り出し、書いている内容をさらっと流し読みした。


「………………………人使いの荒いことだな」


 勅令の内容は、直ちに西進しポシューマス連合軍を攻撃している友軍を援護しろとの事である。

 ポシューマス連合軍とは、旧ファラス王国 (現ウェンデス領)の西部に位置するポシューマス、リグウェイ、ライデングの三王国に加え、熱砂の民と呼ばれる遊牧民、土鬼と呼ばれる流浪の民族が結束し、反ウェンデスを掲げ共闘している。

 ウェンデス陸空軍が戦っているが戦況が芳しくないと聞いている。

 海軍が参戦していなかったのは、その地域は海に面していないからだ。

 河こそあるが、水深は浅く、ウェンデスの戦艦はその河を航行するのは適していない。


「ふむ……。 では、ここはどうするかな」


 リーズが艦隊を率いてヴィンセント帝国にいるのは、まもなく始まるヴィンセント帝国の北進作戦の加勢で来ている。

 命令書では、艦隊の半分を西に赴かせるよう記載されているが、半分も移動させたらヴィンセントの北進作戦に必要な艦が不足する。

 北進作戦の標的は北方の雄、ユハリーン王国だ。

 元海賊の王を慕い、世界中の海から有名な海賊や海の猛者が集っている。

 その為、造船技術ではウェンデスが勝るものの、操船、海洋戦術、水兵の鍛錬度、総艦数は桁違いな程差をつけられている。

 現戦力でも厳しい戦いになるのは目に見えているのだ。


「失礼します! ヴィンセント軍司令のラスメス将軍が面会を求めております!」


 別の士官が大慌てでやってきて、そう告げた。

 リーズはため息をついて


「ご立腹、だよね?」


「は、はぁ……。 完全にご立腹です」


 要件も分かっており、自分でも納得していない事を弁解するのは骨が折れるな、と呟いた。


「丁重に案内してくれ」


「は!」


 勅令では大至急行動を起こせと書いてある。

 すぐさま出立しなければ召集期限日まで間に合わない。


「トップスリーとホワイトドッグ、グリフォン、ケルベロスの四艦で西進する。 残りの艦は従来通りヴィンセントの北進作戦に帯同する」


「5分の1しか行かないんですか?」


「半分も割く余裕がない。 四艦のうち旗艦をトップスリーとし、これを第一艦隊。 残りの艦はベルセルクを旗艦として第二艦隊とする。 第二艦隊の提督はベルセルク艦長クルス大佐に任命する」


 本来、こういった場合副提督のリファイルが提督を勤めるべきであるが、生憎とリーズの所用で今はいない。


「クルス大佐に一時間後に来るように伝えて」


「提督自ら西進するんですか?」


「そりゃ、勅令の半分を背くんだからボク自身が弁明しなきゃならんでしょ」


 そう言い残してリーズは席を立ち、立腹しているラスメス将軍が待つ応接間に向かった。



「貴国の外交官では全く話にならんので、参上した!」


 開口一番、そんな事をほざき、机を思いっきり叩いた。

 既にうちの在ヴィンセントの外交官がヴィンセント帝国に連絡しているらしい。

 リーズは一度会った事がある。

 なんというか無機質な男だ。 それでいて冷淡。 機械的といえばいいのか。

 こんな事言ってはなんだが、友邦国への窓口としてどうかと思う人選だ。


「それは大変失礼致しました」


 リーズはまず頭を下げた。


「確かに貴国の戦略を破綻させるような振る舞い、ただただ頭を垂れるしかありません」


「貴官に頭を垂れられても仕方なかろう!」


「さすがに半分も帰還させるのは話になりませんので、私の権限で5分の1のみ帰還しようと思います。 それでも大きな穴となりますが、計画を多少の修正でことが足りるよう尽力致します」


「何?」


「北進作戦がどれだけ重要な作戦か、私は理解しております。 かといって半軍の帰還命令がでておいてそれを無視するわけにはいきません。 ですので最低限のみの艦だけ帰還させ、残りは北進作戦に従事させて頂きます」


「………………貴官は、それでいいのか?」


「はい。 その代わり私はこの事を本国に説明のため帰国する必要があり、北進作戦には参加出来そうにありませんが」


「む………、ぬぬぬ……」


「そのへんは平にご容赦を」



 やれやれ、やっと帰ってくれたか……。

 ボクは外交官ではなく海軍提督なんだがな。

 先ほどの訪問者を思い返し、深くため息をついた。

 先ほどの軍司令殿は将軍。 リーズは提督であり、階級は同格に位置する。

 対等な同盟関係である以上、役職の格は同格なのではあるが、ヴィンセントの軍部はウェンデスを見下している節がある。

 従属しているとでも勘違いしているのか、リーズと面識のあるヴィンセントの軍人はみなああいう感じだ。

 珈琲を一口口につけてめったに吸わない煙草に火をつける。


「提督、召集に応じ参上しました」


 クルス大佐がやってきた。


「やあ、クルス。 すまんが君に頼みがある」


「第二艦隊提督の件ですか?」


「うん、リファイルは今いないから他に適任が君しかいなくてね。 そこで緊急措置を使わせて貰おうとなった」


「お言葉を返すようですが、私は自信がありません……」


「そんなもの、ボクもないさ」


「はあ?」


「元々ボクはファラスの水軍中夫からウェンデスの客将だった。 そしてその次はいきなり海軍全権を持つ提督になった。 自信なんか皆無だった、ボクもなりふり構っていられなかった」


「……………………わ、私は、提督ほど出来る人間じゃありません」


「出来る出来ないじゃなくやるんだよ。 ボクとて、無茶をいっているのはわかっている。 本来なら、ゆっくりと艦隊の動かし方とか教えたかったけど、それを許してくれる時間が全くなかったんだ……。 それにな、クルス。 ボクは君の事を信じているんだ」


「え?」


「リファイルともよく話していたよ。 複数艦隊になったとき、三番艦隊を任せる事が出来るのはクルスだろって」


「そんな!?」


 リーズはクルスの肩に手を置き、深く頷いた。


「お前しかいないんだ。 頼む」


「…………」


 クルスは考え込む。

 自信は全く無い。

 しかし、ここまで言われて断る事は出来ない。


「……条件があります」


「条件?」


「北進作戦……、リーズ提督が考案していた戦略を教えて下さい」


「…………わかった。 ただ、あまり頼るなよ。 判断を下すのは現場を見てからだ。 戦況次第で悪手になる作戦だからな。 クルスが戦況を見て下策ととらえたら直ちにクルスの作戦で戦え」


 リーズは机に置いていた分厚いファイルをクルスに渡した。


「ユハリーンの地図、海図、そしてユハリーン艦隊1から15艦隊の構成。 そして各提督たちの性格と思考ルーチンを纏めた資料だ。 まずは作戦開始前までにこれを暗記しろ」


 リーズは引き出しからまた別のファイルを取り出し、それもクルスに渡した。


「これは、一応ボクが構成した作戦表だ。 これは使わないなら使わないでいい」


 リーズはポケットから古びた羅針盤を取り出し、それも手渡す。


「これは?」


「ボクがファラス時代から使っていた羅針盤。 お守りと思ってくれればいい」


「あ、ありがとうございます」


「すまないな、初の提督業務がぶっつけ本番で最も高難易度とは」


「いえ、逆にいえばこれをこなすことができれば、これから先、様々な困難にも楽に打ち勝つ事ができる。 そんな気がします」


 クルスが羅針盤を握りしめ、震えながらそう言った。


「頼んだぞ」



 こうして、ウェンデス海軍は二分割された。

 まだ二人は想像すらしていなかった。

 まもなく始まる世界大戦規模の戦乱の渦中に飲み込まれていく事になるとは……。

いきなりリーズ視点です。 なんでいきなりやねん、と言われるのを覚悟で、しかもこんな中途半端な場所に。

主人公のリーズが全くでないのはちょっとな、というのと、後の展開のための伏線張りという暴挙です。

それでは次の話は倭国に戻ります

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