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第一章第57話 毘沙門天の侍4

 気がつくと海にいた。

 金次さんが悲壮な顔つきをして小舟を漕いでいた。


「なんで私こんな所にいるの?」


 私の問いかけに意識を取り戻したことに気づいた金次さんはいつもの作った笑顔で答えた。


「もうすぐ行くと越後屋の外来船がいます。 それに乗り継いで大陸に行くのですよ」


 越後屋とは上杉の御用達商人。

 桜ちゃんに聞いた話だとお茶だの刀だの御禁制と呼ばれる品を大陸に運び交易し、財をなした商人だと聞いている。

 桜ちゃんは先代、先々代も越後屋が御用達商人だったから迂闊に御用達商人をかえると無駄な混乱を招くということで嫌ってはいたけど、放置せざるえないという事で放置していたんだっけ。


「って、桜ちゃん!?」


 なんで私はこんな大事な事忘れていたんだろう。

 いくら寝起きとはいえ失態だ。


「落ち着いてください、遥姫」


 金次さんはパニックになっている私を宥める。


「まだ望みはあるんです。 大陸に行けば」


「大陸?」


「ええ。 桜姫は秘術を使いました。 普通に死んだのならどうしようもないのですが、人身を使用した術ならば、まだどうにかできる術が大陸にあるはずなんです」


「どんな方法?」


「残念ながらそこまでは私も分かりかねます。 しかし、方法がある以上、試さない手はありません。 もしかしたら銀太も、銀太もなんとかする方法があるやもしれません」


「銀ちゃんは、死んでないよ……」


「え?」


 優しい銀ちゃんの意識はもう無いけど、まだ銀ちゃんは生きている。

 魔王となって、倭国を暴れている。

 銀ちゃんの中に危険なのがいることはわかっていたけど、こんなことになるなんて……。


「私、銀ちゃんを放っておけない」


「お待ち下さい!」


 行こうとする私を金次さんは制止する。


「遥姫の話でだいたい状況が読めました。 しかし、そうなった銀太をどうにかする術はお持ちですか?」


「え?」


「神子の秘術を使うつもりですか? 桜姫が命を賭して使ったのに魔王を封じる事ができなかったあのインチキ秘術を!」


「……………」


「いくら桜姫が未熟だったとはいえ、ほとんど効果は得られてない。 そんなインチキ秘術をまだ頼るんですか!?」


 金次さんの言葉は私の胸を強く抉った。

 最後の切り札だった神子の秘技は、桜ちゃんが通用しない事をさっき証明してしまった。

 私が改めて行使しても、結果は残念ながら一緒。

 完全に私は無力な小娘に成り下がってしまった。

 私の半生はなんだったのか……。

 魔王を封じる為の神子の修行は時間の無駄だったというわけか?


「否」


「え?」


 いきなりこんな洋上で声をかけてきた人がいた。

 初老の男の人と、二人の少女だった。


「き、貴様は!?」


 金次さんは初老の男を一目見て顔色が変わる。

 そして刀を抜こうとした所で、初老の男の側にいた少女に刀の鍔を抑えられていた。

 私はその少女をどこかで見たことがあった……。


「………………あ! まさか、瑠璃ちゃん?」


 金次さんの刀の鍔を抑えながら瑠璃ちゃんはにこりと笑い、


「久しぶりだね、遥」


 と、返答した。

 この娘は、私や桜ちゃんと同じで神子になるべく一緒に修行していた娘だ。

 神子の秘術を教えてもらう前にいなくなったんだったっけ。


「瑠璃と神子様は顔見知りだったんか?」


「はい、言ってませんでしたっけ?」


瑠璃ちゃんは初老の男に返答する。


「瑠璃ちゃん、この方は?」


 何気なく気になったので聞いてみた。


「ああ、私の主、羽柴秀吉です」


「は、はしば、ひでよし!?」


 そ、それって確か、桜ちゃんのお父さんとお母さん、景虎くんの仇の人!?


「如何にも、ワシが羽柴秀吉である」


 だから、金次さんは刀を抜こうとしていたのか……。


「羽柴秀吉、そしてその配下、福島瑠璃と蜂須賀百合……。 ここにノコノコ出てきた以上、覚悟は出来ていますよね?」


 金次さんは冷たい口調で告げた。


「このうつけ者! 上杉の智将たる者が状況判断できんでどうするか!」


「なんだと!?」


「ワシがわざわざここに来た理由、頭ひねればわかるであろうが!」


「どういう意味だ!?」


「主は尚江のものであろう。 ワシの配下が閻魔丸を使っている以上、ワシとお主は共通の知識を有していると言うことを少し考えればわかるはずだ!」


「!?」


 閻魔丸……。

 確か、銀ちゃんが先見の眼を手に入れた金次さんがどっかから持ってきた怪しくて危険な薬。

 金次さんは刀から手を放し、秀吉さんに向かって言った。


「とどのまり、どういうつもりでここまできたわけですか、筑前さん」


「先ほどお主は神子様に向かって誤った発言をしていた」


「誤った?」


「うむ。 神子の秘術が無駄、とな」


「……現に魔王を封じる事叶わなかった秘術が、無駄ではないと、そうおっしゃいますか?」


「うむ、上杉の党首が行った秘術は、ワシの目から見ても不完全なものであった」


「貴様! 桜姫を愚弄する気か!」


「落ち着け!」


「我が君主が命を賭して行った行為を愚弄した以上、落ち着いてられますか!?」


「ワシは術を行使する瞬間までその場にいたものぞ! 遠地にいた貴様が、何を悟ったような顔をしている」


「なに?」


「そもそも、ワシの調べでは上杉党首の桜姫も神子の修練を中途で終わっている。 すなわち、完全な術を行使する事が出来ないはずなのだが……、違うか?」


 私の記憶でも、秀吉さんの言っていることが正しい。

 桜ちゃんも途中で神子の資格を喪失している。

 そのため、術を行使するために必要な事をいくつか習っていない……。

 と、言うことは……。


「術は完全なはずがない、ということ……」


「……………………そんな、そんなわけないでしょう! そしたら桜姫は、ただの無駄死にじゃないですか!?」


「如何にも、残酷な言い方をするならば無駄死にだな」


「きっさまああああああああ!!」


「だが、魔王信長の力はほとんど封じた」


 秀吉はいった。


「……………」


「正直、あれならワシでもなんとかできたのだが、思わぬ誤算が現れた」


 銀ちゃんのことだろう。

 まさか銀ちゃんの中にあんなのがいるなんて思いもしなかった。

 でも、思い返せば納得できる点もある。

 銀ちゃんは紛れもなく私と同じタイミングでこの世界に喚ばれようとした。

 でも、私を喚ぶのが精一杯で、銀ちゃんは異空間に投げ捨てられた。

 それから10年後、銀ちゃんは異空間を漂っていたところを改めて喚ばれたんだ。

 銀ちゃんはつまり記憶のない10年がある。

 この間にあんなのが銀ちゃんの中に入ったんだ。

 止めなくちゃ……。

 でも、どうやって?


「神子の秘技、すなわち対魔封神」


 秀吉は神子の秘技の名前を呟いた。

 対魔封神……。

 魔の存在を封じ込める極意。

 己の身体をよりしろとし、一切の魔を封じる。


「魔を封じる時、四神の恵みを得て、対象を磔にする業だったと記憶する。 上杉の当主は四神の許可を得ていない業だった。 これ、すなわち如何なることか、かの尚江ほどの智将ならば自ずとその意味解ろうて」


 金次さんは目を瞑り、秀吉の言うことを否定しない。

 完全に魔を封じるなら、きちんとそれに乗っ取った順序がある。

 仮にも秘技。

 順序も必要だけど、適した刻と、適した場所が必要となる。

 それを一つでも省略するとただの自爆攻撃にしかならない。


「神子殿」


 秀吉はいきなり話を私にふってきた。


「は、はい?」


「倭国を暴れ回っておるあの巨魔を神子殿のお力で封じたまえ」


 秀吉は頭を垂れて、私にそう言った。


「ふざけるな! 貴様を信用しろというのか!?」


 金次さんは秀吉にどなりつける。


「お前は倭国を滅ぼそうとした魔王軍の一味であろう! それをどの口がそんな事をほざいているのか!?」


 金次さんの言い分は最もだった。

 倭国を混乱させるため、正宗と桜ちゃんの家族を殺し、銀ちゃんを殺そうとした男。

 そんなやつ言うことなんか聞きたくない。


「遥、殿のことを誤解している」


 今まで黙っていた瑠璃が口を開いた。


「殿は確かに魔王軍にいた。 それは事実。 だけど魔王信長に共感して魔王軍にいたわけではない」


「どういうこと?」


「埋伏の毒って聞いた事ない?」


「埋伏の毒だと?」


 金次さんはその言葉に聞き覚えがあるみたいだ。


「大陸から伝わる策略の一つだよ。 例えていうなら、甘いお菓子の中に猛毒を入れるようなものさ。 即ち、御身は内部からじわじわと潰すつもりで魔王軍にいたと仰るか?」


「元はそうだった」


「元は?」


「だが、計画は破綻した……。 あの信長はとてもではないがワシの手には追えない化け物だったというわけだ」


 秀吉は自虐的に笑った。


「あのような怪物、ワシ程度の力量では御しきれん。 で、結局は神子の秘技に頼るだけとなったわけよ」


 秀吉は頭を上げ、悔しさを滲ませた顔で私を見た。


「ワシとて神子の秘技がどのようなものか、知っている。 御身が散るということも……。 だがワシには最早それに縋るしか手はないのじゃ!」


「勝手な事を抜かすな! 今、暴れまわっているのは、銀太なんだぞ! それを封じる為に遥姫の命をよこせとは無礼にも程がある!」


「……」


「羽柴秀吉、お前には恥というものはないのか!?」


「金次さん、待って」


「遥姫?」


「私、やる」


「な!?」


 金次さんは目を大きく見開き、口をパクパクさせていた。


「分かっているんですか? あなたが今言っている事を……。 銀太をあなたの手で討つ気だと、そうおっしゃるんですか?」


「……うん」


「………………」


 それっきり金次さんは黙ってしまった。


「瑠璃ちゃん、協力してくれる?」


「いいけど……、本当にいいの?」


「うん」


 銀ちゃんを放ってはおけない。

 それに、もう一つ……。

 もう一つだけ、神子の秘技がある。

 それを使えば銀ちゃんは元に戻るはずなんだ。

 だから、その手に賭ける。

長らくお待たせしました……。

と、いっても見ている人いるのかどうか不明ですが……。

今月中、後一話分は投稿できればいいな、と思っています。

第一章もいよいよ終盤。

今年中に終わらせたかったんですが執筆時間が通勤帰宅の電車の中しかとれない……。

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