第一章第48話 不知火城の戦い2
不知火城から外を臨むと、敵兵の遺体が無数に倒れている。
爆矢によるものだ。
死骸をみる限り、一つの共通点が浮かび上がる。
死体は爆風による形跡はあるが爆発から発する火による裂傷がないのだ。
「これか、あのビジョンは……」
銀太は先の戦いで結局使わなかった新兵器を見る。
菜種の油を霧状に噴射して内部に仕込んだ着火装置で火を吹く火を吹く火炎放射器。
一見、妙な形をした槍。
しかし、槍から火が噴き、驚いている時に爆矢を使用し敵が態勢を整える前に白兵戦に持ち込む構想でいた。
「火の対策した鎧か。 やってくれる」
アドバンテージを失いはしたが、得れた情報はある。
諜報能力が非常に高いという事。
そして、今回の敵は他の魔王軍の将とは違い、諜報で得た情報を冷静に分析して、それに対応した装備を用意出来ること。
「…………………」
さて、どう手をうつか。
こういう状況の打開策は何がある?
正直、俺の知識では試せる事が少なすぎる。
しかし無策に篭城も無い。
新兵器を封じられた以上、出来ることは幾ばくと。
まあ、何気にある。
しかしそれ全てを封じ込められそうだ。
「軍師か……」
敵には有能な軍師がついている。
かたやこちらは猪武者軍団。
「さてどうするかな」
「保科殿!」
考えていた所に城将の吉江氏が声をかけてきた。
「この度の救援誠にかたじけない。 春日山は我々を見捨てる事がないこと、ただただ感激で……」
「ここが落ちたら越州は囲まれますからね。 不知火は最後の砦。 抜かれるのは無いですから」
「ところで保科殿、春日山からの次の増援はいつ頃着かれますか?」
「……………」
援軍は俺らで最後。
そう告げる事は出来ない。
不知火城の士気に拘わる。
「現在、北と東から魔王軍が侵攻してきています。 尚江、柿崎の両名がそれを押し返し次第、こちらに向かう手筈になっています」
北と東は、山を挟んでいるため、魔王軍の進軍は緩やかである。
だからこそ、この越州の入り口にあたる不知火城はここまで激しい攻撃を受けているのだ。
かといって不知火に兵を送ると東と北から一斉に魔王軍が動き出すのは明白。
だから上杉本隊は動けないのだ。
あまりうまい言ではない。
遠まわしに援軍はこれで打ち止めといっているようなもの。
いっそ、大ばくちのホラを吹いてみるか。
「尚江金次に起死回生、必勝の策がある」
「どのような?」
「それは申し訳ないが実行まで詳細を語るわけにはならんのですよ」
「なぜ?」
「確実に上杉軍内部にスパイがいるからです」
吉江氏は目をパチクリさせる。
「ま、まさか……。 上杉に限って」
「残念な事にスパイがいるのは事実ですよ。 でなきゃ説明がつかない事が多々あります。 そもそも、先代の無念……、あれも現当主謙信公に内密に面会に行った時に起きた悲劇であることは吉江殿も承知でしょ?」
吉江氏は考え込む。
「敵の魔王軍の諜報力は天下一品です。 それは認めましょう。 だからこそ上杉の命運拘わる大事な策を気楽に口外できない旨、理解頂きたい」
「むむむ……」
「ただ、これだけは言っておきましょう。 策が成るかどうかは不知火城が落城するとならない、と。 上杉の命運はこの不知火城にかかっているんですよ」
「………なるほど。 上杉の命運は我々の働き次第というわけですな」
「左様ですよ」
自分の口元がニヤリと緩みそうなのを自制する。
事実、この不知火城にも魔王軍のスパイがいるのは間違い無い。
俺の大ボラをどこまで鵜呑みにするかによって今後の不知火城防衛戦に大きく左右するだろう。
諜報能力の高さを慢心していてくれれば、俺の勝ち。
諜報能力で得た情報を拾捨する能力が高ければ魔王軍の勝ち。
どう転ぶかは魔王軍次第だが、絶望的戦況に一縷の望みが出来ただけ善しとしよう。
味方も騙しているが、勝てば官軍のことわざもあるように要は勝てばいい。
実際、春日山もただ無為に時間を過ごしているわけではない。
金次や桜姫の事だ。
なにかしらの打開策を試行錯誤しているだろうし、春日山に動きが全く無いわけでもない。
俺如きの手のひらで踊るがいいさ。
仕様変更したのかな、携帯投稿の時は……。
文頭にスペース入れても投稿後にスペースが入らないのは何故だろう……




