第一章44話 最強の最後
竹多を継ぎ、早幾許か……。
家臣や領民を守る為、強くなるしか生き残る術がなかった時期。
気付けば竹多を人はこう呼んでいた。
「甲州竹多軍団は倭国最強軍団」
思えば最強の二文字に踊らされた人生だったかも知れん……。
信用出来る部下はいるものの、信頼できる友はいなかった。
言うなれば孤独な生涯……。
最強たるもの弱みを見せるわけにはいかなかった。
孤独であることを、嘆くわけにはいかなかった。
ワシが竹多信玄である限り……。
「無念です、御舘様!!」
悔し泣きをする家臣たち……。
「御舘様、しっかりしてください! 御舘様!!」
「竹多には、竹多にはまだ御舘様がまだまだ必要なのです!!」
策は成った……。
家臣らは良い働きをした……。
魔王軍の尖兵である、明智・徳川連合に完全勝利を上げた。
唯一の失策は、ワシの腹に撃ち込まれた凶弾。
「みなのもの……、武士たるもの、無闇に涙を流すものではない……。 これは天命なのだ」
今河公方が逝き、斉藤の蝮が逝き、伊達の子倅が逝き、次はワシの番か……。
天命とはいえ、納得はいかん……。
悔しいかな。 ワシの命の灯火はもうじき潰えるであろう。
「誰ぞ……」
「は!!」
泣きっ面の家臣……。 目がかすんで誰だかわからんが、こやつに託そう。 ワシの意を……。
「上杉に、庇護されてる、神子のお嬢ちゃんに……、伝えよ」
「……は!!」
心残りはあの純粋無垢な神子……。 遥のお嬢ちゃんを残して逝かなければならぬこと……。
ワシが唯一、本音を漏らした、あのお嬢ちゃん……。
今思えば、心許せた奴はあのお嬢ちゃんだけだったな。
「信玄のおじちゃん、こんちは」
「む……。 神子のお嬢ちゃんか。 また修行をさぼってきおったな」
そういいながら、ワシは神子のお嬢ちゃんが来てくれて嬉しいのか、思いっきり破顔し、茶菓子を振舞う。
「だって、ヨネさんの話退屈なんだもん」
神子のお嬢ちゃんは、茶菓子に遠慮なく手を伸ばし、お茶をすする。
「ならワシがおもしろい話をしてやろう。 今日はどの話にするかな」
本で仕入れた知識や、人から聞いた逸話。 自分が童だった頃の思い出話。
どの話もニコニコしながら聞いていた。
楽しい、愉快な時間。
この竹多信玄を最強と畏怖しない小娘……。
近所の翁におもしろい話を聞きにきたような表情で、ワシの部屋に唐突にやってきては、ワシに話をねだる。
竹多の当主となって長い長い時の中、唯一優しい爺になれた時間だった。
魔王を討つ神子。
自らの命を糧に魔王の魂を相殺させし、禁呪を学ぶ神子だと………。
ワシは認めん……。
お嬢ちゃんの命一つでこの倭国が安寧?
腐れ坊主め。
世迷言を言いやがって………。
お嬢ちゃんに守られた倭国にいながら、ワシは誠の武士と名乗れるだろうか……。
否。
断じて否!
ワシは甲州侍、竹多の当主!!
一人の娘に助けられなければ安寧を得ること適わぬなら侍とは言えぬ!
我々は最強の竹多軍団!
神子などいらぬ!
我々は倭国の安寧を守る為に生まれてきた者!
「信玄のおじちゃん、どうしたの?」
お嬢ちゃんに声をかけられ、我に返る。
「いやな、なんでお嬢ちゃんが神子なのかと、自問していたよ」
「顕如さんに呼ばれたからだよ」
「……む」
異世界の姫、だったか。
異世界の者の命は軽い。
そんな馬鹿げた論法だから、このお嬢ちゃんは神子なんだ。
「お嬢ちゃん、ワシから顕如僧正に話をしておく。 ワシの養女にならんか?」
「へ?」
「お嬢ちゃんは、この世界とは縁もゆかりも無い者。 だというのにこの世界の為に命を捧げるのは不憫でな」
「…………」
「ワシに任せておけ。 お嬢ちゃんさえ頷けばその場でわしの娘じゃ。 娘を無碍にする親がいるわけがないだろう」
「信玄のおじさん……」
お嬢ちゃんはワシの目をまっすぐと見つめ笑った。
「ごめんね。 私は、神子として呼ばれた以上、神子なの。 それに私が逃げちゃったら、他の誰かが私の代わりに神子になっちゃうんだよ。 それだけはダメ」
「…………………」
なんという自己犠牲か。
愚かな……。
愚かで、純粋で、まっすぐで……。
「ちょっと、信玄のおじさん!?」
気付くとワシは目から涙が流れていた。
この甲州の虎と呼ばれたワシが、涙……。
いつ以来か、このワシが涙を流すなどと……。
「お嬢ちゃんの意思、受け取った……。 ならば、神子が不要な世を築こう。 それが甲州武門の頭領、竹多信玄の生き様よ!!」
「?」
良く意味がわかっていないのか、お嬢ちゃんはキョトンとする。
見ていろ、最強軍団の頭領は誓う。
神子の不要な世界の創造を…………。
だと、言うのに……。
失態。
なんたる失態!!
これだけは、伝えねば……。
お嬢ちゃんに、これだけは、伝えねば……。
「死ぬな……よ、お嬢ちゃ……ん」
もう、何も考えられなくなる。
腹に開いた穴が恨めしい。
ワシは最強……。
最強………の、竹多が頭領………、竹多……信………玄………。
「御舘さまああああああああああああああああああああ!!」
倭国最強の軍団、竹多軍団を統括する、甲州の虎こと、竹多信玄は、味方川原で、織田の尖兵、徳川・明智連合を易々と破るものの、進軍をやめ、躑躅館へ引き返していった。
後に、竹多信玄、病にて世を去るという報が倭国中に駆け巡る。
倭国最強の男が、黄泉へと旅立った……。
ひとまずストック終了っす。
次の更新は、次にネカフェにいった時。
いつやねん、という突っ込みがきそうですが……………。
最近は携帯で小説を書けるほど充電が持たないし、なにより携帯がまもなくとまる(払えよ)
まあ、パソコンで小説書いた方が早いし、パワーボタン連打とかしないんで、こういう方式採用しとります。
よって次の更新は未定だったり……