第一章41話 手抜川の戦い2
上杉謙信率いる上杉軍2万。
柴田勝家率いる魔王軍6万。
両軍は手抜川手前の平原で対陣していた。
「銀太殿?」
謙信は銀太を見る。 銀太は頷いた。
「左翼の指揮は金次。 右翼の指揮は柿崎さんにお願いします」
「承知!!」
「御意!!」
金次と柿崎は一礼し、指定された箇所に向かっていく。
「銀太殿。 銀太殿はどうするの?」
「俺は本陣にいるさ。 あっちはお嬢がやってくれるよ」
「銀太殿の最大の妥協点ってとこ?」
謙信は可笑しそうに笑った。
「本陣より断然あっちにいる方が安全だしね。 それに予想通り、柴田勝家は峰矢の陣を敷いてきた。 上杉軍の中で一番危険な場所はここ、中央部。 んなとこにお嬢を置いとくわけにゃいかないさ」
「私ならいいんだ?」
「だから俺と爆矢隊が本陣にいるんだろ。 保科爆矢隊の勇名は都合がいいことに倭国中に知れ渡っているしな……」
まるで勇名であることが都合がいいと言わないばかりに、銀太は自分の隊を謙信に語る。
「峰矢の陣……。 一点突破に優れた突撃の陣形か……。 向こうで柴田勝家は上杉の陣形を見てなんて言ってるか簡単に想像つくね」
「柴田勝家が用心深い男なら、策を見破られる危険性はあるだろうが……な。 でもこの世界の柴田勝家は猪武者。 数に勝る上、陣形の優劣を見て自身にあふれている事だろうな」
魔王軍が峰矢の陣を敷いているのに対して、上杉軍は横長の陣を敷いている。
横長の陣は包囲に秀でた陣形ではあるが、横に長ければ長いほど層が薄くなるため防御力は無く、峰矢の陣と相対するには格段に分が悪い陣形だった。
日がまもなく落ち、漆黒の時間がやってくる。
「さて、行くとしますか」
「そうだね。 全軍前進!!」
謙信は軍配を突き出した。
それを見た太鼓番は大太鼓を叩く。
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
「上杉軍、前進してきました!」
「横長の陣の状態で突っ込んでくるか……。 陣形替えをしている無陣の隙に突っ込んでやろう思うたが」
勝家はニヤリと笑う。
「捨て戦か、それとも捨て鉢か。 と、なると、我が軍を囲み、包囲する戦法で来るか。なら包囲される前に中央を決壊させてやるまで。 我らも前進!」
両軍は日が沈む瞬間に激突した。
「爆矢隊、休まず撃ちまくれ!! 尚江軍、柿崎軍が連中の横っ腹を付き易い様に進軍速度を落とさせろ!!」
銀太の指揮で次々と爆矢が魔王軍に降りかかる。
ドカーーーーーーーン
ドカーーーーーーーン
ドカーーーーーーーン
爆矢の矢先が魔王軍先陣に着弾し爆音を立てて破裂する。
「むぅぅ、あれが噂に聞く保科銀太の爆矢か! お返しだ!! 鉄砲隊、撃て!!」
パパパパパパパパパパパパパパパパ!!
保科爆矢隊に鉄砲の弾が集中砲火する。
鉄砲の弾を喰らい、バタバタと倒れていく爆矢使い。
「怯むな、鉄砲隊は無視だ!! 突っ込んでくる騎馬隊に爆矢の雨を浴びせろ!!」
鉄砲の弾を受けつつも保科爆矢隊は騎馬隊に爆矢を浴びせる。
戦場は鉄砲と爆矢の火薬の臭いで充満する。
「そこなる将!!」
一騎の騎馬武者が銀太に声をかける。
「上杉客将、保科銀太とお見受けする!! 我は織田軍武将佐々也雅!! 尋常に勝負いたせ!!」
「佐々也雅? 小物がよく吼えたな。 いいだろう、相手になる!!」
銀太は騎馬に乗り、薙刀を携えて佐々也雅に向かっていく。
「覚悟!!」
佐々也雅は長槍を銀太に向かって振り下ろしてくる。
先見の目を持つ銀太は、長槍の軌道を読み、なんなく回避しつつ、佐々也雅が動く予定の方向に薙刀で突き出す。
「ぐほ!?」
銀太の薙刀は佐々也雅のわき腹に突き刺さる。
銀太は佐々也雅のわき腹に突き刺さった薙刀を引き抜くと、佐々也雅はその場で馬から崩れ落ちていく。
「爆矢隊、南南西に転進!! そこの葦の草むらを狙撃せよ!!」
銀太の指示で西を向き、突っ込んでくる騎馬隊を狙撃していた爆矢隊は南南西に転進し、誰もいない葦の草むらに爆矢を放つ。
ドカーーーーーーーン!!
ドカーーーーーーーン!!
「うわああああああああああ!?」
「ぎゃあああああああああああああ!!」
爆矢の着弾点で断末魔を上げながら鉄砲を持った兵が吹き飛んでいく。 魔王軍の伏兵を見抜いての攻撃だった。
「爆矢隊、西に転進!! 騎馬隊の狙撃だ!!」
再び、騎馬隊に向かって爆矢を撃つ。
やがて、尚江、柿崎両軍が魔王軍の側面に接触。
「突撃せよ!」
「横っ腹ぶっ飛ばせ!!」
両隊長が両側面より突撃を命じた。
「横からの敵は無視せよ! 全軍前進あるのみ!!」
柴田勝家は側面からの攻撃を無視し、尚も前面に立ちふさがる保科爆矢隊一点集中で攻撃する。
「気張れ、爆矢隊!! 潰れんなよ!」
しかし、爆矢の破砕力が強大でも多勢に無勢。 魔王軍騎馬隊は保科爆矢隊に接触。 圧倒的数による圧力と、爆矢使いといっても弓兵。 白兵戦に持ち込まれれば騎馬隊が圧倒的に有利だった。
「これ以上、無理か……。 退け! 退け!!」
銀太は撤退を命じた。
撤退命令を聞いた爆矢隊は東に転進し、全速力で駆け出す。
「追え! 追撃だ!!」
柴田勝家は撤退する保科爆矢隊を追撃する。
一方――――。
撤退を開始した保科爆矢隊を見て金次は暗くなり始めた空目掛けて一本の火矢を放った。
謙信はその火矢を見て言った。
「撤退よ、全速力!!」
銀太の後方に控えていた上杉本軍は東に転進し、手抜川を渡って撤退していく。
その光景は追撃する柴田勝家にも見えており、勝利を確信した。
「謙信が逃げるぞ! 捕らえよ!!」
保科爆矢隊も手抜川を渡る。
「柴田様、お待ちください!!」
保科爆矢隊を追いかけて手抜川を渡ろうとしていた勝家に前田利家はそれを制止した。
「どうした?」
「この川、変です。 川の中央部でも川底が見えております」
「それがどうした?」
「この川の規模にしてはあまりにも水位が低すぎます」
「はっはっは、そんなことか。 考えすぎだ、犬千代。 今は冬の季節。 水位が低くてもおかしくはない。 さあ、追撃するぞ!!」
柴田勝家は手抜川を渡り出した。
「ん?」
川の中心部に赤い灯りが灯っていた。
「なんだ、あれは?」
柴田勝家はその赤い灯りに向かって近づいていく。
そこには大きな提灯が立っていた。
「これは……、なんだ?」
前田利家がその提灯の周りをグルッと回ったり触ったりして調べる。
「特に変哲もない提灯ですね。 何かの策か?」
「策か……。 爆矢といい、これといい、いつから上杉は策を弄する腰抜け集団になったんだ? いいだろう、これが策ならば破壊してしまえば良い」
柴田勝家は提灯を蹴飛ばした。
提灯は倒れて水に浸かり明かりが消える。
「はっはっはっはっは。 何も起こらんぞ」
柴田勝家は倒れた提灯を見ながら豪快に笑った。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ん? 何の音だ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
前田利家は顔面蒼白になって言った。
「これは、水の音です!!」
「な!?」
柴田勝家は音のする川上を見る。
大量の水が鉄砲水となって一斉に押し寄せてきていた。
「全速力で陸に上がれ!!」
柴田勝家は騎馬を飛ばし、手抜川を駆けていく。 柴田勝家の乗馬は見事な名馬で、間スレスレで陸に上がれた。
しかし、陸に上がった柴田勝家の見た光景は――――。
「お、おおおおおおおおお…………」
濁流に巻き込まれて流されていく部下たち。
6万の軍勢が一瞬で全滅してしまった瞬間だった。
柴田勝家は膝を地面につき、うな垂れる。
「な、なんたることだ………」
「これは上杉の完全勝利だな」
柴田勝家が顔を上げると銀太が立っていた。
「この策は貴様が考えたのか?」
「うんにゃ、俺が考えた策じゃない。 土嚢の計、とかいう名前だったかな。 俺の世界では知ってる人は知ってる有名な策だ」
土嚢の計とは、中国の前漢の大将軍である韓信が編み出した策で、楚の大軍を打ち破った際に使用した策である。
柴田勝家が倒した提灯は敵軍、即ち柴田勝家たちを提灯に注意を引きつかせて提灯に注目を浴びさせる事。 そして…………。
そして提灯を倒したのは川上にいる水をせき止めている堰を壊す別働隊に合図を送ってしまっていたのである。
「別の世界? …………そうか、そうだったな。 お前は確か神子の家臣。 お前も本願寺が別世界から召喚した奴だったか」
「降伏しなよ……。 それともたった一人でかかってくるか?」
「ふ………。 わっはっはっはっはっは。 俺は織田が筆頭家老、柴田勝家!! 降伏は無い!!」
柴田勝家は刀を抜く。
「保科……銀太。 俺を舐めるな。 たった一人とはいえ、貴様らを皆殺しにする力はある。 信長様より頂戴したこの肉体が………アルカラナァァァァ!!」
柴田勝家の肉体が膨れ上がっていく。
柴田勝家が着用していた大鎧が裂け、巨大化する。
「フシュウウゥゥゥゥゥ、フヌゥゥゥゥゥウゥ」
「大猿か……。 そりゃ羽柴秀吉かと思っていたがな」
銀太は大猿と化した柴田勝家を見ても一向に動じた様子はなかった。
「信長の眷属風情が、何を付け上がるか………。 魔族化しても尚、俺と対峙を選ぶか」
銀太は冷めた目で大猿を見上げ、興ざめと言わんばかりに言い放つ。
「我に牙を向けるを選ぶ愚と無知と愚鈍、黄泉で後悔するがいい」
銀太は右手を天に掲げ、下に向かってゆっくりと振り下ろす。
銀太の手が地面を指すと同時に大猿の首は胴体から離れ、ゆっくりと胴体が倒れる。
銀太は無感情な顔で倒れ行く大猿を見つめていた。
その光景を少女が見ていた。
「銀………ちゃん?」
さらに違う位置で、黒いワンピースで大きな鎌を持った少女が、鎌をボトリと落として、注視していた。
「……………閻魔大王クラスの魔力? いや、閻魔様以上の……。 銀太さんって………」
死神のティックスはその光景を見て戦慄していた。
土嚢の計はイ水の戦いで漢の韓信が楚の龍且に仕掛けた有名な計です。
ファンタジー戦記でなぜに土嚢の計とかいう意見がくる前に言い訳たらしく解説を。
銀太は土嚢の計を某有名な歴史長編漫画家の項羽と劉邦を読んでいるから知っています。
というか、この人の漫画と、手塚治虫のブラックジャックは中学時代、図書館にあり雨の日は取りあえず、漫画だから読んでたふじぱんです。
そもそも、物書きの癖に成人するまで本という類は漫画と雑誌にしか興味ありませんでした。
そんな奴が書いてます、どうぞ宜しく。
でも、今は読みますよ?
携帯小説は大好物です。
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