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第一章40話 手抜川の戦い1

 魔王軍、動く。

 この報は竹多、上杉両家に届けられた。


「竹多領、並びに上杉領に向かって魔王軍が侵攻を開始しました」


「同時に上杉、竹多を攻めるか……」


 信玄は地図を睨む。


「同時に侵攻してくる以上、上杉に援軍を求めるわけには行きませんね。 北條に援軍を求めますか?」


「敵の大将は?」


「総大将は徳川家康。 副軍として明智光秀で御座います」


「魔王本人は来ないんだな?」


「はい。 魔王は岐阜にいるようです」


「上杉の動きは?」


「討って出るようですね」


「はっはっはっはっは。 そうであろう、そうであろう」


 信玄は上機嫌に豪快に笑った。


「我らも討って出る。 上杉が討って出るのなら、倭国最強と唱えられている我らが城に閉じこもっていては上杉に笑われるわ。 出陣じゃ。 家康の狸や、光秀の能面如き、精強竹多が打ち崩してくれる」



 一方、春日山……。


「ダメです!!」


「いやね、気持ちはわかるけどさ。 春日山にいてくれたほうが助かるんだけど……」


 金次と銀太は戦の前に困難な壁にぶつかっていた。

 桜と遥が二人揃って鎧甲冑を身につけ、出陣する気満々なのだ。


「桜姫、あなた、第四次山中の戦いでご自身が何したか、覚えてらっしゃいますよね? 竹多信玄本陣に一人で突っ走り、事もあろうか信玄に一騎討ちを挑んだり、将らしからぬことをやっちゃったのはどこの誰ですっけ?」


 金次はとげとげしく桜の出陣を前科を混ぜて諌める。


「お嬢、御舘の乱のとき見たく勝手についてくる気だろ。 危険なんだから辞めろ」


 銀太も銀太で苦々しい顔をしながら、遥を止めようと試みる。

 遥と桜は声を揃えて言った。


「「主命です」」


 しかし二人は負けじと反論。


「桜姫、いいですか? この戦いは御舘の戦いとは違い、勝率は五分です。 そんな危険な戦で姫が万が一討ち取られたら上杉はどうなるんですか?」


「お嬢、これは遊びじゃないんだから。 そもそも俺が上杉にいる理由はお嬢を守るためにいるんだから。 守らなきゃいけない人を危険とわかっている場所に連れて行くのは普通、ないだろ? それにお嬢は足手まといにしかならないんだから」


 桜と遥は恨めしく金次と銀太を見る。


「金次、私は上杉の頭領ですよ。 上杉の頭領たる者、兵の先頭に立ち、兵の前を進むのが永生からの伝統。 私が行く行かないでは大きく戦況が変わると思いますが?」


「私、自分の身は自分で守れるよ。 それに私だって役に立つよ」


「お嬢は桜姫と違って野蛮お転婆じゃないんだから、大人しく春日山で待ってなさいよ」


「ちょっと、銀太殿?」


「そりゃあ、桜姫は女の身でありながら敵を千切っては投げ、千切っては投げと蛮勇誇る猛者で、女に生まれた事事態が間違いの人だけどさ、お嬢は至極真っ当な娘なんだから」


「………蛮勇誇る猛者? 女に生まれたこと事態間違い?」


「そうそう、金次の気苦労もわかるな。 こんなお転婆姫押し付けられて。 俺なら即出奔だな」


 銀太は調子に乗ってペラペラ喋り捲る。

 

「ぎ、銀太殿。 気持ちを理解していただけるのは有難いです。 有難いので、骨は拾います」


「んい?」


 瞬間、銀太の真横に薙刀の刃が横切る。


「!?」


「やっほう、銀太殿。 覚悟できてる?」


 桜の顔はニコニコ笑っているが、目が据わっている桜の顔があった。


「な、ナニガデスカ?」



 結局、金次と銀太はなし崩し的に言い負かされ、桜と遥を連れて行くことになった。


「銀太殿………」


「ああ、言いたい事はわかってる。 わかってるよ……」


 二人はため息をついた。


「そこ! コソコソ話してる暇はないよ! 軍儀の最中!」


 桜は棒で地図の置かれている地図を叩く。


「金次、状況の説明を」


「はい。 敵魔王軍の総大将は柴田勝家。 彼の率いる軍勢は八万。 こちらは二万です」


「八万……、四倍の兵力差か。 正面から当たるのは難しい所ね」


「まあ、八万中二万は途中で脱退するでしょうね。 二万を率いるのは副軍の羽柴秀吉。 羽柴秀吉は柴田勝家の意見をことぐ如く反論し、かなり険悪となっているようです。 うまくいけば羽柴軍は離反するでしょう」


「……それでも三倍差か」


「金次、策がある」


「銀太殿、どんな策が?」


「俺の知ってる柴田勝家のイメージは猪突猛進。 これは間違いない?」


「まあ、猪武者であることは間違いないですね」


 銀太はニヤリと笑う。


「みんな耳を貸して……。 まずは…………」




 一方、柴田本陣。


「この部隊をこの様に包囲し、春日山に……」


「あいや、待たれよ。 それは机上の空論に過ぎませぬ。 その様な作戦では無駄に兵を殺すようなもんですな」


「猿! 貴様はワシの方策にことぐごとく反論しよって! ワシは信長様より総大将を命じられたのだぞ! 黙ってワシの言う方策に従え!」


「そうは言われましてもな。 勝ち戦を負け戦にするための手法に過ぎませぬ。 正直言ってワシは命が惜しいですからな」


「ええい、もう良い! ワシらだけで上杉に当たる! 貴様はとっとと軍をまとめワシらの勝ち戦を見物してれば良いわ!」


 秀吉は残念そうな顔をして


「左様で御座いますか。 ならばワシは後方に下がり柴田様の采配を見物させていただきましょう」


 そういって、席を立った。


(愚か者め……)


 秀吉は含み笑いをして、陣から去っていった。


「お見事です、殿」


 黒田桔梗は秀吉に話しかける。


「しかしのぅ、一応ワシの責任は免れたが、しばらく大殿の機嫌はわるいであろうのぅ」


「まあ、仕方ないでしょう。 そもそも大殿は本気で勝ちを期待はしてないでしょうし」


「ん? 期待していない?」


「この戦で大殿は上杉、竹多の力量を測ろうとしているのでしょう」


「ふむ……。 大上段であるな。 しかし柴田殿が率いる軍勢は上杉の3倍。 これで負けたら、柴田殿の発言力は落ちる。 ワシにとってはいいことよ」


 秀吉は笑いながら扇子を仰いでいた。



 場所は再び戻って春日山―――。


「竹多軍の真田昌幸様より書状が届きました!」


「真田昌幸殿から? 一体なんだろ?」


 金次は書状を受け取り、読む。


「……………………」


「真田殿はなんて?」


「魔王軍を破ったその足で岐阜で合流し、岐阜城を共同で攻撃を提案しておりますね。 いかが致します、姫?」


「竹多はもう魔王軍を破ること前提で話を持ってきているのね……。 あいかわらず信玄さんは自信家」


 桜は少し考え込んだ。


「姫、考える必要はありますか?」


「金次はどうおもうの?」


「そりゃ、答えは決まっています。 その為の室町同盟ですから」


「手抜川で負ける訳にはいかないよ?」


「銀太殿の発案したあの策ならきっと上手くいくでしょう……」


 伝令が走ってくる。


「申し上げます! 出陣の準備が完了致しました!」


「わかった」


 金次は桜を見る。 桜は頷き、


「出陣です」


 伝令は一礼し、走っていった。

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